2017/7/20 坂本涼平:いのちと出会う会 第160回「喪失の悲しみに寄り添う試み『グリーフタイム』」レビュー
應典院寺町倶楽部との協働により、モニターレビュアー制度を試験的に導入しています。今後は複数の方々に、浄土宗應典院または應典院寺町倶楽部による各企画に対して、ご寄稿いただく予定です。第1回目は、去る7月20日(木)に宮原俊也さん(帝塚山大学こころのケアセンター)、佐脇亜依さん(京都市ユースサービス協会 子ども・若者支援室)をお招きして研修室Bにて開催した、應典院寺町倶楽部主催の「いのちと出会う会」について、劇作家・演出家の坂本涼平さんにレビューを執筆していただきました。
悲しみに触れる。自分のやり方で、能動的に、悲しみに向かい合う。そのような時間の過ごし方を、お寺という死生の狭間の空間で学んだ。
「グリーフ」とは、「別離や後悔、絶望から来る深い悲しみ」を意味する。2009年から應典院で続けられている「グリーフタイム」。それは「グリーフ」の時間を大事にするための試みであり、失った大切な人・ものに、そっと思いを向ける時間のことだという。
「グリーフタイム」では、特に何もせず静かに喪失を思ってもいい。また、心が向けば、小さな作品作りをしてもいい。例えば、自分の悲しみにふさわしい色紙を用紙に貼り付ける。さらに、その隣に短い言葉を綴る。それは「グリーフカラー」と呼ばれるひとつの「作品」となる。
ただし、今回の会では、作品を制作したり、悲しみと向き合ったりするための時間はとられなかった。会の趣旨が、あくまで「グリーフタイム」の紹介、ガイダンスであったためである。実際の「グリーフタイム」の開催が待たれる。
登壇者の一人である宮原さんは、お母様を亡くされた悲しみについて、こう語られた。曰く、「悲しみは母といられる大切な時間」であると。
「悲しみを大切にする」という発想は、私にとって少し意外なものだった。一般に、悲しみは快い感情ではなく、できれば避けたいものだろう。しかし、避けたいからといって避けられるものではない。そして、その悲しみは時間とともに弱まりこそすれ、完全に消え去ることはない。そのように避けがたく消し去りがたい悲しみとどう接するか。その一つの作法が「グリーフタイム」であると感じられた。
私たちは、悲しみの心痛や空虚感にばかり意識が行きがちだ。しかし、宮原さんによれば、悲しみには去っていた人たちへの思慕の情も含まれているという。そのような見方に立ったとき、悲しみは、必ずしも忌避すべきものではなく、自ら触れ、時には親しみ、人生を共にする自分の構成物の一つだと思えるようになるのかも知れない。
レビュアープロフィール
坂本 涼平(サカモト リョウヘイ)
劇作家・演出家。1985年大阪生まれ。芸術学修士。研究テーマは「悲劇論」。
2009年に劇団「坂本企画」を立上げ。「ほんの少し、ボタンを掛け違った人間の悲劇に寄り添う」ことをテーマに掲げ、非日常的な世界での静かなセリフのやりとりに、社会に対する寓意をしのばせる演劇を作り続ける。
ロクソドンタブラック(現Oval Theater)主催「ロクソアワード2012」スタッフワーク部門最優秀賞、演出部門三位、総合三位受賞。