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2018/2/19 仲口拓磨:映画『あなたの旅立ち、綴ります』トークショー付特別試写会 レビュー

ハリウッド映画「あなたの旅立ち、綴ります」の試写会が2月19日(月)、應典院本堂で開催されました。アメリカ版終活映画とも言える本作ですが、往年の大スター、シャーリー・マクレーン主演のもと、死と生を考えながらも明るく元気にご縁に気づく、優しいハートフルストーリーとなっています。今回は大喜利大会URRAIグランプリ運営、MCの仲口拓磨さんにレビューを執筆していただきました。


映画や演劇といった広義での「ドラマ(物語)」とは、様々な他者の人生がふいに重なり反応する。その瞬きを、切り取ったものだ。

應典院の本堂ホールでは、よく演劇作品を観ている。
客席から舞台の上、そしてその裏まで、生の人間模様に満ちている。
それら人間が発する磁場が、演劇特有の空気の共有による没入感を作っている。
正直なところ、何年経っても演劇を観に行く際、映画よりも少しソワソワする。
そこに否応なく「人」を感じるためだ。

一方で、映画館での映画鑑賞は、真っ暗な中で映像の中に切り取られた世界へ、たった一人で飛び込む感覚だ。他者の人生を、神の視点から覗き込み、時には共に旅をする。

同じドラマ鑑賞でも、全く違う体験だと考えている。
それだけに、映画を見るときはひとりになって、上映が終わると本堂ホールにいる。
演劇体験と映画体験の間の時間と場所を飛び越えてしまったような、
「どこにいるんだ」という感覚が不思議だ。

映画上映後は、應典院住職・秋田光彦さんと、タレント、終活カウンセラー・おちあやこさん登壇によるアフタートークが行われた。

その中では、生前に自分の訃報執筆を、若き訃報ライターへ依頼する作品の主人公から、現代日本の終活観や、人生の終わらせ方を取り巻く現状が語られた。

 

「あなたの旅立ち、綴ります(原題:The Last Word)」

【あらすじ】
広告ビジネスで成功したハリエット・ローラーは、81歳の今も何不自由無く暮らしていた。
死の不安に直面し、自らの訃報記事を生前に準備することを思い立つ。
新聞社の若き訃報記者、アン・シャーマンはそんなハリエットの指示のもと取材を開始する。しかし、ハリエットのことを聞いて回っても、良く言う人は誰ひとりとしていない。
完璧を求めるあまり、傲慢無礼な態度で全員から嫌われていた。
その事実を知ったハリエットは、“最高の訃報”を作り直すため、アンを巻き込みすぐさま行動を開始する。

監督と製作にマーク・ペリントン。脚本、スチュアート・ロス・フィンク。
主人公の勝手おばあさん、ハリエット役に、「走り来る人々」「愛と追憶の日々」のシャーリー・マクレーン。
共演に、アン役として「ミーンガールズ」「レ・ミゼラブル」のアマンダ・セイフライド。
その他にも、トーマス・サドスキー、アンジュエル・リー等を迎えた。
(シャーリーとアマンダは、作品のプロデュースにも名を連ねている。)

今作の目標であるところの、最高の訃報。
そのための4要素というものを、ハリエットが提示する。
1つ目は、家族や友達に愛されること。2つ目、同僚に尊敬されること。
3つ目が思いがけず誰かの人生を変えた人物であること
そして、最後の4つ目は「ワイルドカード」。
つまり、見出しになるような特別な何か。
ここから驚きの行動力で、条件を揃えていく過程に、
シャーリーの凄みが妙な説得力を持たせており、楽しくて笑ってしまう。

成功を手にしたものの、その代償として、夫や娘にまで疎まれ、
まともな話し相手すらいない状況のハリエット。
そんな中、全く物怖じしない態度のアンと出会う。
皮肉には皮肉で返し合い、忌憚なく言葉を交わす相手となった。
その関係は次第に互いへの信頼となり、理解となり、果ては親子にも似た絆が生まれる。
そして、アンもまた、現状に納得できず、悶々と日々を過ごしている。
「私のいるべき場所はここなのだろうか」20代の等身大の気持ちだろう。
それでも行動を起こさず、現状を変えられずいたアン。
ハリエットの言葉と、何よりその毅然とした姿がアンの止まっていた時間を動かし始める。
互いの「思いがけず人生を変えた人」になっていく姿が愛おしい。

試写会アフタートークでは、人生の終わりについての映画としての側面から語られていた。
(脚本の着想も、生前に自分の訃報を書きたい人が増加しているアメリカで起こっている風潮から来ている。)
しかしながら、私は、「今を生きること」を軽妙で晴れやかに語る側面こそが輝いて見えた。
そこには、これまでの人生も、これからの人生も等しく讃える温かな眼差しがあった。

「いい一日を送らずに、本物の一日を送って。」

應典院からの帰り道、この作品を象徴するようなハリエットの言葉が、
優しく温かに耳の奥に響いていた。

 

〇レビュアープロフィール

仲口拓磨(なかぐち たくま)

1992年大阪府大阪市生まれ。
2014年 フリーでの演劇活動を開始する。
2015年には大喜利イベントへ出演。大喜利をこじらせる。
近年では大喜利イベントをはじめ、イベントMCとしても活動を開始。
ラジオ視聴と映画鑑賞を、日常生活に支障を来す程度の日課としている。

人物(五十音順)

仲口拓磨
(大喜利大会URRAIグランプリ運営、MC)