2024/9/13【住職ブログ】生き残るか、「個寺」と教団の連立/共存
生き残るか、「個寺」と教団の連立/共存
寺の使命は、「伝道拠点」である。伝道とは教えを広め、信仰を促すことであり、布教とも教化とも言い換えられる。何も知らない無知な人々を、神仏に仕える宗教者が導くという意味合いが強い。最初から立ち位置は、上下にしっかり固定されている。
30代の頃、新人の「宗教者」として、初めて教団に足を踏み入れた時、どうしようもない違和感に襲われたのは、その縦の支配関係だった。檀信徒は、忠実な従属者であり、そこへ定番の儀礼と説法を「伝道」すれば充足されてきた時代が確かにあった。40年近く前のことなのだから、まだ昭和の上下関係が現役だった頃の話だ。
当時の教団が世間の変化に無知だったわけではない。人口動態を読み込んで、「家から個の時代」到来にどう即応するか、みたいな未来検討会もあるにはあったが、それがそれぞれの布教の現場に活かされた事例はないに等しい。伝道拠点といいながら、そのスタイルはおよそ半世紀の間、固定化されたままだったのだ。
一部の例外はある。有名な松本市の神宮寺がそうだし、京都の法然院もそうだ。90年代から活発な個寺(一般には末寺というがあえて個寺と呼ぶ)の動きが見られたが、共通していたのは、教団とは一線を画して、独自の(住職の理念やセンスを反映した)イベントが展開されていた。應典院も初期の頃は、「イベント寺院」とよく揶揄された。集客イベントではなく、磁場としてイベントを活用したのだ。
教団の教化施策に意見を申す立場にない。教師も檀信徒も、内部だけで自己完結していく方法は、おそらくこれからも続いていくのであろう。他者を巻き込まず、外部に開かれていかない。私には、教団は、一般客お断りの会員制高級店のように見えるのだ。
私が危惧するのは、次世代である。家族葬や墓じまい、仏事の省略化など寺院活動の基盤である現象の大変化は、家族のイニシアティブが世代交代していることに起因する。終活世代は、無言の従属者ではない。物申し、選択し、意思決定する「個人」なのだ。教団はそれに気づいているが、どうにも手中の策がない。いや、そもそもトップダウンでできることではないのだ。
教団外に変化は見られる。このテーマはいずれ改めて書きたいのだが、失われた20年の間に、住職の若返りやS N Sなどが相乗化して、面白い「個寺」が登場しつつある。終活あり、グリーフケアあり、子ども食堂あり。これを「伝道」とはいわないだろうが、しかし、本堂が会場で、僧侶が介在していれば、人の目には伝道の拡張と映るだろう。寺院の社会活動といってもいい。ここでは布教のスキルも違えば、対象も違う。「成果目標」みたいなものも違う。宗教と社会が接続した場が次々と立ち上がっている。
應典院がそうした年譜にどうかかわってきたか、自分では評価できないが、唯一特異なのは、アートと宗教の親和性を信じて、若い世代のアート活動をサポートしてきたことだろう。アーティストと呼ばれる無名の人たちと、宗教者が相似的な存在ではないか、というのも私の持論であった。今どきお寺でアート、は珍しくもないが、会場提供だけでなく、アートの生成プロセスを作品づくりに留めず、地域や人間の内省変化にまで据えた(精度はともかく)あたりに独自性があったのかもしれない。
10月19日から「極楽あそび芸術祭」を開催する。5月のアート展に続く、第2弾だ。今回もN P Oのディープケアラボとの協働である。おそらく500人を超える若者たちが集まってくるのではないか。
もちろんこれを伝道とか、布教とは言わない。しかし、貸し会場でもない。仔細はサイトを見てほしいが、「極楽」をめぐるトーク、アート、街歩きなどが計画されているが、教団内部からはまず発想できない(できたとしても実現できない)アクティビティである。外に開き、次世代に向き合おうとしている。ここで寺の役割は、(私や息子も登場はするが)場をひらき、毎日の勤行と掃除を欠かさないことである。目下の私の課題は、宗教者としてどこまで関与するのか、という点なのだが、それはともかく本物の場は、宗教者が前に出ずとも、自律的に動き始める。
長々と書いたが、私は教団批判をしているのではない。教団の役割に限界はあるが、かといってどの寺も「個寺」になれるわけではない。教団はゆるやかなに「末寺」を包括して、時に意識や一体感を涵養するインフラ的役割はある。その時、個寺を別物扱いするのではなく、個寺と教団がいい意味で連立する、共存していくのがいいのではないか(難しいかな)。
應典院はもう出過ぎたので、打たれることが少なくなったのだが、しかし、新しい仲間を迎えて、いつまでも過激な「個寺」でありたいと思う。
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