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2020/1/16-19 湯山佐世子:「コモンズフェスタ2020」を開催いたしました。

去る1月16日から19日に、「コモンズフェスタ2020」(應典院寺町倶楽部主催事業・浄土宗應典院協力)が開催されました。(詳細:https://www.outenin.com/article/cf2020p/

應典院寺町倶楽部 執行部役員の湯山佐世子さんに開催報告を執筆いただきました。


2020年1月16日~19日の4日間にわたり「コモンズフェスタ2020」を開催しました。そして今回が、應典院で1998年から続く総合芸術文化祭「コモンズフェスタ」の最終回となりました。

今年のテーマは「リ・エンター・コモンズ」。このフェスタの名前にもなっている「コモンズ」に改めて注目し、今の社会にあった「コモンズ」の作り方を考えてみたい、そんな思いで設定されました。

前回から新たに取り組んだ、短期間での同時多発的プログラム開催形式を踏襲しながらも、会場やプログラムの数を整理し、4日間で26プログラム(もちろん、プログラムのジャンルは演劇、ダンス、音楽、ワークショップ、映画、トークと様々です)、2つの展示企画と、スケジュール的には前回よりも余裕のあるタイムテーブルとなりました。一方で、各プログラムについては、更に濃密なものとなっていたように感じます。

「コモンズ」とは、同質性に根差した「コミュニティ」とは相反し、異質なものが交わる場と捉えています。コモンズフェスタで言えば、1つには、異質なジャンルのプログラムを展開する企画者が交わることで、新たなコラボレーションが生まれることがあります。今年、その現象が特に顕著だったのが「気づきの広場」であったと思います。

今回、気づきの広場では、会期中を通じて竹田恵子氏による「生と死の在」というインスタレーションが開催されていました。重ねて、同じ会場で、ハコボレによる演劇・ワークショップ「密箱→はこがえし」、meyouによるパフォーマンス「プリンセス・アド」、HI×TOによるパフォーマンス「身体と気づきの広場」が行われました。インスタレーションは天井から16枚の布が吊るされた形状で、各演目によって布の位置を変更する事が許されていましたが、事前に詳細な打合せがなされた訳でもないのに、3つの企画全てにおいて、まるで想定されていた舞台美術かのようにインスタレーションが溶け込み、更にそこから受ける印象が演目毎に全く異なる事に驚きました。これについては、最終日のアーティストトークで、本フェスタの実行委員長である陸奥賢氏がまとめていましたが、アーティストというのは「場」の力を感じて作品に反映する力がある、この「気づきの広場」という目の前にお墓が広がる独特な空間に出逢った時、結果的に全ての企画において「生と死」というテーマが自然と作品に反映され、作品同士の融合を生んだのだろうという事でした。コモンズフェスタでないと観られない、本当に素敵な空間でした。

そしてまた、来場されるお客様にとっても、新たなジャンルの表現との出逢い、企画者との出逢い、お客様同士の交わりがあります。特にワークショップやトーク企画では、人と人とのコミュニケーションが必ず出てくるのですが、その場が本当に優しい。これは、昨年も感じた事でした。先述のように「コモンズ」とは基本的に異質である事が前提です。当然、同じ企画に参加した方同士もそうです。それどころか、相手が何者であるのか全くわからない。たまたま今日、この場で出会った人、なのです。その中で、少しずつ自己開示をしたり、相手の話を聞いたり、一緒に作品づくりに取り組んだりする中で、とても優しい時間が生まれています。これはもしかしたら、同質性への期待、それによる甘えや失望がない関係性というのが大きいのかもしれません。

加えて、今回特に感じたのが「表現する場が求められている」という事でした。HI×TOによる身体表現ワークショップでは、まさに身体を動かした表現をしますし、足達龍彦氏による「自己肯定感ドラマセラピー」にも即興劇のような事をするシーンがあります。そこでのお客様の生き生きとした姿が印象的でした。表現者という肩書を持たない人にとっては、表現をする事は決してハードルの低い事ではないと思います。でも、「コモンズ」という場であれば、そのハードルを越えて「表現してみたい」気持ちに正直になれる、そんな力もあるのかもしれないと感じました。

残念ながら全ての企画を観られた訳ではないのですが、他にも印象的なプログラムがたくさんありました。たんぽぽの家アートセンターHANAによる「僕がうまれた日」は、障がいのあるメンバーの過去の体験をもとに、仲間の死を捉えた演劇作品でした。障がいのある方々が車椅子で役者として登場され、独特の間合いや掛け合いに笑ってしまうシーンも多い一方で、障がいのある方の日常を垣間見るような部分も多く、たくさんの発見があった作品でした。また、DIVEによる「災害とアーティスト」では、東北と熊本の地震で実際に避難所での活動をされたアーティスト団体の方々からお話を聞き、参加者同士で実際に行われたマッサージ等の実践をし合いました。作品を上演するという事ではなく、アーティストの特性を生かして、その場に必要なものを感じ取り、実行する。前例のない取組みをされた皆さんのリアルなお話には、考えさせられる事が多くありました。

そのほか、「南阿弥陀セッション」ではシタール×ダンスのセッション、「momente#67 breathing」では即興演奏や様々な音楽によるセッションと、本堂がいつもと違う空気に包まれました。「お葬式の絵とコトバ」では日本各地に伝承されるお葬式の歴史が、迫力のある切り絵で表現され、日本人の豊かな弔いの文化を知り、「私と君といくつかのお話」ではペットの死に焦点を当てた朗読と演劇で、人にとってのペットの存在について考えさせられました。「路線図を妄想する会㏌密室」では、駅名の由来について学んだ後、それをヒントに應典院内にプラレールを走らせながら、各ポイントでその場に因んだ駅名を妄想したり、「8㎜フィルムソフトを観よう!」では、8mmフィルムならではの味わいある映画を鑑賞したり、「魅惑!百圓レコードの世界」では、こんな機会がないと絶対に聴かなかった曲達に出会ったりと、コモンズフェスタならではの時間を堪能しました。

それぞれのプログラムが、企画者の方々の思いがこもった素晴らしいものばかりでした。ご参加いただいた企画者の皆さん、当日ご来場いただいたお客様、開催にあたり支えてくださった方々に心からお礼申し上げます。

改めて、コモンズとはとても豊かな概念であり、誰にとっても居場所になり得るのだと感じました。そして、こうしたコモンズの場が、これからもどこかで続いていく事を願います。

 

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湯山佐世子
(應典院寺町倶楽部執行部役員)