【開催報告②】中嶋悠紀子『極楽あそび芸術祭』内なるこどもを刺激する多彩な展示
『極楽あそび芸術祭』應典院にて無事閉幕!初年度のテーマは「内なるこども」
「あそびの精舎」構想の企画として、大阪下寺町にあるお寺・應典院を舞台に、パドマ幼稚園と連携し、ちいさな芸術祭『極楽あそび芸術祭』を2024年10月19日〜27日に開催しました。開催報告②として、展示の様子をご報告します。
(撮影:澄毅)
「内なるこども」を様々な角度から問う展示
1階ロビーではパドマ幼稚園の園児が作った作品が並び、2階には5組のアーティストによる作品展示が行われました。今の時代を活躍するアーティストたちが、園児や近隣のこどもたちと共同で製作した作品や、来場者が参加出来る作品など、多様なひとたちが関わりながら作り上げる作品が並びました。
園児たちの作った「おじぞうさま」
1階のロビーには、パドマ幼稚園の園児たちの作品である手作りのお地蔵さまと瓔珞(ようらく、ほとけさまの背後にある飾り)が展示されました。
お地蔵さまはひとつひとつ違うポーズをとっており、手を合わせているものから腕組みをしているもの、帽子を被っているものやヘッドホンをしているものまで!?来場者をあたたかくお出迎えしてくれました。
瓔珞では幾何学的な模様や目を引く配色が、観音さまのまわりを色鮮やかに飾り、会場がより一層華やかになりました。
平野拓也+芸術祭実行委員会によるメインビジュアルの展示
2階へ上がってすぐ、気付きの広場に展示された極楽あそび芸術祭のメインビジュアルになった粘土作品は、グラフィックデザイナーの平野拓也さんと芸術祭実行委員会が7月に共同で製作したものです。
「お山にいる存在たち」をテーマに幼稚園児や高校生と大人たちが粘土細工をし、應典院近隣の土を混ぜて作った絵の具で着色しました。動物や人、不思議な生物や「山」という文字まで!?賑やかな様子が芸術祭のビジュアルをとても鮮やかに飾ってくださいました。
片山達貴+一般参加者たちによる「うちなる犬の遠吠え」
9月、芸術祭に先立って、自己と他者がはっきり区別できない場の考察と、その境界の揺れをテーマにアート制作を行う片山達貴さんと、パドマ幼稚園の園児たちや、一般公募で集まった人たちを対象に「うちなる犬の遠吠え」をテーマにしたワークショップが行われました。このワークショップの内容は、①まず、犬になって遠吠えをして②遠吠えから沸き上がったものを粘土で作り③遠吠えの様子を撮影し④皆で鑑賞する、というものでした。
芸術祭では、2階のエレベーター横にワークショップで制作した石膏作品と、遠吠えをするこどもたちの映像が、気付きの広場では石膏作品を回転させながら撮影したものと、内なる犬についてインタビューに答える大人たちの音声が映像作品として展示されました。
作品を眺めながら、淡々とインタビューに答える声は、内なるこどもを客観的に分析しながら探っていくように見えます。それに対し、遠吠えは一瞬で”そこ”に到達してしまいそうです。身体全体を使って腹から全力で声を出すことは、もしかしたら理屈無く喜びが感じられる、動物に備わるものなのかもしれません。大人になる過程でいつしか制限をかけてしまうようになったものを、ひとつひとつ紐解いていくような過程を想像させる作品群でした。
DCL + 出雲路本制作所による「see-sou」
出雲路本製作所は、京都で2023年に創業した出版社で、本づくりのあらたな方法を模索する出版社です。
今回は芸術祭の主催者でもあるDeep Care Labとの共同プロジェクトで、「see-sou」という詩集を展示しました。
詩集と言っても、本の装丁にはなっていません。紙に印刷されたものや、カード型になったもの、折り曲げられたもの、紐でぶら下がったものがあり、参加者が設置された色水に浸けて着色してみたり、その模様を楽しんだりすることが出来ます。
中身は、「〇〇しなさい」「△△してみましょう」というような、一見意味や目的を見出せないような行為が記されています。しかしそれを実際に行動してみることで、こどもの心に近付ける(かもしれない)という実験的要素を含む詩集となっていました。記された言葉のひとつひとつも、ただの指示ではなく、言葉の美しさやリズムにおいても洗練された詩的なものでした。
来場された多くの方が写真に撮ったり、色水で遊んだり、角度を変えて鑑賞したりして、これまでとは違う詩集の楽しみ方を模索されていました。
水田雅也+園児たちによる「ダンゴムシと遊ぶ」
「動物と人間の関わり方」をテーマに活動する水田雅也さんは、パドマ幼稚園の園児らと協働で「ダンゴムシと遊ぶ」作品制作を行い、本堂と気づきの広場に3つの作品を展示されました。
本堂の天井には、大きくて丸い巨大スクリーンが出現し、園児がダンゴムシで遊ぶ様子をダンゴムシの視点から捉えたものが投影されました。会場に訪れた方は、まるでダンゴムシになったかのように、巨大な子どもたちに覗き込まれ、手を伸ばされ、弄ばれる体験をすることが出来ます。
また、気付きの広場では、白いテーブル上に実際に生きたダンゴムシを展示して(!)子どもたちが自由に触ることが出来るようになっていました。テーブルには赤いボタンが設置され、押すと「楽しい!」「楽しくない…」という子どもたちの声を聞くことが出来ます。
実はダンゴムシと遊ぶ制作は複数回に渡って行われました。園児たちがダンゴムシと遊ぶ様子を動画撮影をした数日後、今度は映像で撮ったダンゴムシと園児が遊び、その様子を動画に撮影する、という実験制作も行われていたのです。しかし、実際のダンゴムシに触れた時ほどの「楽しい!」高揚はなく、開始早々にこどもたちから「楽しくない…」「飽きた…」という声が聞かれたそうです。
水田さんはそこで大きな気付きがあったと言います。子どもだからといって何でも楽しく遊べる訳ではない。こどもたちの心の中に「楽しい」「楽しくない」が発動する装置があるのではないか?それがインスピレーションとなり、ダンゴムシの映像で遊ぶ子どもたちの様子と共に、大人からの質問に対して「楽しい」「楽しくない」に答えていく作品と、赤いボタンの制作に繋がったと、後のアーティストトークでもお話されていました。
ダンゴムシから派生して、見る者に「楽しい?」「楽しくない?」という問いかけをし、自分にとって何が楽しさ発動の装置になっているのかに気付かせてくれる作品となっていました。
『極楽あそび芸術祭』特設サイトでは今回のプログラム概要が見られます。