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2019/6/25 岩橋貞典:映画&トーク『あんぱん盆栽ドッチボール』應典院マンスリーライトシネマ レビュー

去る6月26日に、第4回目となる應典院マンスリーライトシネマ(映画&トーク『あんぱん盆栽ドッチボール』)が開催されました。すっかり定着した感もある、マンスリーライトシネマ。今回は特定非営利活動法人 門真フィルムコミッションが主催する「8回の受講で映画をつくるワークショップオーディション」第1期受講生の方によるオムニバス映画の上映となりました。脚本家・演出家の岩橋貞典さんにレビューを執筆していただきました。


本日も應典院に映画を観に行ったのだった。應典院で映画といえば、マンスリーライトシネマである。毎月平日(火曜日)になかなか見る機会のない作品をかけてくれて、しかも監督さんとかのゲストトークがついていたりする。もちろん一般に映画館でやってる映画も観るのだけれど、それだけが映画じゃない。のだ。有名劇団だけがお芝居じゃないのと同じ。本屋で売ってるものだけが本じゃないし、大手が配信してるものだけが音楽じゃない。

さて、今回は『あんぱん盆栽ドッチボール』。自主制作の作品で、監督は奈須崇さん。奈須さんは以前身近なところで演劇に携わっており、何度か食事も一緒にした仲。いつの間にか小説家になっていて、そしてまたいつの間にか映画祭のコミッショナーみたいになっていた。いつも会うたび違うことしてる人・奈須崇。で、そんな彼の映画初監督作だというので、いざ鑑賞。

作品は、あんぱんと盆栽とドッチボールが出てきて、複雑でもなく絡み合う、コメディ作品。ざっくり書いてしまったけれど、コメディを説明するのもなんだか難しい。最初はオムニバスかと思うほどにそれぞれのパートが分かれており、しばらく翻弄される。

「あんぱん」パートの登場人物は刑事。あんぱんをくわえながら張り込みをする刑事のところにウザく絡みにくる先輩刑事。その目的は。「盆栽」パートは主婦二人。和室で正座させられている二人は、どうやら怒られるのを待っているのだが、その怒る当事者がなかなか現れない。「ドッチボール」パートでは、小学校のPTAが集まって、給食に混入された異物(これがドッチボールなわけだが)についての議論をしている。

一見、まるで無関係なように見える三つのお話だが、それぞれの方向性が見え始めたところで、もう一つ、小学生と先生の話が始まる。まあ、これが解決篇というか、ミッシングリンクというか、オチなわけだが、ここに至るまでの、それぞれのパートでの、ぐだぐだした、それでいて、どこかにありそうな、でもやっぱりそんなことにはならなさそうな、その辺にいるであろう(刑事はよくわからないけれど)人々のやくたいもないお話が、続いていく。それが、面白い。

アフタートークでいろいろとウラ話など聞くに及び、自主映画の恐ろしさをまざまざと見せつけられたのだが、そういう話を聞くと、本当によく完成したな、と私は驚愕するのだった。どう考えても、ウラ話のほうが面白く(けっこうえげつない話でした)、しかしそれはそれで、映画は完成しており、私たちはこうしてそれを観ている。この作品を撮り始めたときには映画に関して素人であった奈須さんが、どう考えて、どう行動し、なにを残したのか。映像は物語る。ここには、監督・奈須崇の、成長(といってよければ)と、苦悩と、それでも映画を作ろうという執念のようなものが、見えた。そんな気がしただけなのかもしれないけれど、でもやっぱり作品というものには、映っているもの以外の「何か」も、歴然とあるのだ。その「何か」が、映画のキモなのだと思うし、それを感じない作品は、やっぱりなんだか私には面白くないように、思えるのだった。今日はそのことが、改めて感じられたのであった。

プロフィール
岩橋貞典(いわはしさだのり)
オリゴ党代表。ほぼ作・演出を担当。ほか、ネットラジオ『大魔王・岩橋の貴族の嗜み』レギュラー出演、『七井コム斎のガンダム講談会』レギュラー出演など。
過去上演台本を製本して販売中。公演期間外では、こちらの書店にて取扱しています。

http://dreammesse2005.cart.fc2.com/?ca=52

公演情報
20199月7・8日 TORII HALLにて オリゴ党プロデュース公演『サヨナフ』(大竹野正典・作)

 

應典院マンスリーライトシネマ

人物(五十音順)

岩橋貞典
(脚本家・演出家)