2017/10/30-11/5 坂本涼平:大塚久美子個展「私の中の命のかたち Shapes of Lives in Myself」レビュー
應典院寺町倶楽部との協働により、モニターレビュアー制度を試験的に導入しています。10月30日(月)から11月5日(日)までの1週間、画家の大塚久美子さん初めての個展「私の中の命のかたち Shapes of Lives in Myself」を開催しました。8点の切り株と2点の樹皮の絵画作品が本堂の床に並べられ、ご本尊が見守る中で、まるで應典院の森を散策しているような空間が立ち現われました。今回は、劇作家・演出家の坂本涼平さんにレビューを執筆していただきました。
静謐なお堂の中で、命の切り口に滲む赤を見る。生命力の発露にも、死に至る傷口にも見えるその赤は、確かに私の血とも同じ色をしていた。
應典院本堂ホールの中にならぶ、八つの切り株。それは、作者がある公園で見つけた、ひとかたまりの木々の痕跡を模したものだという。切り株の断面は真っ赤に染まっている。
この赤が、実に悩ましい、と筆者は感じた。赤は生命の色であり、血の色であり、死に至る色であるからだ。作者の意図は、この赤に強烈な生命の気配を感じてほしいのかも知れないが、筆者は、残酷な死の気配をまざまざと感じた。刈り取られ、傷口に血を滲ませる、死にゆく森。激しい痛みを感じさせるかのような赤に怖気立つ思いがした。
それは、魚の切り身が突然、損傷した死体にしか見えなくなったような、日常のベールが乱暴に引きはがされるような感覚だった。どこにでもある、見慣れた切り株は、それでいて一つとして同じ形のものはない切り株は、個性を持った命の死体なのだ。
そんな第一印象を経て、筆者はここに、命のまぶしさを感じられるか試してみた。切り株の延長線上に、赤が発するその先に、木の幹と、伸びる枝、繁る葉を想像する。切り取られた空間は、ただ不在を示すだけでなく、そこにあった存在を否応がなく想像させるかも知れない。さらに、木漏れ日、風にそよぐざわめきを想像する。それは、ともすれば空虚な幻想かも知れないが、あの赤が、確かな命があったことを証明する。
そこまで考えて、筆者ははたと立ち止まった。この場では、命と死は二項対立ではないのだ。命は死なのだ。そして、この赤は、もちろん私の中にもある。やがて来る死が、私の中にあらかじめあるのと同じように。それは、この作品の作者が、切り株を覗き込んだときと同じ気づきかどうかはわからないが、筆者にとっては、大きな気づきであった。
〇レビュアープロフィール
坂本 涼平(サカモト リョウヘイ)
劇作家・演出家。1985年大阪生まれ。芸術学修士。研究テーマは「悲劇論」。
2009年に劇団「坂本企画」を立上げ。「ほんの少し、ボタンを掛け違った人間の悲劇に寄り添う」ことをテーマに掲げ、非日常的な世界での静かなセリフのやりとりに、社会に対する寓意をしのばせる演劇を作り続ける。
ロクソドンタブラック(現Oval Theater)主催「ロクソアワード2012」スタッフワーク部門最優秀賞、演出部門三位、総合三位受賞。
〇レビュアー公演情報
2018年2月23日〜25日
應典院本堂ホールにて、記憶と人の死をテーマとした演劇を上演予定。
坂本企画 15 『寝室百景』
詳細は「坂本企画の舞台裏ブログ」にて。(http://blog.livedoor.jp/tottengeri/)