住職ごあいさつ

このたび應典院のウェブサイトがフルモデルチェンジしました。ここではイベントの告知やレビューも大事な役割ですが、いずれさまざまな言葉が行き交う「言論空間」へと育てていきたいと考えています。このお寺で生まれた多様な場と関係性を、ネット上でも追体験できる、そんな中身を目指していきます。

應典院は1997年、浄土宗大蓮寺の創建450年記念事業として再建されました。コンクリートの打ちっぱなし、劇場仕様の本堂ホールも目を引きますが、最大の特徴は「葬式をしない寺」であることです。一般的な檀家寺ではなく、墓もなければ、法事もしない。その代わり、寺の原点として「学び」「癒し」「楽しみ」を活動の柱として、NPOや大学、行政と協働してさまざまな場をつくりあげてきました。大小合わせて年間100以上のイベントが開催され、寺には3万人以上の若者が集う。夜の10時まで人でにぎわっているお寺というのも珍しいかもしれません。

それは、近世までお寺が地域生活の基盤として役割を果たしてきた歴史に立脚しています。「おかげさま」による共助の共同体は、国家や役所による公共サービスよりはるか以前から、寺を中心に運営されてきました。教育も福祉も、アートも、元来「誰かから授かる」のではなく「自分たちで生み出してきた」ものです。應典院は、そういった寺の原風景を、現代的にデザインしなおした社会実験といえるかもしれません。

應典院では、いわゆる「布教」はありません。最初から教えありきではなく、多くの場と関係性から生起するさまざまな対話や交流を通して、宗教的な文化や言語、表現にふれてほしいと考えています。ここは、公演や研修だけの場ではありません。この場から「気づき」「出会い」「つながり」、あなた自身が変化すること、成長することを大きな願いとしています。寺は、人が生き直すための場所なのです。

そんな無数の場と関係性が積み重ねられ、日々刻々と更新されていく應典院。その刺激的なプロセスを、このウェブサイトで体験してもらえればと念じています。

2017/4/26 應典院住職 秋田光彦


○秋田光彦プロフィール

浄土宗大蓮寺・應典院住職。1955年大阪市生まれ。明治大学文学部演劇学科卒業後、東京の情報誌「ぴあ」に入社し、主に映画祭の企画・宣伝を担当。退社後、映画制作会社を設立、プロデューサー兼脚本家として「狂い咲きサンダーロード」「アイコ16歳」などを発表、1997年に劇場型寺院應典院を再建。以後20数年にわたって、教育や福祉など地域資源のあり方を具体的に提案・実践し、市民活動や若者の芸術活動を支援してきた。
また、人生の末期を支援するエンディングサポートをNPOと協働して取り組むなど、劇場寺院應典院を拠点として、仏教、アート、まちづくり、コミュニティケアなど、「協働」と「対話」の新しい地域教育にかかわる。2009年度からパドマ幼稚園園長に就任、総合幼児教育研究会会長、相愛大学人文学部客員教授、アートミーツケア学会理事など教育職も務める。
著書に『葬式をしない寺-大阪・應典院の挑戦』(新潮新書)、釈徹宗氏との共著で『仏教シネマ〜お坊さんが読み説く映画の中の生老病死』(文春文庫)、『今日は泣いて、明日は笑いなさい』(メディアファクトリー)、編著に『生と死をつなぐケアとアート 分かたれた者たちの共生のために』(生活書院)など。