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2020/11/4 切り絵で描かれた、日本人の弔いの原風景。

昔のお葬式の切り絵といっても、ピンとこないのではないか。10年間「SOGI」に連載された切り絵に、追加取材をしてまとめたのが、高橋繁行さんの新刊「お葬式の言葉と風習 柳田國男『葬送習俗語彙集』の絵解き事典」(創元社)だ。

 

切り絵といえばメルヘンを連想するが、高橋さんが描くのは生々しくも日本の弔いの風景である。葬列、枕返し、納棺、湯灌、野帰り、さらに風葬まで、多くは現代から失われた風習であり、土地や古老の記憶の中で語られる「伝記」である。

葬送に関する言葉なのに、恥ずかしながら、私もほとんど知らないものばかり。「魂呼ばい」「火をかぶる」「めでたい木綿」「引っ張りモチ」、さらに「広島へタバコを買いに行って」等々、言葉を見ただけでイメージすることは可能だろうか。

 

原著である「葬送習俗語彙集」は、民俗学の祖・柳田國男が昭和12年にまとめたものだが、隠語だらけの弔い用語は一読してもイメージがつかめない。高橋氏はこれを「画にする」ことを目的に、自ら追加取材も行い、見事な切り絵による視覚化と再読を試みた。全国各地の習俗の原型が紹介されるが、関西には今も「土葬」が残る地方があると知って驚きもする。

 

コロナ禍となって、葬儀が縮小した、一日葬が増えたという。お葬式の大小が本質ではないが、要するに弔いはシステムに飲み込まれていく。葬式そのものが、意味の乏しい手続きになってしまっている。

本書は、遺体や死者をどう扱うのか、そこへの敬いや怖れをどう表現してきたのか、という日本人の葬送文化の原風景を知る格好のテキストである。同時に、現代において、私たちが何を失ってきたのか、省みるに重要な書物だと思う。

人物(五十音順)

秋田光彦
(浄土宗大蓮寺・應典院住職)