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2018/4/7-8 二朗松田:プラズマみかん「シルバー・ニア・ファミリー」 レビュー

4月7日(土)、8日(日)の2日間、應典院寺町倶楽部協力事業としてプラズマみかん「シルバー・ニア・ファミリー」が應典院本堂で上演されました。迫りくる超高齢化社会を全力疾走する、プラズマみかんの記念すべき10回目の本公演。観劇された方々に様々な思いを抱かせるものでした。今回はデザイナー・脚本家・演出家の二朗松田さんにレビューを執筆していただきました。


会場に入ると、左右に客席が分かれてまして。

その間に舞台があり、客席に挟まれてる格好。

こういうのも囲み舞台って言うんですかね?

ファッションショーみたいな感じというか。

演劇でもたまに見る形ですが、

こういうトリッキーな舞台の組み方をした時って、

そこにちゃんと意味があるかどうかが凄く採点に関わると思ってて。

実際にしてるわけじゃないけど採点。心の。心の採点。

 

この組み方だと舞台の向こう側にお客さんの顔がズラッと見えるんですね。

向こう側のお客さんもまたこちらが見える。

寝てる人とかおったらメッチャ分かる。

普通のお芝居ならこうはしないですよね、

普通のお芝居は基本、ここではないどこか(GLAY)を作るわけですから、

お芝居の向こうに全然関係ない顔が見えたら邪魔なはずなんです。

 

『シルバー・ニア・ファミリー』をTwitterで感想を検索してみるに、

しんどかった、きつかった、心に響いた、ぐさっときた、

などという言葉が並んでます。

みなさん、自分の人生と照らし合わせて観てらっしゃったんでしょう。

 

舞台は、老いゆく母の重力に自分の仕事や結婚、

もしくは人生そのものが引きずられる様を描きます。

 

言うたらなんですけど、

演劇人も演劇ファンもまぁまぁ歳とってきてるんです。

いやそりゃ若者もいるはいますけど。

いますけど、全体的な高齢化は明らかで。

斯くいう私も最早完全なおっさんで、

両親ともに80歳越えてます。

劇中のようなことが明日起こるとも限らないわけです。

 

今回の客席の組み方は、

舞台と客席が地続きであり、

このお話が我々観客と無関係ではない、寧ろ当事者である、

ということの示唆だったのではと考えます。

少なくとも私にはそう作用しました。

 

演劇人・演劇好きなんて大体がそういう面倒臭い事情から

出来れば見て見ぬ振りをしたい人たちなわけですが、

そんな親不孝たちに「お前たちの手にもバトンは既に渡ってるんだぜ!」

と喝破する一作だったと思います。

 

バトンと云えば、

作品全体の軸にもなる運動会モチーフの使い方とかメッチャ上手かったですね。

 

例えば、演者さんは全員「娘」とか「会社員」とか

何かしら書かれたゼッケンを胸につけてます。

これには、

1、運動会感強調

2、二役三役ある人の混乱を避けるための説明

3、肩書き・立場・職業などパーソナリティを表すレッテル

4、メタ感強調

と、幾重にも意味が備わってます。

 

で、そのゼッケンを外すと「私」が出てくる、

というオチにもしっかり繋がる。上手い。

 

ラストで「私」は母から離れるという選択をします。

この終わり方はモヤっとします。

このモヤっと感は恐らく主人公真紀が今後感じ続けていくだろうモヤっとなんでしょう。

そもそも無言電話受けたくらいで心配して親元帰るような娘ですから。

 

正しくないかもしれない、が、それが「私」の選択である以上、

彼女はそれに従って歩いていかなければならない。

「私」というレッテル貼って生きるのは、

それはそれで結構キツい、覚悟のいる作業かもな、とか思いました。

 

このように決してスッキリはしないラストなんですが、

でも実は、中盤くらいにスッキリポイントがあって。

 

前半は主に学校が舞台で、

女子高生とその母のお話が出てきます。

この二人は真紀親子と対になってる、

っていうか過去の真紀親子、みたいに設定されてる。

二人の仲は良くない、父とも良くない、

母は娘に理想を押し付け、娘はそれに反発する、

しかし、真紀がオーガナイズした運動会を機に事態は好転する。

特にお母さんなんて、テンション上がってピアニストになるとか言い出す。

 

つまり真紀は、生徒親子を救った、

と同時に自分たちの過去も救った、みたいにも見える。

こうなったかもしれないもう一つの可能性、一つの希望が示されてる。

ここら辺、先生という設定が活きつつ、ちょっとSFっぽくて良かったです。

 

あと、衣装も運動会に合わせて紅白になってる、

とか、最後に掛かるYO-KINGの曲、何て曲?

とか、海を渡ってるっぽいのに「モルダウ」?

あ、「我が祖国」ってこと?

とか、色々しがみがいのある作品でしたが、

この辺でやめときます。

 

プラズマみかんさん、お初だったんですけど、

いい意味で裏切られました。

こんなにロジカルだと思わなかった。

劇団名からもっとファンタジックなのを勝手に想像してました。

失礼しました。

大変面白かったです。

 

採点!

みかん三つです!

 

〇レビュアープロフィール

二朗松田(ジロウマツダ)

デザイナーの傍ら、演劇・映像作品の脚本も手がける。演劇ユニット「カヨコの大発明」の全ての脚本・演出を担当。
2015年、脚本を担当した短編映画「ウェルテル無頼」が48Hour Film Project大阪にて作品賞、脚本賞受賞、また同作品はFilmapalooza 2016(アトランタ)、カンヌ国際映画祭でも上映される。

人物(五十音順)

二朗松田
(デザイナー・脚本・演出家)