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2018/9/14-17 陸奥賢:道頓堀セレブ『トップガールズ』を開催いたしました。

去る9月14日から17日、應典院寺町倶楽部協力事業として、道頓堀セレブ『トップガールズ』が應典院本堂にて上演されました。英国の人気女性劇作家キャリル・チャーチルが1982年に発表した作品と、関西で活動する個性豊かな女優陣。東京公演を今週末に控える本作は、その骨太な戯曲と役者の確かな地力によって、沢山の方々にご来場いただくとともに、好評を頂いています。今回は、應典院寺町倶楽部執行部役員の陸奥賢さんに、開催報告を寄稿していただきました。東京公演への期待も込めて、感想を頂戴しています。


9月14日。道頓堀セレブvol.2「トップガールズ」を観劇しました。

「トップガールズ」は1982年が初演で、イギリスの女流劇作家のキャリル・チャーチルの作品。当時のイギリスはサッチャー政権で、イギリス史上初の女性首相の時代になります。

1982年といえばぼくはまだ4歳。もちろん、なにも覚えておりません。子どもの頃の「働く女性」といえば「ヤクルトレディ」というイメージでしょうか…。日本では女性の管理職なんてほとんどいなかった時代ではないかと思います。

実際に気になったので、ちょっとインターネットで検索してみると、日本婦人有権者同盟が1982年に発表した「都道府県、政令指定都市における婦人の政策決定参加状況調査」では、職員中課長以上の女性比率は2.3%というデータがあります。選挙権を持っている女性で、課長以上は100人中2名ぐらいしかいない。

ちなみに2018年の女性管理職の平均割合についてのデータ(帝国データバンク)もありまして、こちらは上場企業の女性管理職は平均5.1%。この36年間で2.3%から5.1%に上がったわけで、女性管理職は「2倍になりました」といえるかもしれませんが、「いまだに管理職の90%は男性が牛耳っている」ともいえます。

話がそれました。物語は、ロンドンで働くキャリア・ウーマンのマーリーンが主人公で、彼女が昇進して、その祝賀パーティーから始まります。これが第1幕ですが、このパーティーの参列者がとにかく面白い。

中世の伝説上の人物で855年から858年まで在位したとされる女教皇ヨハンナ、帝や愛人との関係を自伝『とはずかたり』の作者である後深草院二条(1258~1304以降?)、ブリューゲルの絵画『狂女フリート』(1561年作品)の中に登場する狂女フリート、女性探検家のイザベラ・バード(1831~1904)、ジェフリー・チョーサー(1343年?~1400)が書いた『カンタベリー物語』に登場する貞淑な妻グリゼルダなどなど。

時代も国境も超えて、実在の人物も架空の人物も入り混じっている。劇中には、なんの説明もないので、出てくる女性たちを観て、最初は面食らいますが、おそらくマーリーンの妄想か?夢か?うつつか?といった描写なんでしょう。

また登場する女性たちは、主人公マーリーンの昇進祝いの口上のはずが、いつのまにか自分語りとなり、その波瀾万丈の物語に夢中になって、熱狂していく。強烈女子会、猛烈ガールズトークといった様相で、対話・会話はまったく先に進まずに、ただただ、自分たちのいいたいことを喋るだけで(誰も相手の話をまったく聞いていない)、横滑りしていく。さらに二重三重にみんなが同時に自分のいいたいことをいうもんだから、途中から観客も完全に置き去りです。

まぁ、こういう芝居は、雰囲気とか、状況を楽しめばいいんでしょう。女性が3人寄って「姦(かしま)しい」という漢字が成り立ちますが、歴史的、伝説的なトップガールたちが、4人、5人もいては姦しいどころの騒ぎではなく、阿鼻叫喚のサバト(魔女集会)のような光景が繰り広げられます。でも魅力的。じつに魅力的。ここだけ、もう一度、観てみたいというぐらいの名シーンで、ぼくの中でハイライトでした。

しょっぱなの第1幕が飛ばしまくって、「これ、この先、どないなるやろう?こんなテンションで2時間は大変やで…」と思っていたら、後は、現実世界の話というか、主人公マーリーンの人材派遣会社での悲喜こもごもや、複雑な家族(姉妹、母娘、叔母と姪)の話などが、いろいろと展開していって、骨太の人間ドラマでした。

このギャップのある構成が、じつに巧み。作者のキャリル・チャーチルさんの他の作品も機会があれば、追い掛けてみたいと思います。

道頓堀セレブのみなさんは熱演。これ、パワーがいると思います。脚本の熱量が凄いので。コント的な、大阪ノリの部分もあって、笑えます。東京公演も控えているとか。どういう反応がでるかな。ツイッターで追い掛けかけたいと思います。

人物(五十音順)

陸奥賢
(観光家/コモンズ・デザイナー)