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2017/10/30-11/5 應典院寺務局:大塚久美子個展「私の中の命のかたち Shapes of Lives in Myself」を開催いたしました。

去る10月30日(月)からの一週間、画家の大塚久美子さん初めての個展「私の中の命のかたち Shapes of Lives in Myself」を開催し、100名を越えるたくさんの方々にご来山いただきました。
大塚さんはベルリン芸術大学で細密画を学ばれ、今回がはじめての個展となります。また、1997年の應典院再建当時、本堂で大規模な写真展を開催してくださるなど、大変ご縁の深い写真家・橋口譲二さんのお弟子さんでいらっしゃいます。橋口さんから應典院へのご提案をきっかけに、再建20年を迎えた本堂にて、命をテーマとする展示を行うこととなりました。

2011年の東日本大震災の折、当たり前だと思っていた日常が崩れていく様を目にした大塚さんは、「人間の存在は自然の一部に過ぎない」と深く実感されました。ある時、東京の公園で8点の切り株に出会い、生々しく赤く輝くその断面は、大塚さんに命の輝きの深い印象を残したといいます。
今回展示されたのは、その8点の切り株と2点の樹皮の絵画作品で、公園の一角の配置をそのまま本堂に移し、上から覗き込めるように作品は床に並べられました。應典院寺町倶楽部会員のホシノ貴江さんによる照明のもと、ご本尊が見守る中で、まるで應典院の森を散策しているような空間が立ち現われました。自然光が入る本堂の設計を活かし、昼と夜で異なる相貌が浮かび上がっていました。

また、初日夜に行ったオープニングパーティーでは、作品制作にあたってのお話を伺いました。切り株と聞くと多くの人はつい死を連想してしまいますが、大塚さんにとって切り株は圧倒的なまでに、ただ命そのものをあらわしていたそうです。年輪を描いて時間の経過をあらわすような表現でなく、どういったかたちでこの命の輝きを率直に絵にできるのかと、苦心されたといいます。
はじめのうちは切り株の輪郭の中に模様のようなものを書いていましたが、師匠である橋口さんの評価は厳しいものでした。そこから徐々に余計な考えを捨てていくことで、現在の赤色にたどり着いたというお話に、大塚さんの静かな格闘の跡がうかがえました。時には無言のうちにことばを探しながら、しかしはっきりと応答されるお姿が印象的でした。
8点の切り株は徐々に真ん中から腐食が進み、穴が開いてきているようです。何年かかるか分からないけれど、これからも切り株と時間をともにしながら、最終的には土に還って更地になっていく様子を絵にしたいと、最後に今後の展望を語られました。

マスメディアや仏教教団においても、「いのちの大切さ」が頻繁に叫ばれる昨今ですが、命とは最終的には言語化を拒むものであり、私たち人間の安易な理解をはるかに超えていくものなのかもしれません。大塚さんはご自身が切り株から受け取ったものだけを、できるだけ余計な言語を介さずに絵で表現しようとされました。そこからは、さまざまな領域で「いのち」に関わる人間にとって指針になるような、ある種の真摯さを学ぶことができるのではないでしょうか。子どもからお年寄りまで、日々たくさんの方の感想を頂戴する中で、言語化することのできない命の多面性が見えてきたようにも思います。

今回の個展が、今後の大塚さんの活動にとって、また應典院の未来にもつながっていく機会となるように念じています。

(浄土宗應典院寺務局)