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2019/3/3 インタビュー連載「應典院モニターレビュアーに聞く」第4回:髙道屋沙姫

NPO應典院寺町倶楽部との協働により実施しているモニターレビュアー制度。発足から1年以上が経ち、浄土宗應典院で行われる企画について、この間さまざまな方からレビューをご寄稿いただいております。このインタビューは、應典院を定期的に観測していただいているレビュアーの皆さんからお話を伺うもの。第4回は劇団「かまとと小町」を主宰されている髙道屋沙姫さん(劇作家・演出家・俳優)にご登場いただきました(文責/寺務局)。


――よろしくお願いいたします。まずは自己紹介として、髙道屋さんの普段のご活動から教えていただけますか。

髙道屋 もともと6歳から芸能事務所でお芝居をしていました。そこでは目立つ人と目立たない人の差がハッキリしていて、一度端役に入ってしまったらなかなか目立つことができない、自分らしさを出すことができないってずっと感じていて。中学校で演劇部に入って、顧問の先生が連れて行ってくれたお芝居をきっかけに関西小劇場を知って、こんなに個性的で色んな人のキャラクターが見られる世界があることに衝撃を受けました。そこからは事務所をやめて、演劇の勉強をしながら関西小劇場のお芝居に出ることをずっとしています。今は高校演劇の審査員やワークショップもさせてもらったりして、高校生と関西小劇場とをつなげていけたらと思っているところです。

――お芝居との関わりが長いんですね。應典院を知ったのも、学生の頃からでしょうか。

髙道屋 中学校3年生のとき、初めて舞台に立ったのが應典院だったんです。毎年夏にやっている「Highschool Play Festival」でした。事務所の世界からちがう文化のところに来て、劇場に行ってみたらいきなり裏にお墓があるし、なんだこれ?って(笑)。そして二度目に應典院に来たのが、「かまとと小町」を旗揚げして挑んだ、2015年の「大阪短編学生演劇祭」です。

実は「大阪短編学生演劇祭」の1年前、19歳の時に急性骨髄性白血病を発症しました。1年間の闘病生活と骨髄移植を経て、退院して復学したんですけど、病気が一段落ついてお芝居もう一度やりたいなっていうときに、最初にはじまった應典院でまたやりたいと思って。そこで、一緒にやってくれる人をツイッターで募集したときに集まってくれたのが、今の『かまとと小町』のメンバーです。「應典院で復帰します」と言ったときに、当時の職員さんに「おかえり」って言ってもらえたのが記憶に残ってますね。

――ありがとうございます。髙道屋さんには今まで7本のレビューを執筆いただきました。いのちと出会う会 第160回「喪失の悲しみに寄り添う試み『グリーフタイム』」(2017年7月)、詩の学校・お盆特別篇「それから」(2017年8月)、コモンズフェスタ2018「應典院を俯瞰する~レビュアーから見た應典院寺町倶楽部~」(2018年1月)、同meyou#9「シエルソル」(2018年1月)、同「グリーフタイム×演劇×仏教」(2018年1月)、SDNオープンセサミ 第9回「えーびーがたのひそひそ座談会」(2018年9月)、應典院コミュニティシネマシリーズvol.22「その日、恋は落ちてきた」上映会&トーク(2018年9月)です。演劇以外の企画も多かったと思いますが、レビュー執筆を通じて、どのような印象を持たれましたか。

髙道屋 レビューを書くのは全部むずかしいんですよ。「こうしたらもっと面白いのにな」っていう部分は素直に伝えたいと思うんですけど、やっぱり嫌われたくないじゃないですか(笑)。企画をされてる人にも、その企画にまだ興味を持ってない人にも、どちらにも良い顔したいと思うとむずかしいです。企画をされてる人には「この人が良いこと書いてくれて、参加者が増えたぞ」って思ってもらいたいし、まだ興味を持ってない人には「このレビュー読んで、試しに行ってみたら楽しかった」って思ってもらいたい。

最初の「いのちと出会う会」にレビュアーとして参加した時、「あまり、人いないんじゃないかな?」って思っていたんですけど、来てみたらたくさん人がいて驚きました。自分にとっての應典院は演劇との関わりが深かったので、演劇と関わりのない人たちがこんなに普段から出入りしていること、演劇の外側に向けて発信していることをはじめて知ったんです。應典院から演劇の側面しか受け取れてなかったんだと思います。逆に言うと、演劇人や演劇のお客さんと、そうじゃない場に来られている人との世界が交わってないんだなっていうのは感じました。

――確かに、應典院では本当に様々な企画が日々行われていますが、たとえば仏教に興味のある方は仏教イベントにしか来なかったり、演劇に興味のある方は公演にしか来なかったりして、関心の異なる方同士が出会う場がまだ少ない、というのは私たちも以前から課題に思っています。

髙道屋 SDNオープンセサミ「えーびーがたのひそひそ座談会」がすごく良かったんですよ。全く知らない人たち同士が集まって、それぞれ仲良かった友だちの思い出を話すんですけど、そのエピソードが次回の公演の一部になるっていう主旨の企画で。友だちの思い出とその舞台がつながるんだなって思うんです。もしかしたら、こういうことを色んなかたちでやってみたら面白いかもしれない。たとえば「いのちと出会う会」や「グリーフタイム」で生まれたことばをお芝居に乗せてみたり、「詩の学校」で書かれた詩を役者が読んでみたり、演劇をやってない人のことばをくみ上げて舞台化するというか、演劇の内と外をつなげていくのは面白いんじゃないかと。

――今までも何度かそういう試みをしていますが、それほど頻繁にやっているわけでもないので、いつか髙道屋さんにも何か企画していただけるとうれしいです。

髙道屋 うーん、そうですね…(笑)。普通に色んな人とお話がしたいですね。ある時、演劇のお客さんの過去を聞いたら、すごく面白かったことがあったんですよ。お客さんの顔をはじめてちゃんと見た、向き合えたって思いましたね。公演のときってお客さんが座っている状態で本番がはじまって、終わったら「ありがとうございました!」って送り出しちゃうんで、感想を言ってくださることはあるけど、その人自身が今までどうやって生きてきたのか、みたいな話は聞く機会がないんです。

いつもは「お客さん/役者」っていう線引きがあって、それは私たちの身を守ってくれるラインでもあって大事なんですけど、誰に対して芝居をしているのか分からなくなるというか、顔が見えないのに漠然と「ありがとうございました」って思ってしまいがちで。それよりは、お客さんの顔が見えたほうが断然良いなって思いました。

――そういう線引きを越えた場所って少ないですよね。この應典院も「お坊さん/檀家さん」みたいな線引きを越えたところにできた場所で、1997年に現在のかたちに再建したんですけど、1年くらいは誰も寄りつかなかったんです。だって「葬式をしない寺」で、本堂が劇場型になってますって言われても、ほとんどの人は意味が分からなかったと思います。うつ病の方がたまにフラッと来られて、静かなロビーで住職と何時間も話をする、そんな場所でした。数年かけて、たまたま演劇公演が入るようになって今に至るんですけど、そんな初期の頃にやっていたのが「水曜トークサロン」っていう企画で、色んな立場の人が水曜日に集まってただ話をするんです。昨年からは「おてらの終活プロジェクト」をはじめているので、たとえば家族を亡くした方や、ご自身の病と向き合ってらっしゃる方と一緒に、「ただ話をする」場づくりを再び進めているところです。

髙道屋 そういえば病気をしていたときは、自分が死ぬかもしれないっていう怖さとか、一緒に闘病していた友人がいなくなるショックとか、人間の脆さ、あるいは美しさをいっぱい感じました。應典院で演劇に復帰したときに、お墓を見て「ここに帰って来られてうれしい」という気持ちと、「ああ、こわかったな…」っていう気持ちとどちらもありましたね。

去年、2018年6月にあった地震は、阪神淡路大震災の時に0歳だった私にとって初めてちゃんと経験した大きな地震で、自然の怖さとか、改めて『死』と隣り合わせで生きているんだってことを感じました。漠然と不安な時にひとりだったら寂しいし、どうしたらいいか分からないこともたくさんあって。「生きるとは、死ぬとは何か」って、誰かに会って話ができる、聞いてもらえるのは、すごく大切なことだと思います。お坊さんの話を聞いたからって、納得できることもできないこともあるとは思うんですけど、自分の人生にとって「良い最期」ってどういうゴールなのか、それを見つけていこうって準備するのは大切だし、それを探せる場所があるっていいなと思います。

――ありがとうございました。最後に、今後の應典院に対して一言いただけますか。

髙道屋 應典院って「いつでも来ていいんだよ」っていう空気感なんですよ。いつでも来れるような気安さがあるかと言われたら、ないんですけど(笑)。でも、いつだって開いているからねって、実際に行ってなくてもそれを感じられるのが好きなんです。

私としては、「應典院にこれをやってほしい!」ってことは特にないんです。應典院が應典院であるっていうことに癒されている人もいると思うので、変化していくのと同じくらい、変わらないでいてほしいなという気持ちがあります。そういう変わらない部分に安心しているので、新しいことにも一緒に挑戦して、それをちゃんと見てレビューが書けたらと思います。

 

●レビュアー出演情報
N₂ 書き言葉と話し言葉の物性を表在化する試み Tab.5 『退嬰色の桜 – Borderless is born from pillar of wife.』
2019年3月8日(金)~11日(月)
@クリエイティブセンター大阪 ブラックチェンバー
08日(金) 15:15 / 19:15
09日(土) 11:15 / 15:15 / 19:15
10日(日) 11:15 / 15:15 / 19:15
11日(月) 11:15 / 15:15
*終演後アフタートークあり
■ Ticket ■
|一般|前売券 3,000円 / 当日精算券 3,500円
※前売のお値段は3月3日までです(事前振込)
ご予約(髙道屋扱い)はこちら
作・演出・宣伝美術 = 杉本奈月/カンパニーメンバー = 秋山真梨子(以上、N₂)/出演・テキスト = 澤井里依(舞夢プロ/EVKK) 髙道屋沙姫(かまとと小町) 電電虫子(劇団冷凍うさぎ)/照明 = 八若奈菜子(京都造形芸術大学芸術学部舞台芸術学科3年)/演出助手 = 小林佳太郎(猿の左手)
[ 制作 ] N₂制作部 [ 主催 ] N₂
080-5237-8403 / gekidann2@gmail.com
オリゴ党第42回公演
「無と0」
作・演出/岩橋貞典
日時/
4月6日(土)15:30〜/19:30〜
4月7日(日)11:00〜/15:00〜
会場/音太小屋
料金/前売 2300円、当日 2500円、学生 1500円(要学生証提示)
ご予約(髙道屋扱い)はこちら
出演/
田中樹
陸田翔希
田中愛積
有馬ハル
誉田万里子
出本雅博
めり(浪花グランドロマン)
髙道屋沙姫(かまとと小町)
灰治