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2018/2/19 二朗松田:映画『あなたの旅立ち、綴ります』トークショー付特別試写会 レビュー

ハリウッド映画「あなたの旅立ち、綴ります」の試写会が2月19日(月)、應典院本堂で開催されました。アメリカ版終活映画とも言える本作ですが、往年の大スター、シャーリー・マクレーン主演のもと、死と生を考えながらも明るく元気にご縁に気づく、優しいハートフルストーリーとなっています。今回はデザイナー・脚本家・演出家の二朗松田さんにレビューを執筆していただきました。


いきなり余談から入りますが、
應典院で映画を観るのは二回目でそれも随分久しぶりの事で、
前回は2005年、石井聰互(現石井岳龍)の「鏡心」でした。

当時は何故あの石井聰互の新作が應典院で上映されるのか分かってませんでしたが、
應典院ご住職はかの日本映画史最重要大傑作「狂い咲きサンダーロード」
そして「爆裂都市」を石井監督と共に作った方なんですよね。
そりゃ今の應典院の暴れっぷりキーポンロッキンっぷりもむべなるかなってなもんです。

それでは、「あなたの旅立ち、綴ります」の感想を綴ります。
ネタバレ上等で書くんで、今後観る予定の方はご注意下さい。

 

こちらは狂い咲きサンダーロードとは真逆な心温まるヒューマンストーリー。
ではあるんですが、同時にロックな反骨心もしっかりと携えた一作で。

物凄くざっくり粗筋を言うと、
元やり手広告マンの婆さんが自分に都合の良い自らの訃報を
若手ライターに書かせようとするというお話。

嫌われ者の老人が何かをキッカケに善人へと変わっていく、
または老人が死の前にやりたかった夢を叶えていく、
というプロットはそれほど目新しいものではありませんが、
この映画が他と違うのは、本人のキャラはほぼ変わらないまま、
自らの訃報の充実のために、今までやらなかった事にチャレンジし、
それらが結果周りとの融和に繋がっていくところ。
普通に夢を叶えていく、というものより必然性がある。
この基本設定のアイデアがメチャメチャ上手いですね。

そのお婆さん、ハリエット・ローラー役にシャーリー・マクレーンが抜擢。
シャーリー・マクレーンは言わずと知れたハリウッドの大女優。
80年代以降、彼女がニューエイジ思想に傾倒したこともあり、
恐らく彼女に対する世のイメージは、「変な人」なんじゃないでしょうか。
そんな「変」な彼女とハリエットの姿を重ねて見せるキャスティング。
(監督は「愛と追憶の日々」の時のキャラをイメージしてるらしいんですが、
観てないです、すみません)

ハリエットはその評判と実像に齟齬があり、
その齟齬が孤独に繋がっている、というキャラクターです。
それらをどう埋めてどう周りと接していくか、
ということがお話の推進力になっています。

そこで活用されているのがロックンロール。
ハリエットの心情に寄り添うようにロックミュージックの数々が流れます。

訃報執筆を依頼される若手ライター、アン・シャーマン(アマンダ・セイフライド)、
彼女は音楽好きで、今時アナログで音源買うし、地方ラジオのヘビーリスナーでもある。
ハリエットも同様だったが、長い間その思いを凍結しており、
それが解凍すると同時に二人のの距離が一気に縮まる。
その勢いのまま、ハリエットは夢であったDJにもなり、
イケメンDJロビンとアンのキューピッドにもなる。
(ロビンとアンが話しているのをDJブースの中から見つめるハリエット、
このシーンの演出とシャーリー・マクレーンの演技が素晴らしい!)

ハリエットの娘に会いに行く旅では、ロビンに作らせたミックスCDで
コミュニティセンターで出会った少女ブレンダと三人でドライブを楽しみ、
ハリエットの今際の際、アンとブレンダがロックで踊る中、静かに目を瞑る。

これら「音楽」を物語の軸に織り込んだ脚本構成の巧みさ。
また、彼女の不幸、世の中との断絶を
音楽媒体のデジタルへの移行と重ねてるトコとかも気が利いてる。

このように重要な役割を果たしているロックミュージック、
ただ掛かるのが、全然知らないバンドばっかりなんですよね。
キンクスしか分からなかったな。
調べると、なんでも制作費無いので
使用料の安い無名バンドの曲ばっかりになったらしいんですが、
結果それがハリエットという人物像やドラマにリアリティを与えていたように思います。

ハリエットとロビンが、キンクスはもっと評価されるべき!
って意見が一致するところオモロかったですね。
キンクスってイギリス本国では高い評価を得てるにもかかわらず
日本ではそこまで人気も無いんですが、アメリカでもそんな感じなんだなぁっていう。

監督、マーク・ペリントンは元々MVの監督として名を上げた人なので、
そもそも音楽へのリスペクトが深いんでしょうね。
また、重くなりがちなテーマをここまで小気味よい
エンターテインメント性の高いコメディ映画に仕上げているのも、
その出自が功を奏しているのかも。

この映画を観終えて、自分ならどのような訃報を望むかなぁ、
などとボンヤリ想像していたんですが、
いや、どう考えても今俺が死んだって訃報出ないよね。
ようし、これからは訃報が出るような人間を目指して頑張るぞ!
(↑何かオチをつけねばならないという強迫観念の結果)

 

〇レビュアープロフィール

二朗松田(ジロウマツダ)

デザイナーの傍ら、演劇・映像作品の脚本も手がける。演劇ユニット「カヨコの大発明」の全ての脚本・演出を担当。
2015年、脚本を担当した短編映画「ウェルテル無頼」が48Hour Film Project大阪にて作品賞、脚本賞受賞、また同作品はFilmapalooza 2016(アトランタ)、カンヌ国際映画祭でも上映される。

 

人物(五十音順)

二朗松田
(デザイナー・脚本・演出家)