1月30日 コモンズフェスタ「onとoffのスイッチ」、閉幕いたしました。
私をひらく、多様な場と機会
この数年、1月の恒例となった「コモンズフェスタ」が終了いたしました。今年のテーマ「onとoffのスイッチ〜私をひらく6つのチカラ」には、普段は関心を向けないこと、あるいはあえて閉ざしてしまっていることにスイッチを入れていきませんか、という問題提起を込めました。そこで、副題に込めた、記憶、語り、誓い、場所、型式、身体の6つのチカラを手がかりに、大小13の企画を紐解いていきます。
(1)記憶 : 想起と忘却のスイッチ
私たちは日々の暮らしで、何かを思い出し、何かを忘れていきます。今回は、自らが蓋をしてしまっている悲しみに接近していこうと、箱庭療法、演劇体験学習、映像制作の3つの催しを実施しました。実際に誰かと場を共有し、手を動かし、身体を動かし、道具を使うことで、物体や風景を通じ、普段は思わない何かに思いを馳せられたようです。
(2)語り : 発話と傾聴のスイッチ
以前、朝日新聞のCMで「言葉のチカラ」を信じる、というものがありました。しかし今回は、あくまで言葉は道具であるとして、それをどう使い、使われるべきかに迫りました。読書会では「頭の体操」を、2つのセミナーでは物事を語り位置づける上で視点の切り替えが必要なことと、他人の生み出した物語を借りることの面白さを味わうことができました。
(3)誓い : 拘泥と刹那のスイッチ
人は時に、執拗に何かに対して長きにわたる執着をし、一方で束の間の出来事に大きな影響も及ぼされることがあります。そうした時間の長短に対して何を思うのか、「いのち」をテーマとした詩作と、自分にとっての「色」を選び抜くことなどから迫っていきました。終了後、両方に参加した方から、「個人作業だが、同じ作業を全員が同じ場でするのが興味深かった」との感想をいただきました。
(4)場所 : 開放と閉鎖のスイッチ
應典院はお寺をまちに開いていることで注目されますが、いかにして空間を開くか閉じるかは、その空間に流れる時間をどう演出するかに委ねられています。そこで、今回のコモンズフェスタでは、應典院の1階を毛糸で、2階を紙と布で、それぞれにまとうことといたしました。思い出の象徴としての白いノートから続く、色とりどりの毛糸は、人それぞれの多彩な人生を重ねています。これらの毛糸はお箸によって編み上げられ、会期中には来場者の方々の協力により、文字通り、多様な表現をまとうことになりました。
(5)型式 : 継承と創造のスイッチ
お寺による儀式も含め、一定の作法が受け継がれ、しかし新たな方法が模索されることで、自らの悲しみや苦しみが救われることがあります。今回は僧侶による社会活動の意味を問い、成人式の意義をひも解き、クラシック音楽に重ねられる先入観を解体していきました。
(6)身体 : 作動と停止のスイッチ
演劇の應典院が本領発揮して臨んだのが、プログラムに織り込んだ2つの演劇でした。一つは、ある児童擁護施設の入所者の葬式と供養にまつわる物語、もう一つは「愛染かつら」をもとにした女性の生きづらさに迫った物語でした。ともに喪失感を丁寧に扱った、今回のコモンズフェスタならではの作品でした。
場の相乗効果
このような多彩な企画が展開されましたが、思わぬ相乗効果が生まれました。それは、1月25日、14日から16日に「太陽物語」を公演いただいた「満月動物園」の皆さんが、2階ロビー「気づきの広場」に設えられた「いのちの木」を舞台にゲリラ公演をすることになったのです。
また、1月17日の「16年目の1・17」では、15人のリレーによって、鎮魂の願いを込めて117mを越える糸が紡がれました。綿から紡いだ真っ白な糸は、企画者であり染織講師の大石尚子さんにより円形の作品に編み上げられ、30日のクロージングトークの際に披露されました。こうして、場所と担い手の掛け合いを通じて、多くの場が豊かに彩られた17日間でした。