2018/8/31-9/2 室屋和美:Forum Enters The Theater #1 「供犠」レビュー
去る8月31日から9月2日まで、應典院寺町倶楽部の新たな主催事業 Forum Enters The Theater #1「供犠」が上演されました。第一部の公演パートは竜崎だいちさん(羊とドラコ)作演出のサイコホラー、第二部のエチュードでは公演の登場人物が本物の臨床心理士のカウンセリングを受け、第三部のトークで一同がふり返りを行うという、実験的・刺激的な内容となりました。今回は、劇作家・役者・WEBライターの室屋和美さんにレビューを執筆していただきました。
FETTことForum Enters The Theaterという企画。今年三月に行われた#0を起点として二度目の開催です。今回の#1は竜崎だいちさん(羊とドラコ)が脚本・演出を担っています。私は前回の#0を拝見していますのでもう企画構成は把握していましたが、初めて来る方はちょっとよく分からないかもですね。
FETTは1ステージで「お芝居」「なんらかの専門家であるゲスト(知恵ゲスト)と一緒に即興劇」「アフタートーク」の三部構成になっています。このへんはチラシやパンフ、前説でもかなりしっかりと説明がなされております。ゲストは臨床心理士というくくりで宮原先生・大宅先生がいらっしゃっていました。会場は應典院二階の本堂。舞台もしっかり作ってあって普通に本公演の趣きです。舞台上は平面舞台がやや大きな段差で三つのエリアに区切られていて、お話の時系列が前後したり、同時多発的に発生する事件をわかりやすくしていました。お芝居のあらすじについては〈愛憎絡み合うサイコ・ホラー〉とチラシにあります。このチラシがとても怖い。真っ黒なチラシに、苔むしたような緑のフォントで「供犠」。すごいタイトルだ。ひと目でホラーなんだろうなって感じです。
登場人物は、高校時代写真部に所属していた三人の部員と顧問教師。社会人になって再会を果たした四人が、互いに疑心暗鬼になり不気味に追い詰められて行く様子が描かれてます。一見仲のいい四人ですがそれぞれ腹に一物抱えている。
しがない事務スタッフの千代子、人気パティシエのいちこ、マーケティング部の桃井、そして教師をドロップアウトしてフリーライターになった餡藤。四人の間には痴情、嫉妬、憎しみがある。過去をひも解いていくうち、教室でコックリさんをしていた現風景へと辿り着きます。
一言でいうと「ドロッドロ」。日曜朝からすごいもんを見てしまった。望みを見せない絶望と破壊衝動。この振り切りっぷりが竜崎さんらしいなと感じます。普段書かれているファンタジー作品と毛色は違えど、重厚な世界観は変わらずです。月並みな言葉ですが「人間がいちばん怖い」、そういう作品でした。
劇中には事故や性愛や監禁・拷問など多少ヘビーな表現が多用されていて、そこで高笑いをあげる男女はもちろん怖かったんですけど、自分がゾッとしたのは岡村圭輔さん演じる桃井の舌打ち。さっきまで片思い女性とイイ感じの会話してたのに!お互い褒め合って称え合って励ましてたのに!男女の友情だ、いや片思いも美しいなと思ったのに。一人になった途端に桃井は「やらせろや」と舌打ち。これが生っぽい。また岡村さんがカッコイイので余計リアルですよ。やだよ~こういう人間の嫌なところは見ないように避けてるのに、と思わされてしまった。隣にいる人たちがみんなこんな感じだったらすごく怖いよ。多角的に「ヤな感じホラー」にボコボコにされて心地いい痛みです。コックリさんを彷彿とさせる役者たちの指使いが耽美的でよかったな。
即興劇パートでは、知恵ゲストとして大宅先生が参加。私はこのチャプターがこのイベントの妙というか肝だと感じています。誤解を恐れず言うと、めちゃくちゃギクシャクしてる。臨床心理士の大宅さんはセルフドキュメンタリー的な感じで普段どおりの自分・ロールプレイをされていて、役者さん(この回は細野恵美さん)は劇中役のまま知恵ゲストと対話をします。
ここはハッキリ言って演劇的な面白さは無いように思います。先生のギリギリ聞き取れるか聞き取れないかの声量よ。それに即興って役者さんのテクニック発表会みたいで好きじゃない(個人の意見です)。よっぽどの推し役者が出ているか鍛え上げられた技を目の当たりに出来ればわくわくもしますが、そうでない場合は見ててしんどい。
前回このチャプターを見た時「どういう風に見たらいいのさ」と困ったものですがただ今回このチャプターは「ロールプレイ(模擬演習)」という補足がなされていて、それが鑑賞の助けとなりました。なるほど。演技だと思うからしっくり来ないんだ。あくまで「のぞき見」させてもらってるんだ、という気持ちで見れました。
そもそもカウンセリングとはすごく閉鎖された空間なわけです。最後のトークで先生が「一回のカウンセリングで答えを見つけるのは難しい」とおっしゃってましたが、そういうわけでこの15分間は山ナシオチナシになる。完結は難しい。そして臨床心理士さんは声の小さい方がほんと多いのです。カウンセリング相手をおびやかしてはいけないのでね。そっと寄り添い共感してあげて、自己一致を助ける。そういうプロのちゃんとした仕事を見させてもらったわけです。ああしなさいこうしなさい言わないのが凄いですよね。
「一緒になる、というのはどういうことを指しますか?」
「彼が手に入ったらどうしたいですか?」
「一緒に居たらどういう気持ちが湧いてきますか?」
こういう考える力を助けるんだなってお話の仕方がすごく面白かったです。
ただその本気の相手がキャラクターでいいの?って感じ。もちろん細野さんはしっかり役作りされてますけど、見てる人は虚構のもの、と初めから引いて見てますから。知恵ゲストのお仕事見学と、役者の即興。楽しむ二つの点の方向性が違っていて混乱しちゃうかな。「即興」「エチュード」という表記をやめてロールプレイ一本化するとか、対話中に出るエピソードのみは役者が本当に心動かされたことを提供するとか。そういう風に変えるのどうでしょう。いやいやこれはこれとして楽しんだらいいのかな。良くも悪くも主役がふたりなのですよね。実験的な試みです、今後が楽しみです。
最後のトークでは大宅・細野・桐山・戒田・竜崎さんの5人で作品についての掘り下げ、役作りについてなどを話されていました。桐山さんはちょっと喋ると軽快なしゃべくりで役とギャップあるのいいですよね。ホッとしちゃった。大宅先生が「緊張しました」と話しされてるのが印象的でした。ぜんぜんそんな風に見えなかったですよ。次回はどんな知恵ゲストが来るんでしょう。
皆さんも面白い芝居と本気のギクシャク、いっぺん観に行ってみてください。
○レビュアープロフィール
室屋和美(むろやかずみ)
劇作家・役者・WEBライター。1984年兵庫県神戸市生まれ。
近畿大学演劇芸能専攻・劇作理論コース中退。
2012年から『劇作ユニット野菜派』を立ち上げ。
以前は『劇団八時半』『コトリ会議』などに所属。
劇作家の活動として、戯曲「どこか行く舟」がAAF戯曲賞佳作を受賞。
世間のさえない領域で静かに呼吸している小魚のような、ひそやかな人々とその切実さを好んで描く。
◇近年はご依頼をいただいて劇作をしたり、大喜利や官能小説のイベントに出演したりしています。
趣味はマンガを読むこと、お笑いの舞台を見ること。小さな畑の世話もしています。いつでもなんでも気軽にお声かけください。
Twitter: @ooiri_muroya
◇活動告知
(1)毎年盛況の一人芝居フェスティバル「INDEPENDENT:18」に参加します。
脚本私、演出は大沢秋生さん(ニュートラル)、役者は是常祐美さん(シバイシマイ)です。
豪華なユニットが競演するこの機会をお見逃しなく!
最強の一人芝居フェスティバル〈INDEPENDENT:18〉
日時:2018年11月22日(木)~25日(日)
会場:in→dependent theatre 2nd
大阪メトロ堺筋線 「恵美須町」駅1A出口 右手(北)5
詳細:http://independent-fes.com もしくはインディペンデントシアターHP
(2)動画配信サービス「観劇三昧」にて、私が作・演出を手掛けたお芝居、「そこはかとなく優しくフィット」の動画が期間限定配信中です。(~2019年1月末頃)
会員登録後〈有料/月額980円で全動画見放題〉ご覧いただけます。お試しで3分間の無料視聴も可能です。
作品詳細: http://kan-geki.com/member/play.php?id=962
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