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2018/1/15 汐月陽子:演劇シチュエーションカード「劇札」レビュー

應典院寺町倶楽部との協働により、モニターレビュアー制度を導入しています。1月15日(月)から17日(水)の3日間に渡って開催された「陸奥賢と愉快なコモンズ・デザインたち」。コモンズフェスタ発祥の6コンテンツがそれぞれ敢行されました。今回は15日に実施の演劇シチュエーションカード「劇札」について、應典院寺町倶楽部会員の汐月陽子さんにレビューを執筆していただきました。


演劇公演のチラシを見て、どんなストーリーなのか想像もつかないのに、ふと興味を惹かれて劇場に向かうことがある。ふだんお芝居を観ない人でもきっと、CDショップや書店で思わず「ジャケ買い」してしまったり、POPや帯のコピーを読んでなぜか「買いだ」と確信し、中身を大して確かめずに買ってしまったりしたことが1度や2度はあるだろう。

たまたま目にしたチラシに刺激されて、劇場に向かうという行動に至るまでには「あいだ」がある。この「あいだ」をとことん味わい、楽しもうという遊びが、観光家の陸奥賢氏が考案した「劇札」だ。

「劇札」とは何か。それは、花札のような見た目をしている。こちらからダウンロードできるようになっているので、実際に見ていただくのが早いかと思うが、ゆるい感じの鹿や桜、鳥などのモチーフが描かれた札に、陸奥氏いわく「劇的なシチュエーション」を表わす言葉が書いてある。

「記憶喪失になる」
「出会ってしまう」
「告げられる」
「むすばれる」
「犯人だった」

などなど。うん、劇的ですね。ベタと言ってもいい。

この札と、演劇のチラシを使って、妄想の物語を作っていく。4人で1つのグループになり、「場」に置かれた演劇のチラシを見ながら、1人1枚ずつ「札」を「山」から引いていく。最初の人が、自分の引いた札のシチュエーションを、チラシの内容に強引にくっつけて、くっつけたストーリーを他の人の前で語る。

「『悟る』!……えっと、悟るのは、この(チラシの中の人物を指差しながら)男の人です。この人は、かくかくしかじか……」

2人目以降の人は、前の人が話したストーリーを崩さない範囲で、自分が引いた札のシチュエーションを新しく物語に加えていく。時間を追うごとに増えていく設定、迷走する物語。公演タイトルに、意味の取れない横文字などが含まれていると面白い。3人目くらいの人が唐突に「この、エピメテウスというのは、この女性が飼っている犬の名前です!」などと宣言したりする。笑いが起こり、そこからさらに物語は進む。

そうして、みんなで四苦八苦しながらどうにか捻り出した物語は、どういうわけかほとんどの場合、哀しいくらい不条理なものになる。「劇札」体験を終えたわたしは、哀しさを飲み込みながら、この遊びにおいて「物語として優れたものを作る」ことは大して重要ではないのだと気付いた。劇札の面白さは、「中身が少ししか分からないものを、みんなで『ああでもない、こうでもない』と勝手に推測するおかしみ」にあるのだろう。冒頭で、チラシを見てお芝居を観にいくことをジャケ買いに例えたが、ジャケ買いというのは一目惚れによく似ている。ぱっと目にしたものを、なんとなく好ましく思い、もっと知りたいと思うこと。

チラシを見て劇場に足を運ぶように、ヒトは、気になる人に自分から声を掛けてみたりすることがある。声を掛ける前に「こんなふうに話し掛けたらあのひとはどんな反応をするかな?」「何の話をしたら喜んでもらえるかな?」と、いつの間にか思いを巡らせたりもする。蓋を開けてみたら、自分の想像とは全然違っていて、がっかりしたり、ますます好きになったりして、そんなふうに少しずつ他人を知っていく。妄想するのはこちらの勝手だし、ギャンブルだけど、楽しくもある。

「劇札」はひょっとしたら、演劇により深く恋をするために作られたツールなのかもしれない。「劇札」には、あらかじめ内容の決まった札だけではなく、自分の経験したシチュエーションを自由に書き込める「白札」もある。自分の経験が別の物語に組み込まれたとき、その経験は、それまで自分が捉えていた意味とはまた少し違ったふうに見えてくる。そうして、自分の物語と、自分の外にある物語の境目が、「あいだ」の世界でゆっくりと溶けていく。

 

〇レビュアープロフィール
汐月陽子(しおつきようこ)

1984年東京都生まれ。立教大学法学部卒。学生時代から大阪の貧困地域のフィールドワークなどに関わり、現在は北区在住。出版系デザイン会社の企画営業、地域系アートプロジェクトのディレクター見習い、LUSH JAPAN Co.,Ltd. チャリティ・キャンペーン担当などを経て、【当事者性を持った個人の表現の現場を支えること、その表現を広く社会に接続すること】に関心を持ち活動を展開しています。應典院寺町倶楽部会員。コモンズフェスタ2018「(circle)」ディレクター、「Little Voice, Little Pressー潜り、顕すー」企画・編集。

人物(五十音順)

汐月陽子
(應典院寺町倶楽部会員)