去る1月19日に、無名劇団再演シリーズ『私戯曲りんごのうた』(コモンズフェスタ2019)が開催されました。今回で3回目の上演となる、演出の島原さんの実体験をモチーフに「歪な愛」について描かれた作品。ステージタイガー所属俳優の白井宏幸さんにレビューを執筆していただきました。
公演に向けての稽古や、準備が大忙しになってきた頃、再び應典院での「コモンズフェスタ2019」に足を運びます。
最近は割とちらほらと見られるようになってきました、土曜日の11時公演。
朝早くに感激を済ませられるから、そのあとの用事をしようと思っても、お昼過ぎから動くことができる。そんな認識でおります。夜型人間である僕は見習わなければなりません。
かくいう僕も、この日は11時の無名劇団さん、19時からのトークサロンの予定をいれ、その間に小道具の買い出しだったり宣伝活動であったり、いろいろの予定にあちらこちらに動いておりました。
これまでなんども再演をされてきたという「私戯曲」つまり、ご自身のお話を書いたというもの。
どうも、「私戯曲」という言葉が、あまり見つかってこないのであります。定義といったものを調べてみても、それらしいところにたどり着きません。造語、といって良さそうな立ち位置にある言葉です。とはいえ、さほど難しく捉えることはなく、作家、島原夏海さんが個人として経験したことを戯曲に落とし込んだもの。といった認識で問題なかろうと思います。
自分を育てるその中で、非常に厳しく、その躾、その愛情に苦しみ成長したご本人のお話を、作品として振り返る過程。
これまで、幾つかの角度から再編され、再演されてきたと伺いました。まさしく、僕は、その「前に作られた」作品がみたくなりました。しかし、おそらくですが、二度とその機会はないでしょう。みずしまさんと、そのおばあさま。その間にあった出来事には、基本的には変わりはなく、つまり、事実はひとつのみ。あとは捉え方の違い。島原さん自身、確か「愛情編」と位置付けていたようでした。
演劇的な側面から。
戯曲、台本、テキスト、脚本、いろいろな言い方がありますが、物語をお客様にお見せするにあたり、ある程度の約束事を持って綴られているものを我々役者は手に取り、作品作りに取り掛かっています。僕自身は「台本」という読み方を好みます。最終的にお見せするための「踏み台」になるものであるから、と。とある作家さんが、自身が生み出すものを謙遜して言われたものを、耳にしたためです。台詞だけでも、物語だけでも、成立するものではないという考え方を伝えてくれる、そう思ったからです。
さて、その台本には、登場人物が話す言葉、そして、ト書き(とがき)があります。ト書きとは、例えば、怒って部屋を飛び出す、ショックのあまり泣き崩れる。書いていて背筋が凍るような語彙力の乏しいト書きですが。
これらのト書きやセリフの根元に当たる、理由や感情を考え、整理し、あるいは突発的に、演じるのが俳優の役目の一つだと思っています。(俳優について語るとすべてのものがまた自分に返ってくるので本当は書きたくないんですが)つまり、その言葉の意味や、行動の意味を深く考えて、再現するわけです。
今回は、島原さんが、島原さんを。おばあさまを泉さんが、それぞれ演じてらっしゃいました。
なぜ、こんなにも怒っていたのか、なぜ、褒めてくれなかったのか、なぜ、なぜ、なぜ。
そうして、演じるために理解しようという取り組み、そして理解の対象が、自身の祖母であり、その行動である。
ホントかどうかわかりませんが、古来、災いに対して、先んじて疑似体験をしておく、という演劇の役割があったとかなかったとか。今回の作品に関しては、劇作こそがひとつのセラピーになっているんではないかと思います。
「激情編」から始まり、今回は一連の言動、行動が、愛情に基づくものであったらどうだったか「愛情編」というものに”挑戦してみた”とおっしゃっていたように記憶しています。その結果がどうであったかはご本人にしかわかるべきもないことでしょうが、同じような経験をし、同じような傷を持った方にとっては救いの演劇になったんではないかと思います。
いつかは、ご自身が、おばあさまを演じてみようと思われるかもしれません。
余談ですが、應典院の二階に上がる階段の壁面に、今回のために島原さんがいろいろな人にインタビューをし、その記事をたくさんあげておられました。人間としての中身が充実していて、とてもチャーミングな方に、これからどんどんとなっていかれるんだろうなと思いました。
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白井宏幸
おそらく関西小劇場で唯一カンヌ国際映画祭のスクリーンに映った俳優
ステージタイガー所属俳優
SHASEN × ステージタイガー
『スロウステップスマイル ~笑わない少年と家出少女~』
【日時】
2019年2月2日(土)~3日(日)
2日(土) 19:00~
3日(日) 13:00~ 17:00~
【会場】
あべのハルカス近鉄本店ウイング館8階 近鉄アート館
【料金】
一般 前売2,500円 当日3,000円
学割 1,000円(大学生含む、要学生書提示)
※ 全席指定席
【特設サイト】
http://st-tg.net/_sp/sss/