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7月10日 お寺がNPOに「浄財」を提供。大蓮寺の「自然賞」が創設。

2010年7月10日より、3回にわたって開催してきた「エンディングセミナー」を終え、秋田光彦大蓮寺住職・應典院代表が、以下のコメントを記しました。既に7月5日にはセミナーの「開催にあたっての趣意」にも記されているとおり、今回のセミナー開催にあわせて、應典院の本寺である大蓮寺が「自然賞」を創設いたしました。なぜ、お寺がNPOを顕彰するのか。以下のコメントでは、個人の時代を支える仏教、寺院、僧侶の役割についてまとめられています。


お寺がNPOに「浄財」を提供。大蓮寺の「自然賞」が創設。

去る7月10日、應典院で開かれた寺子屋トークに先だって、大蓮寺の「自然賞」贈呈式を開催した。この賞は、大蓮寺が、エンディング文化創造の寄与するNPO・個人に独自に賞金を贈呈するもので、第1回受賞者として、NPO法人エンディングセンター理事長の井上治代さん(東洋大学教授)を選定した。同賞の契機となった生前個人墓「自然」を建立が2002だから、8年目にしてようやく思いが実現したことになる。

生前個人墓「自然」は、個人が生前に自分の意思で会員となる、コミュニティ型のお墓だ。見知らぬ者どうしが墓を縁として出会い、共同で互いを供養するシステムを備える。また当初から、一基88万円(戒名冥加料含)の志納金をプールして、それを財源に「大蓮寺・エンディングを考える市民の会」の運営を進めてきた。今回の「自然賞」の賞金も、この志納金の一部を提供している。本来、お寺に納められるお金は「浄財」であるが、それをお寺の収入にとどめず、社会的に還元していくのがねらいだ。今後も、老病死のサポートにかかわるNPOに定期的に寄付を続けていく。

生前個人墓「自然」は建立当初から、「エンディングの相互支援」という旗印を掲げていた。最近は、葬式や墓をはじめ、死に方、老い方に関心が高まっているが、最大の課題は「誰が私を支えてくれるのか」という点だ。生前については、介護から看取り、死後は葬送や供養、いろいろな死後事務も含め、おひとりさまの時代では、支え手を血縁だけに頼ることはできない。現代では、死もまた孤立の度合いを深めていかざるを得ない。

大蓮寺では、「自然」を出会いの場として、会員どうしの交流を積極的に促し、やがて互いを供養しあう関係づくり(供養の共同化)を目指した。また、生前や死後に予測される個別の生活課題については、大蓮寺がセンターとなって、専門のNPOにつなぎ、当事者主体の問題解決ができる仕組みをつくった。医療相談、在宅ホスピス、高齢者住宅、遺言・相続、さらに仏事や生きがい創造まで、NPOとのネットワークは7団体に及ぶ。今回の「自然賞」を受賞したエンディングセンターも、葬送分野における代表的なNPOだ。

墓は、長く「人生の終着駅」「終の棲家」といわれてきた。逆に「自然」は墓を起点として、寺を中軸に、共同の供養(市民)と、社会的なサービス(NPO)を支援の同心円として描こうとしている。とりわけNPOの参加は、これまで「私事」に閉ざされがちだった「いのち」を、開かれた視点から問い返してくれることだろう。ならば、これは、寺と市民とNPOが協働する、「いのち」を巡る社会実験といえるのかもしれない。

いかに死ぬか、は仏教が扱ってきた生涯最大のテーマであった。現代はそれは複雑化した社会の全体像の中からとらえなおしていかなくてはならない。そこから、仏教の実践の知が、必ず役立つ時が来るだろう。それこそ、臨床仏教の新しい局面である。大蓮寺がNPOと協働する理由はそこにある。