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サリュ 第90号2014年3・4月号

目次

巻頭言
レポート「コモンズフェスタ2014」
コラム 川浪剛さん(真宗大谷派僧侶)
インタビュー 松本典子さん(ヨガ・インストラクター、占い師)
編集後記

巻頭言

人が「これは、わがものである」と考えるものは、すべてその人の死によって失われる。
『スッタニパータ』

Report「重」
「自由」な箱の「重箱」化
コモンズフェスタ2014

変わる世情で変える枠

今年の「コモンズフェスタ」が無事終了しました。1997年の再建以来、お寺を舞台にした総合芸術文化祭として、應典院で出会い関わりあってきた方々と「共有の場(コモンズ)」をつくる「お祭り(フェスタ)」を続けつつ、その枠組みは回を重ねるごとに変化してきました。当初は実行委員会形式、2000年からは外部プロデューサーの起用、2004年から2年間は休会し他の事業との連動を図り、2006年からは事務局主導で実施してきました。そして2012年度からは原点回帰、再び実行委員会形式で企画・運営されています。
毎年、固有のテーマが掲げられる「コモンズフェスタ」、今年度は「じゅうばこの隅」とされました。これは「重箱の隅を楊枝でつつく」という表現からの着想です。ただ、通常は「些細なことにこだわっている」と、否定的な意味合いで用いられるこの表現を、今回は「じゅうばこ」とあえて平仮名で記すことで「自由な箱」と誤読されることを期待することにいたしました。要するに、色とりどりの料理が詰められる「重箱」には一定の秩序が求められるのに対して、文字通り「何でも自由に入れることができる箱」には、容積の制約は受けるものの、基本的に誰かの規制を受けない、そんな対比を楽しむことにしたのです。そして、その色とりどりの料理は、実行委員の皆さんによって、味付けと盛りつけがなされていきました。
こうして原点に立ち返った應典院でのお祭りも、今年度は新たな挑戦がありました。それは前半と後半の二期に分ける、ということでした。12月に1週間、1月に1週間、その途中に24時間トークが開催されました。さしずめ重箱で言えば「一の重」と「二の重」に分けての構成です。

「飛ばしている」お祭り

「今年のコモンズフェスタは飛ばしてますね。」これは実行委員の一人、陸奥賢さんが会期中につぶやいた言葉です。「何を」「どこに」「なぜ」飛ばす、と尋ねるのは野暮な話で、ちょうど「どこに行くかわからない」車に同乗しているような感じだ、と言いたかったのでしょう。それくらい、ある意味「わかりにくく」、しかし「何かを感じる」場が生まれていたと思われます。実際、前半(一の重)には展示と演劇ワークショップと体験型講座がそれぞれ1つ、講演会が2つ、後半(二の重)には展示と演劇と應典院界隈のまち歩きがそれぞれ1つ、体験型講座が7つ、講演会が3つと、企画が目白押しとなりました。
ただ、企画の数を挙げるだけでは質の多様さは感じていただけないでしょう。「鳩を放つ場所をこどもたちが選んで、一連の様子を映像で記録する」「旧約聖書のヨブ記をもとにした演劇を本堂で行う」「精進料理を食べる」「應典院周辺の非木造寺院を訪ね歩く」など。これらは全て今年のコモンズフェスタで取り組まれたものです。無論、その他の企画も多々でした。
お祭りの場というのは、あくまで非日常です。しかし、そこには日常の世界が色濃く反映します。例えば、困り事、悩み事、関心事、また興味を抱いてこなかったこと、などです。「重箱」を楽しんでいただいた後は「惣菜」を味わい直していただき、また次回を楽しみにしていただければと願っております。

小レポート

臨床宗教の現在

去る1月15日、お寺MEETING Vol.6「最新〈臨床宗教〉事情」が開催、東北大学実践宗教講座の高橋原准教授、いのち臨床仏教者の会西岡秀爾事務局長をゲストに「宗教の現場」について語り合いました。参加は25名。モデレーターは大蓮寺・應典院秋田光彦住職が務めました。
3.11以降、宗教の現場が拡大するとともに、急速に臨床宗教のムーブメントが活性化しています。当日は、国立大学がなぜ宗教者養成に乗り出したのか、その背景とねらいについて、高橋氏から話題提供の後、実践者を代表し西岡氏がコメント。
会場には僧侶や研究者、ジャーナリストの他、実際の臨床宗教師の研修を受講した僧侶が2名参加しており、自身の学びとその後について率直に語ってくださいました。「臨床の知」の創造と継承を目指してきた應典院にとっても、意義深い場となりました。

小レポート

おもちゃと思い出から学ぶ

毎年恒例となりました神戸女学院大学アートマネジメントコースの学外実習イベントが1月29日に開催されました。「おもちゃなべ。ーあの頃の好奇心はあなたの出汁(おもいで)ー」と題されたこの催しでは、色々なおもちゃが飾られ、メルヘンチックで可愛らしいお部屋のような設えが施されました。
前半には、ゲストの大蓮寺・應典院秋田光彦住職に学童期の頃の遊びや体験をお話いただき、後半では、グループに分かれてそれぞれのおもちゃに関する思い出を語りあいました。そして最後には、持参したおもちゃを小さな鍋に詰め込んだのでした。思い出を話している参加者の笑顔が印象に残るイベントでした。

小レポート

阪神・淡路大震災へ祈りの梵鐘

コモンズフェスタ2014開催期間中の1月17日の正午、應典院では「阪神・淡路大震災物故者供養」の静かなひとときを持ちました。神戸とその周辺地区・淡路島へ、失われた命とその大切な命に寄り添う悲嘆に心を馳せながら、祈りの梵鐘を撞かせていただきました。
1995年より19年目のこの日、大学生でも当時の震災のことを知らない世代が増えてきつつあります。そのような中でこそ、應典院寺町倶楽部という場で、これからも何を伝えていくべきなのか、何を遺していくべきなのかを考えながら、静かな祈りのひとときを持ちました。

コラム「臨」

「仏教と支縁のつながり」

今回、コモンズフェスタ2014企画委員として3つのトーク企画、「からだとこころに染み入る仏教医学の会」「日常ユートピアの建立」「母が性職を選ぶとき」を担当させていただいた。
1つ目の企画は、2013年4月から應典院にて始めた仏教医学研究会。コモンズフェスタでは、臨済宗のお寺にて典座(料理長)を務めておられた山崎紹耕師をお迎えして素朴な食材を使った精進料理を頂き、その後講義を受けた。禅の食堂(じきどう)の中での作法は、ふだん他言されることなく口伝により伝えられているそうで、この『典座教訓』という書物は、それだけに貴重なものであるということを教えていただいた。
2つめの企画は、かれこれもう10年前、ホームレス自立支援相談員であった頃に、フード・バンクという団体が、余剰食品を社会福祉〈施設〉に配布する活動を知ったのがきっかけだった。宗教者は、聖なる存在に食べ物を〈お供え〉したあと、それを〈お下がり〉と称してひとびとと分ち合って頂く。特別な場所へ出かけて、特別な時間を割いて活動しなくてもいい。今度はこの宗教儀式を社会貢献活動として、生活困窮〈世帯〉に向けて日常の営みの中に位置づけることにとりくみたい。社会に対し、その意義を告知するきっかけになったと思う。
3つめの企画は、セックスワークを生業とする女性たちが、近年特にシングル・マザーと呼ばれる人たちの中に増えているという情報を得た時、ふと「ホームレスと呼ばれる人は圧倒的に男性が多いのに女性が少ない(約3%)のはどうしてなのか」という疑問を抱いたことに端を発したプログラムであった。「隠れた困窮者」として孤立しているのかもしれない女性たちの支援を深く問い、今後も関わっていきたい。
様々な苦難に直面する人々に寄り添う臨床宗教者として、また新たな出会いと問いを得たコモンズフェスタとなった。

大阪府出身。真宗大谷派僧侶。西成区の釜ヶ崎で日雇い労働者やホームレスに寄り添う「支縁のまちネットワーク」代表。大谷専修学院を経て平成元年に得度。その後、上智社会福祉専門学校、立命館大学等で学ぶ。医療産業研究所研究員やVOWS BAR(坊主バー)マスター、府営長野公園所長等を経て現在に至る。

Interview「見」

松本典子さん
(ヨガ・インストラクター/占い師)コモンズフェスタ2014企画委員として「癒し」の場を創出。自然と身体がほぐれる場づくりの秘訣と今後の展開をうかがう。

昨年同様、企画委員制を導入したコモンズフェスタ2014では、委員の一人として8月から企画会議に参加、実際にヨガ・インストラクターとしての経験を生かしてヨガ教室の後に仏教讃歌を唄う催しの講師を務めた。現在は、タロットの占い師としても活動するが、実は資格専門学校の講師という一面もあわせもつ。
「大学在学中から公認会計士の勉強を5年間やったんですが、うまくいかず、心身ともに疲れ果てたところで、カフェでアルバイトを始めたんです。でも、1週間くらいで胃炎になった。接客というより周りにあわすということがどうも駄目で。ちょうどその頃、自分が通っていた専門学校からお呼びがかかったんです。そこで、自分は教えることが好きなんだと気づきました。勉強とか運動とか、苦手なことの方がうまく教えられるんです。」
「学び」「癒し」「楽しみ」を主軸として場を開き今年で17年目となる應典院寺町倶楽部。今回のコモンズフェスタでは、それらの3要素が非常にうまくバランスをとりながら多様な時間がうまれた。その中で松本さんは文字通り「癒し」担当として、身体と呼吸にまつわる気づきの場を創出。実際に、ヨガ教室閉会後は、もう一つの顔「占い師」の本領が発揮され、即席タロット占いが始まり、お茶とお菓子を頂きながら、参加者各々が自然と自分の話を語り出す、ゆるやかな時間となった。
「やはり場の力がありましたね。ヨガも占いも癒しの仕事なんですが、それは多分お寺がしてきたことでもあって。今回いつもより効果があるような気がしました。実際に、お坊さんがうろうろしてはったり、仏教の本があったり、お地蔵さんもいはるし。でも、何で癒されるかは人によって違う。本当にしんどい人は、『大丈夫ですか』と言われるより、ただ一緒にはしゃぐ方がいいという場合もある。病んでいることに無自覚だったり、それを人のせいにしてしまっている人が一番キツイんとちがうかなと思いますね。」
「癒し」の場で身体がほぐれると、おのずと「悩み」が吐露される。自然と悩みを発話させる松本さんの場づくり。宗教者や教育者とはまた違う形で、その心配事に寄り添い、自分の身体と会話すること、内なる声に耳を傾けることへの気づきを与える。
さらに、ヨガや占いで、多くの方と語り合う中で、最近気になるのが、親離れ、子離れできない親子の現状。それは特に母と娘の間によくみられるという。
「人間はオギャーと生まれたらまず、お母さんにコンセントをつないでエネルギーをもらう。それが徐々に仕事やパートナーにコンセントが掛け替えられていって大人になっていくと思うんですが、最近は親が子どもをしばっていたり、子どもがパラサイトしすぎていたりという状況が多い。結婚生活や仕事がうまくいかない原因が、親離れ、子離れできていないというケースが往々にしてあるのではないでしょうか。」
自立するとは、「他人とは自分と違う価値観をもって動いている動物であるということを認識すること」と語る。
今後は、親子の自立をテーマにした研究会を立ち上げようと計画している。「できれば来年のコモンズフェスタでも何かしたいですね。」

編集後記〈アトセツ〉

百聞は一見にしかず、という。しかし、時には一聞が百見を超えることがある。それを実感するのが「当事者」に出会ったときである。それは「どこか」の「だれか」ではなく「その場」で「あなた」と見聞きする際に、それまでの認識を全く改めることが求められる場合があるためだ。
コモンズフェスタを終えた應典院寺町倶楽部では、「東北の『今』と『人』に出会う旅」と題し、岩手県と宮城県でのスタッフ研修を行った。「あの日」から1060日が経つ中での1泊2日の研究と修養であった。「呼吸するお寺」應典院は、折に触れ震災関係の取り組みを実施してきたものの、場の担い手になるスタッフたちは、必ずしも現場に足を運んできたわけではない。そこで、現地を訪れる機会をつくったのだ。
今回の研修では振り返りの一環で「フォトブック」を作成し、出会った方々に届けることにした。圧倒的な体験の表現は言葉に頼りすぎなくてよいと考えたためだ。自らが切り取ってきた風景を、順番と大きさを工夫して編集し、一冊の本にする。この過程を通じて、その場では言葉にならなかった思いを整理し、知恵への昇華を願っている。
何かを知っているとの思い込みは、想像力やバランス感覚を低下させていく。無知の知とはよく言ったものだ。少なくとも今回の研修では「被災地」や「被災者」と一括りにできないことは共有できた。「あなた」を通じて「わたし」を研ぎ養った経験が次にどう活きるか、ご期待を。(編)

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