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サリュ 第68号2010年7・8月号

目次

巻頭言
レポート「木曜・寺子屋サロン(チルコロ)」
コラム サリngROCKさん(サリングロック)
インタビュー 西島宏さん(株式会社シー・エヌ代表取締役)
編集後記

巻頭言

今日の自分は今日でおしまい。明日はまた新しい自分が生まれてくる。

酒井雄哉
「一日一生」より

Report「輪」
「あなた」を通じ「わたし」に出会う毎週木曜・寺子屋サロンの展開

いのち弾ける お寺の集い

「應典院は敷居が高い。」そんなご指摘をいただくことがあります。とりわけ古くから応援・関心を頂戴している方から「アートに傾斜しすぎている」「カタカナばかりが飛び交っていて、ついていけない」などの声も寄せられたりもします。應典院というお寺を開くための事業の企画実施を担う「應典院寺町倶楽部」としては、こうした声にきちんと向き合っていかねばならない、そう考えてきました。

この4月、應典院寺町倶楽部が始めた企画が「應典院・木曜・寺子屋サロン」です。毎週木曜日の夜6時半、多くの方々が集い、語り合うことができる場を設けることにしました。歴史を遡れば、應典院再建当初には「水曜サロン」と題した取り組みがなされていました。何か一つの「お題」がその場で掲げられ、通りがかりの方でも気軽に参加ができる、そんな場づくりを懐かしむ声が、「会員のつどい」などで出ることもありました。

再建から13年が経ち、まるで應典院の原点回帰とも言えるトークサロンの定例事業化にあたっては、「チルコロ(circolo)」という愛称を掲げることにしました。これはイタリア語で輪(circle)を意味することばです。何となく可愛らしい響きを持つと感じる方も多いのではないかと思いますが、そうした聞き心地の良さに加え、いわゆる「サークル」として、仲間どうしの関係ができて欲しいという願いを込めて命名されています。そして「葬式と演劇」をテーマに掲げた4月1日、息の長い取り組みにしたいと考えている第1回が、10名の参加を得て、静かに始まりました。

「人は、あなたに出会って わたしになる」。これは應典院を再建する際に、当時・大阪YWCAに勤めておられた金香百合さんらとの議論を通じて、秋田光彦應典院住職(当時)が掲げたキャッチコピーです。人は他者と出会うことによって初めて、自分がどんな人間であるかを知ることができ、そしてその他者は、今現在目の前にいる人に限らず、たとえばご先祖様であるかもしれない、という考えに基づいています。つまり、絶対的に超越した他者という手がかりや物語を与えることのできるお寺だからこそ、現代社会に対して関係性の結び直しを提案することができると捉え、かけがえのない「わたし」と「あなた」とのつながりの結び直しを呼びかけています。この「チルコロ」もまた、こうした考えを体現する取り組みだと認識しています。

人が集まる リズムをつくる

毎週トークサロンが開かれると言っても、来る方も、また開く方も、「きっかけ」が必要ではと考えて、開始初年度の「チルコロ」には、1週毎に性格付けを行うことにしました。第1週は應典院寺町倶楽部がテーマ設定をする月例トーク、第2週は大阪市立大学病院の山口悦子医師主宰による「いのち」の読書会、という具合です。第3週は、恒例の「いのちと出会う会」を位置づけています。そして第4週は、「公共性」を専門とする関西学院大学の関嘉寛先生による「出張ゼミナール」とし、年に4回程度ある第5週は應典院スタッフによる「海外視察報告」としました。

課題としては、各週の性格によって、固定ファンがつきつつあることかもしれません。「3週目は行くけど、2週目には…」という傾向です。もちろん、毎週欠かさず来ていただきたい、というわけではありませんが、今後は應典院寺町倶楽部の会員の皆さんによる企画なども折り込み、多様な人々が行き交う機会になっていくことを願っています。第3週のみ寺町倶楽部会員700円・一般1000円と変則設定ながら、その他は参加費500円です。

ぜひ、お気軽に集い、「現代」と「いのち」を語り合ってください。毎週木曜日というリズムで、お待ちしています。

小レポート

いのちと出会う会100回記念へ向かう

2000年6月に第1回がスタートした「いのちと出会う会」が、11月に100回を迎えます。これまで、代表世話人である石黒大圓さんを中心として、話題提供者と参加の方々と共に、「いのち」にまつわる多様な課題に向き合ってきました。

100回へのカウントダウンが迫るなか、お話をいただく話題提供者の幅も広がってきました。映画「親分はイエス様」のモデルとなった吉田芳幸さん(5月)や、自転車で世界一周しギニアに井戸を掘ったミキハウスの坂本達さん(4月)などです。こうして多方面から招いた方々の人生を通して、多角的な視点から「生きること」とは何であるのかを考え、語り合っています。

なお、記念すべき100回目は11月23日(祝)午後、在宅医療に取り組む長尾和弘さんを迎え、「在宅医療といのちについて考える」をテーマに本堂ホールでの開催を企画中です。また、もくまさあきさんが口笛演奏でオープニングを飾る予定です。時には会場全体が涙し、時には笑いで包まれる「いのちと出会う会」。ぜひお越しください。

小レポート

演劇祭の皮切りに、親睦を深める。

5月20日、應典院2階「気づきの広場」にて應典院舞台芸術祭space×drama2010の劇団交流会を今年も開催。参加6劇団からの多彩なメンバーに加え、全公演の劇評を寄稿いただく石原正一氏、そして8月31日に應典院寺町倶楽部が共催する関連企画「人生の分度器」を担当するフェンスワークス事務局の田中聡氏を交え、総勢50名程度のパーティーとなりました。

例年どおり合間には本堂ホールにて参加劇団のリレーインタビューの動画撮影が行われました。取材と応答を重ね、互いの劇団の事を知る機会となると同時に、自劇団や作品の語りを通じて、改めて自らの表現活動を理解する契機を得ていたようです。短い時間での交流ながら、今後の演劇祭の充実を導く濃密な時間になったと確信しています。

小レポート

米国の教会で発祥の母の日から103年

米国の教会で亡き母への感謝を捧げるために始まった母の日。去る5月5日、應典院寺町倶楽部との共催でLive onによる、母を亡くした人たちから手紙・手記を公募した文集の出版記念イベント「もし届くなら」が実施されました。当日は2部構成で、第1部は詩人の上田假奈代さんをはじめ、執筆者らによる文集からの「朗読」と講話が、第2部は参加者全員による創作表現ワークショップが行われました。秋田光彦住職による講話では、「悲しみは絶望にとどまるのではなく気づきの力を生み、互いの関係がつながっていく契機をもたらす」と伝えられました。その後は死別体験を想い起こしつつも、当日持参している「大切なもの」を手がかりに、参加者各々が思いをことばにしていく、玄妙な場が生み出されました。

コラム「怪」

「劇場」という場所意外と街の中にあるんです

「あの、谷9のとこのでっかい坂下りてね、下りたところ左に曲がったらね、幼稚園あるねん。パドマ幼稚園。その隣が、お寺になってるねん。そこ。」「えっ…?そこ?」「そこ、劇場。」「ええっ…?…お寺?」

「あとね、でんでんタウンあるやん。商店街。あれを、日本橋のほうからずーっと恵美須町のほうまで道路挟んで左側を下って行ったら、途中で左手に、入り口あるねん。」「えっ…?」「喫茶店の隣。」「ええっ…?あった?そんなとこに?劇場?」「あるねん。」「ええー?あったー?」

「あとな、ヨーロッパ通りあるやん。心斎橋から長堀のほうにずーっと行って、堺筋に出るちょい前に右手に、ビルあるねん。その5階。」「えっ?5階?」「5階。」「えええ?」

「あとな。」「えええー。意外とあるねんなあー…。」

意外と、怪しげな場所にね。

演劇やってる、って言うと、「どこでやってんの?」と聞かれます。「大阪にそんなとこあった?」って。で、さっきの通り説明するんですけど、言えば言うほど怪しい…。一般の人には知られておらず、入り口はみんながよく通るはずなのに、そこで何をやってるかはわからない、中がどうなってるかわからない。覗き見も出来ない、閉ざされてる。そしてある日、楽しみにしている人たちが、ゾロゾロ集まってくる。すごく狭そうに見えるところに、どんどん集まってくる。どんどん詰め込まれて、閉ざされる。こりゃ、怪しい。中では絶対ヘンなことが起こってる。ああ、楽しみだ。ヘンなこと、どんなこと?わざわざ集まってナニやってんの?多分、ここでしか体感出来ない、ヘンなこと。ワクワクする場所、それが劇場。ここで、すっごくヘンなこと、やってます。

サリngROCK(サリングロック)
東大阪市出身。関西学院大学文学部哲学科卒。「突劇金魚」所属。脚本・演出担当。役者として出演し、チラシのイラストも手がける。2001年~2002年まで西田シャトナー氏主宰の期間限定劇団「LOVE THE WORLD」所属。(役者として。)2008年『愛情マニア』で、第15回OMS戯曲賞大賞受賞。2009年『金色カノジョに桃の虫』で第9回AAF戯曲賞優秀賞受賞。
独特の世界観で展開する作品を作っているが、対戦型即興演劇バラエティ「アドシバ!」の司会アシスタントをしている面もある。
今年夏には、渡辺えりのユニット「えりすぐり」に短編脚本を提供する。

Interview「任」

西島 宏さん (株式会社シー・エヌ代表取締役)
初代應典院寺町倶楽部事務局長が、2010年6月、新たに應典院寺町倶楽部の3代目の会長に就任。長らく演劇担当専門委員を務めた眼差しの先にあるものは…

実は應典院との縁は長くて、深いんですよ(笑)。94年に「應典院を再建したいから手伝って欲しい」と言う「友人であり住職」の秋田さんに声を掛けていただいたところまで遡ります。ただ、構想を議論している最中に起こった震災やオウム真理教事件は、こころのひだ、傷、ひっかかり、そうしたものがお互いに残ったものの、その後の受け止め方、向き合い方はそれぞれのスタンスがかなり違っていったと感じています。とりわけ秋田さんは宗教家として引き受く覚悟を決めたので、應典院というお寺で非宗教家が何かを担える部分があるのではないか、そこに自分の存在意義を見出したいと考えました。

そもそも私は広告業を営んできたのですが、その業務として、大阪ガスによる「扇町ミュージアムスクエア」(OMS)と大阪府による「森ノ宮プラネットステーション」といった文化施設の立ち上げに携わってきました。それらの経験の中で、ある人が「ハードがソフトを規定する」と言ったことが今でも印象に残っています。つまり、良い事業が展開されるには、それなりの施設が必要で、そうした施設が何らかの活動をする人々にとって拠点となりうる場所でなければならない、ということです。そこで應典院のコンセプトづくりにおいては、都市における文化拠点として人が集まるお寺にしなければならないと考え、特にハード面についての取りまとめを行いました。

1997年の再建から13年、應典院は社会的・文化的な拠点として高い評価を得てると言っても過言ではないでしょう。しかし私たちは、それが決して應典院寺町倶楽部の評価ではないことに気づくべきです。また、会員の皆さんにおいても、初期に呼びかけた「應典院の応援団」という認識をお持ちの方も多いかもしれません。とはいえ、冷静に見てみると、実は應典院が應典院寺町倶楽部の取り組みを支えている状況にあります。

もちろん、この10年あまりの應典院への評価は、お寺としてだけではなく、寺町倶楽部の存在も含めた抽象的なシンボルに対するものでしょう。ただ、そこに含まれる寺町倶楽部の比重はそんな高くないのではないか、と考えてよいと思っています。言うまでもなく、應典院の再建後の動きにおいて、戦略的には寺町倶楽部を作ったのは妥当であったのです。ところが、この間、少なくとも行政機関を含めた大阪の人々は、應典院を単に「お寺」ではなく「共有空間」つまりコモンズとして認識してもらえるまでに至っているのではないかと思っています。ゆえに、ますます應典院寺町倶楽部の存在感、存在理由を真剣に考えないといけないと捉えています。

こういう状況認識の中で新たに会長に就いた今、3つのお願いをしなければならないと考えています。まず、多様な事業がなされる應典院に対して精神的な賛同だけではなく場に参加して肉体的な共有がなされて欲しいので「皆さんの時間をください」。次に、参加すればアイデア・改善点・新企画・思いつきが出てくるでしょうから「皆さんの知見をください」。そして、お金・時間・能力・人脈など、それぞれに活かせるものを寺町倶楽部に提供して助けて欲しいという意味で「皆さんの余力をください」。この3つです。

経験からの学習も大切ですが、良い意味で忘れること、前向きに捉えることも大切だと思っています。都市の文化拠点として存在感を持った應典院に活動拠点を置く寺町倶楽部の機能が果たされるチャンスは無数にあります。ぜひ、一緒に走っていきましょう!

編集後記〈アトセツ〉

その昔、「積年の懸案」ということばを得たとき、そんな表現があるものだと感心したことがある。月日が経ち、このことばが自らに重くのしかかってくることは想像だにしなかった。逆に言えば、この6月15日、長年にわたる課題に対して、やっと対処ができた。そう、應典院のホームページの大リニューアルである。

通常、ホームページは情報発信のメディア、などと言われる。しかし、應典院のウェブサイトは単に情報(文字や音声や画像等)を送信するだけであってはならない、そう考えてきた。では何を発信しているのかと問われるならば「価値の体系」と応えたい。もちろん、各種の取り組みに関する情報を発信することで、閲覧者によって意味が創出されることもあるのだが。

ともかく、リニューアルされたウェブサイトは、発信する側が考え得る範囲において、この数年来、懸念としてきた事柄について工夫を凝らした。その最大の特徴は「コラム」にある。これはいわゆるブログ的短評・レポートコーナーの設置だけではなく、英語の柱という意味においてでも、である。つまり、お寺・NPO・劇場の3本柱を、トップページのデザインに反映させたのだ。

言うまでもなく、ウェブサイトは情報整理の箱にすぎない。よって、そこに何を入れていくのかが運営側に問われる。そこで、われわれにとって最も身近な好例「築港ARCプロジェクト」を参考にし、一層の充実を図っていきたい。そのためにも、皆さんの期待を乞いたい。

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