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2018/3/18-19 室屋和美:Forum Enters The Theater #0 「ヤミウルワシ」レビュー

3月18日(日)から19日(月)にかけて、應典院寺町倶楽部共催事業としてForum Enters The Theater #0 「ヤミウルワシ」が気づきの広場にて上演されました。【演じるフォーラム(演劇はフォーラムを舞台に上げる)】として、演劇上演作品を各分野の“知恵”でひも解く、様々な“知恵”を舞台に招き入れる本企画。その試行として、「仏教の知恵」を舞台に招き入れました。今回は劇作家・役者・WEBライターの室屋和美さんにレビューを執筆していただきました。


戒田さんの作・演出とお聞きして「ヤミウルワシ」を観に行きました。
Forum Enters The Theaterという企画としては一発目のようです。
それってなんなのかしら、とパンフレットを読み込みますと
〈各分野の「知恵」を招いて上演作品をひも解くプロジェクト〉との説明が。
パッケージとしては30分芝居/15分即興劇(「知恵」ゲストも参加)/45分トークの
三部構成で成っているようです。

会場は應典院2階・本堂入り口前の気づきの広場。
階段から見て突き当り、広場奥が客席。広場の中心が演技スペースになっています。
客席から見て左手(本堂側)、なだらかなコンクリート壁面が映像効果の照射場所。
ベンチのようなイスが数脚ある簡素な美術。右手にはガラス越しに広大な墓地が
見渡せます。夜ということもあってとても厳かな雰囲気です。

まずは30分のお芝居。チラシ掲載のあらすじはこちら。

女は、毎夜夢に出てくる女の記憶をたどって友人と旅に出る。行くところ行くところに、
夢の女が語る景色が広がる。友人の支えを受けながら、女はついに夢の女の最初の記憶に
たどり着く。遺す想いと受け取る想いを巡り、他者の記憶をたどる。
ハンサムな女優3人が描き出す静かなるファンタジー。

登場人物は、主人公である女〈綿葉〉、友人の〈絹江〉、
綿葉の夢に出てくる女性〈麻美〉、そして〈麻美の母〉。

綿葉と麻美の身体は互いに赤いロープのようなもので繋れており、
お芝居の最中はずっと麻美が手元でロープをしゅるしゅると捌いています。
この赤いロープは「絆」「血脈」などをモチーフとしているようで観客は
想像力を掻き立てられます。壁面に投影される映像効果もあいまって物語は
終始幻想的な面持ちです。

物語はまず夢のシーンがあり、綿葉と絹江がバスを待つ所から始まります。
山奥、真夏のバス停は日陰もなくヘトヘト。バスは一向にやってこない。
旅の目的は〈ある女性〉の手がかりを探すこと。
夢の中で綿葉にいつも語りかける〈麻美〉という女性はバイクに乗るのが
好きらしく綿葉にさまざまな景色を見せてくれます。綿葉はその景色を
まるで自分が見てきたように愛しく、懐かしく感じるのです。
その後麻美が実在することを知った二人は決定的な手掛かりをもとに
〈最初の記憶〉の場所へ。そこでは〈麻美の母〉と名乗る人物が現れて・・

というのがあらすじです。
ひとかけひとかけの描写がとても繊細で美しいお芝居。
「麻美という女性はいったい何者なのか?」というミステリアスな要素が
軸となり物語を押し進めています。魅惑的な女優3名による凛とした演技も
おおいに見どころです。

正直セリフなど難解な点がいくつかありました。
大筋である「記憶探しの旅」は物語として完成されているのですが、
出てくる人たちはどこかフワフワしたことばを放つことが多い。どこか霧が
かかったような曖昧なセリフが多いのです。
彼女らの紡ぎ出すことばは散文詩のような印象を受けました。まるで散らばった
パズルのピースのよう。かなり観客に想像を委ねられます。
このピースを拾い集める作業が楽しくもあり辛くもあるというのが私の感想です。

ただ綿葉と絹江が海で夕日が沈むのを見ているシーンはじんと来ました。
歩き疲れ砂浜に辿り着く二人。そこは麻美の好きだった風景。
なぜかビールが飲みたくなってくる。夕日が沈んで、夜になる。
「昼が終わってしまう」と嘆く綿葉に、絹江は「でも夜が始まるよ」と言葉をかける。
誰かにとっての終わりは誰かにとっての始まりなのだ。
そんな当たり前のようで当たり前でないことが毎日繰り返されている・・

気づきの広場にまっくらな海と星空が見えました。
私は亡くなった祖父のことを思い出していました。優しい芝居でした。

戒田さんはこの脚本を2011年に書いたと話されていました。
3月6日にお父様を亡くされ、その5日後には東日本大震災が訪れます。
心が張り裂けそうな中、4月には舞台が控えていた。その舞台のために書いたのが
今回の脚本だそうです。
いったいどんな想いを抱えて執筆されたのか。想像するだけで胸が詰まります。

15分の即興劇パートでは、「知恵」ゲストとして應典院の秋田光軌さんが登場。
お芝居パートに登場した人物が、ふと訪れたお寺で住職(秋田さん)に
出会い話しかけるというシチュエーションだけが用意されています。

私が見た回は竜崎だいちさん演じる〈絹江/友人役〉が應典院を訪れ、
秋田さんに話しかけるという展開でした。
亡くなった祖母(だったかな)にもっとしてやれることがあったのではないか?
自分の選択に間違いはなかったか?死者を偲び思い出の地を訪れることは
意味があるか、気持ちは届くのか?といったような話をされてたかと思います。

秋田さんが秋田さん役をされていて、ちょっとびっくりして、相手役は絹江で、
どういう気持ちで見ていいか悩みましたが(これ他ゲストの方だとどうなるのと
考えてしまった)まぁともかく秋田さんの言葉が慈愛に満ちていて、仏教的な
観念から絹江をやさしく導いていきます。
いろいろお話をされていたのですがなんとなく絹江の中にはもう答えがあり
それを秋田さんがひも解いてあげているという印象でした。
おばあさまの話を思い出の場所でご家族の皆さんとしてみてください、と
優しく声かけされていたのが心に残っています。

45分トークのパートでは戒田さん・秋田さん・出演者全員で作品についての
お話をしていました。この作品が生まれたバックボーン、どのような気持ちで
それぞれの役を演じたか、登場人物たちの関係性のすばらしさ、秋田さんが
ご住職になったきっかけと作品に感じたこと、死生観など、さまざまな目線で
「ヤミウルワシ」が語られてゆきます。

「ヤミウルワシ」は「闇 麗し」ってことかなと私は思うのですが、
麗しいという言葉には美しくて立派、という意味のほかに〈正しくてまちがいがない〉
という意味合いもあるようです。

たとえばひとりきり、闇の中に取り残されると本当に怖いですよね。
自分自身という光が消えてしまうような恐怖との闘い、それは生きてくことと
背中合わせなのでしょう。
しかし命という光は暗闇の中で輝いている。揺らめく炎のように、幾多の星のように、
小さく見えるちからで私たちの記憶に鮮やかに残ります。

月並みな言葉ですが、闇に在るからこそ私たちは懸命に輝こうとするの
でしょう。お芝居の最中、遠くを見つめるようなまなざしの女優さんを見て
「ああきれいだな」と感じました。この生き様にまちがいがないよう、私たちは
強く願って生きていくほかないのだと思わされました。

 

○レビュアープロフィール

室屋和美(むろやかずみ)

劇作家・役者・WEBライター。1984年兵庫県神戸市生まれ。
近畿大学演劇芸能専攻・劇作理論コース中退。
2012年から『劇作ユニット野菜派』を立ち上げ。
以前は『劇団八時半』『コトリ会議』などに所属。
劇作家の活動として、戯曲「どこか行く舟」がAAF戯曲賞佳作を受賞。
世間のさえない領域で静かに呼吸している小魚のような、ひそやかな人々と
その切実さを好んで描く。

◇近年はご依頼をいただいて劇作をしたり、大喜利や官能小説のイベントに
出演したり、WEB媒体に記事を書いたりしています。
趣味はマンガを読むこと、お笑いの舞台を見ること。
小さな畑の世話もしています。いつでもなんでも、気軽にお声かけください。
Twitter: @ooiri_muroya  

◇活動告知
(1)自作の官能小説を朗読するイベント、「プラセボ朗読会 官能男性作家編」に
企画/MCとして参加します。お酒を飲みながら楽しめるラフなイベントです。
〈Placebo朗読会 ~官能男性作家編~〉
日時:2018年5月19日(土) 時間未定、夜に2ステージ
70分程度のイベント
会場:千日前味園ビル2階 Live&CafeBar Placebo
※会場HP:https://placebo.owst.jp/
※客席は各回20席程度
料金:1500円(1ドリンク付)
詳細:Twitter等で「プラセボ官能」で検索してみてください
   もしくは室屋Twitterでお知らせしております

(2)動画配信サービス「観劇三昧」にて、私が作・演出を手掛けたお芝居
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室屋和美
(劇作家・役者・WEBライター)