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2018/1/7 坂本涼平:「應典院を俯瞰する~レビュアーから見た應典院寺町倶楽部~」レビュー

應典院寺町倶楽部との協働により、モニターレビュアー制度を試験的に導入しています。1月7日(日)に應典院本堂にておこなわれた、「應典院を俯瞰する~レビュアーから見た應典院寺町倶楽部~」。2017年7月より導入された應典院寺町倶楽部モニターレビュアーの皆さまにお集まりいただきました。今回は劇作家・演出家の坂本涼平さんにレビューを執筆していただきました。


 

僕たちは語った、自分が見たものを、見たまま感じたままに。そうすることでいつしか、その「語り方そのもの」が見られるものとなった。見るものが見られるものになる転倒の中で、僕たちは應典院という場の未来を思った。

2017年7月から始まった、應典院で行われる催事のレビュアー制度。今回はそのレビュアーが集まって應典院の状況を俯瞰するという。当初、筆者はこの企画について、どちらかと言えば懐疑的だった。始まって半年、それぞれのレビュアーがようやく数本のレビューを書き終えたというタイミングである。果たして、「應典院を俯瞰する」というタイトルにそぐうような何かが見えてくるのだろうかと、疑わしい思いがしていた。

結果として、筆者が想定していたような、ある意味で遠大にすぎる目論見は達成できたとは言えない。しかし、「これから應典院を俯瞰していく視座」が生まれた事は、確認できたように思う。それも、それぞれに個性を抱えた、複数の視座が。

今回の企画の一番の成果は、レビュアーたちの眼差しの差異がよりいっそう明らかになったことだと思われる。一見して、文筆を得意とする、それも劇団主宰に偏ったレビュアー陣の構成は多様性に欠ける。しかし、いざ一堂に会してみれば、服装からして誰一人同じスタイルの人間がいない。例えば、実際にレビュー対象になった催事「詩の学校」。墓地で詩作を行うという内容だったのだが、参加した4人のレビュアーの反応が異なっていたことが語られた。墓地という環境に戸惑う者、むしろ親しみを持ってその騒々しさについて語る者、ことばを精選する者、そのまま書こうとする者、そのイベントに対する接し方は様々であったのだ。また、レビューというものの捉え方自体についても、違いが見られた。あるレビュアーは、一つ一つのイベントに対する二次創作的な「作品」だと語り、また別のレビュアーは、應典院の「広報」に近いものだと言った。日記のような文体に特徴付けられるレビュアーもいる。

それはそのまま、多様な嗜好を持つ読者へのアプローチの幅広さを意味する。そのような、読者へのアプローチ、ひいては應典院に触れる・触れてほしい人々へのアプローチにも話は及び、これに関しては、一つの共有できる目的が見いだせた。それは、高尚に思われがちなお寺でのイベントを、「特別なもの」・「非日常的なもの」から「俗なるもの」へ下ろすことである。どのレビュアーも、見たもの感じたものをそれぞれの流儀で咀嚼していることには変わりない。そうすることで、非日常体験を日常の延長へ接続していくことが、このレビュアー制度の意義なのかも知れない。

そう考えたとき、應典院にとってレビュアーという存在は、まさに「眼差し」であるように思う。應典院という場そのものについて話が及んだとき、應典院を「二重の意味での劇場」と評したレビュアーがいた。應典院は、劇場として、また、寺子屋的なカルチャーセンターとして今後も存在し続けていく。そこに人々が集まり、語らい、それぞれ何かに触発される。そのように、人生を「劇的なもの」にする、人々にとって自身の価値観を転換させるような体験を提供する場として、「メタ劇場」の機能を應典院が発揮していく。だとすれば、その「メタ劇場」で演じられる劇の「観客」が、やはり必要になるだろう。そのモデルケースが(あくまで「一例」としてであろうが)、レビュアーという存在なのかも知れない。應典院の形をよりわかりやすくするための、「見られる」観客。そうであるなら、きっとレビュアー各々が應典院に向ける眼差しは、できるだけ違っていて、時には批判的である方が望ましいだろう。いまの應典院がどうであるかにかかわらず、これからの應典院のために。

 

〇レビュアープロフィール

坂本 涼平(サカモト リョウヘイ)

劇作家・演出家。1985年大阪生まれ。芸術学修士。研究テーマは「悲劇論」。
2009年に劇団「坂本企画」を立上げ。「ほんの少し、ボタンを掛け違った人間の悲劇に寄り添う」ことをテーマに掲げ、非日常的な世界での静かなセリフのやりとりに、社会に対する寓意をしのばせる演劇を作り続ける。
ロクソドンタブラック(現Oval Theater)主催「ロクソアワード2012」スタッフワーク部門最優秀賞、演出部門三位、総合三位受賞。

〇レビュアー出演等情報

2018年2月23日〜25日
應典院本堂ホールにて、記憶と人の死をテーマとした演劇を上演。
坂本企画 15 『寝室百景』
詳細は「坂本企画の舞台裏ブログ」にて。(http://blog.livedoor.jp/tottengeri/

 

人物(五十音順)

坂本涼平
(劇作家・演出家)