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2019/2/26  岩橋貞典:映画&トーク『金哲義短編集』應典院マンスリーライトシネマ レビュー

去る2月26日に、第1回目となる、應典院マンスリーライトシネマ(映画&トーク『金哲義短編集』)が開催されました。劇団MAY主宰の劇作家にして映像作家でもある金哲義。代表作である『光の葬列』のほか2作品の叙情溢れる珠玉の短編集が上演され、温かみのある空間に賑わいました。今回は、脚本家・演出家の岩橋貞典さんにレビューを執筆していただきました。


記憶と映像と現実と

あれはたぶん高校生の頃、親父の知りあいの電気屋が、販促であろう、ビデオデッキをもってやってきて、親父は新しいもの好きなのでころっと手玉に取られ、うちにビデオデッキがやってきたのだった。その電気屋はその後もなにかとうちに現れてはあれこれと新しい商品を見せ、親父を誑かす。その中に、当時まだ一般に販売されて間もないビデオカメラがあったのだった。昭和ももう終わろうという頃だった。
自分の話はどうでもいい。應典院で映画を上映するというので行ってみた。演目は、『金哲義監督短編集』。マンスリーライトシネマという新しい企画で、毎月映画上映&トークショーをするとのこと。その映画も、大劇場でかかるタイプの作品ではなく、自主上映作品が中心みたい。で、今回は、劇団Mayの金哲義氏がちょこちょこ撮り溜めた短編を一挙公開、というわけなのだった。金哲義氏とは堅苦しいので、以降、金君と呼ぶ。
時間前に到着し、会場に入ると、既にトークショーらしきものが始まっていた。いや、あれはきっと、客入れトークなのだと思うが、明らかに「おっぱじまって」いた。金君お得意のノンストップマシンガントークで、周囲にいる誰もが思いっきり引っ掻き回されて、上映前には客席は完全にホカホカなのであった。もしかしたら本編よりこっちのトークのほうが面白いのでは、と、一抹の不安を覚えつつ、いよいよ上映開始。
今回、上映されたのは、四作品。順に見て行こう。
『光の葬列』…父と娘の交流を描いた作品。ちょっとぎくしゃくしたつくりだなと思ったら、なんと、父パートと娘パートが別々の日に撮影されたとのこと。そりゃ同一画面に入らんわ。なんてトリッキーなところから始めるのか。チラシ等で使われているラストの娘の振り返るシーンの圧倒的な美しさだなあ。
『「アリョンの景色」のための練習撮影』…長いタイトルだが、『アリョンの景色』という作品を撮るための習作とのことで、断片がいくつか。しかし、これが一番面白かった。アリョンというのは、主人公の女の子。彼女があまりに可愛いので死にそうになった。中学生~高校生くらいの子(男女ともに)は、みるみるその姿が変化してしまう。成長してしまう。幼さとちょっと背伸びした感じが一緒に現れるその瞬間を、それだけを切り取った作品。これはもうこれだけでいいのでは、と唸った。もし今、同じ彼女を撮っても、この絵にはならないだろう。時間を封じ込めることの儚さと残酷さを思い知らされた。
『Shooting Alone』…金君が撮影の練習用にひとりでぶらぶらほっつき歩いたりして、試し撮りしたもの。一本の作品ではなくて、三本の掌編である。面白かったのは、一本目。単純に手持ちしたカメラを自分に向けて、撮りながら歩き回っているだけのもの。人が歩いているということは、けっこう情報量が多い。しかし、それだけで映像を数分もたせるのはとても難しい。アングル、スピード、カット、思いのほか多くの技が必要だ。ワンアイデアでなんとかなるものではない。
『菜』…他のイベント用に撮影された、金君が監督のみに徹した作品。とても短い作品で、これだけでは監督としてどうか等の判断はできないのだが、ひとつひとつのカットにこだわっていることが伝わってくる。短い作品には、短いなりの見どころがあるものだ。
…と、四本見て、またトーク。今度は普通にまともな映画についてのお話で、これはこれで聞きごたえのあるものだった。ていうか、本当に、映画好きなのね皆さん。
私が自分で映像を撮る、ということに触れたのは、高校生の頃、家にビデオカメラがあったあの短いひととき。テープはもちろんVHSで、まだカメラとデッキが一体化しておらず、腰に重いデッキ部分をぶら下げてカメラを担いでいた。屋外から室内に入るとブラックアウトして、自転車や台車で移動撮影すると画面はぶれぶれにぶれた。編集はデッキ2台でダビングダビング。みるみる画像は劣化した。でも、あのとき私は、確かに、世界を画面の中に閉じ込めることの、快感と、恐ろしさに、触れたのだ。
金君をはじめとする、映画作家の皆さんも、あの感触が忘れられないに違いないのだ。だから今でも、みんな撮り続けている。
さて、では、今こそ、私は私の映画と出会えるのではないか?
手元にはアイフォン。ここから始めてみればいいじゃないか。
きっと、どこまでも行ける。

 

 

プロフィール

岩橋貞典(いわはしさだのり)

オリゴ党代表。ほぼ作・演出を担当。ほか、ネットラジオ『大魔王・岩橋の貴族の嗜み』レギュラー出演、『七井コム斎のガンダム講談会』レギュラー出演など。

過去上演台本を製本して販売中。公演期間外では、こちらの書店にて取扱しています。
http://dreammesse2005.cart.fc2.com/?ca=52

 

公演情報
2019年4月6・7日 オリゴ党第42回公演 『無と0』 於・音太小屋
2019年秋頃 オリゴ党プロデュース公演『サヨナフ』(大竹野正典・作)を上演予定

 

應典院マンスリーライトシネマ

人物(五十音順)

岩橋貞典
(脚本家・演出家)