2018/1/15 仲口拓磨:「当事者研究スゴロク」レビュー
應典院寺町倶楽部との協働により、モニターレビュアー制度を導入しています。1月15日(月)から17日(水)の3日間に渡って開催された「陸奥賢と愉快なコモンズ・デザインたち」。コモンズフェスタ発祥の6コンテンツがそれぞれ敢行されました。今回は15日に実施の「当事者研究スゴロク」について、大喜利大会URRAIグランプリ運営、MCの仲口拓磨さんにレビューを執筆していただきました。
「トラウマとかをシェアするカウンセリング的な催しなのか?
他人さんのそういうの、ちょっと受け止められるかな。」
催事の内容を勝手に想像し、ぽつねんと思った。
当事者研究という言葉自体、それだけ初めて聞くものだったのだ。
しかし、目に留まったのは、その後に続く言葉。
スゴロク
「…スゴロク?双六って…あの?正月に親戚とやって、結局負けてむしゃくしゃして揉めるアレ?」
揉めるな、正月に。そんなことで。
私は、不思議な食い合わせの言葉に興味を惹かれた。
会議室には、企画主催の陸奥賢さん。
私を含めた男性2名と女性4名。年齢世代も様々。
まさに、「はじめまして」の老若男女が居合わせた。
まず、陸奥さんから当事者研究について語られる。
「精神障害等を抱えた方を、薬で治療するのではなく、病気をやり過ごすことはできないか。」というきっかけから生まれた考え方とのこと。。
ある当事者の方の幻聴を周りで共有した際には、通称<幻聴さん>に対して、自らで積極的に話しをするようにしたそうだ。すると、不思議なことに幻聴自体がおとなしくなり、さらには友好的なことを言うようになったという。
つまり、当人の病気との付き合い方を変えたのだ。
「病気を治してはいないが、うまく付き合っていく。」
それが当事者研究の考え方だそう。
そして、当事者研究の考え方に影響され生まれた新しい人生ゲームが、当事者研究スゴロクの正体だった。
“病気”は、失敗や挫折、人生のうまくいかないことに置き換えて語り合う、というわけだ。
参加者はそれぞれのエピソードを箇条書きする。
そして、それらを発表し、その項目について順に話していく。
その中からよりすごい失敗は一番大きな“6マス進む“のスゴロクコマに採用される。
不思議なもので、この場においては大きな失敗保持者は、すごい!と褒められる。
各エピソードの見出しを、陸奥さんがどこか飄々とした語り口で紹介する。
そこで各々の口から語られるエピソードは過去にあった辛いこと、
味わい深く笑ってしまうようなものまで様々。
まさに、人に歴史有り。
牛に蹴られたて吹っ飛んだ話なんてなかなか聞けるもんじゃない。
そして、人生のいかんともし難い出来事や、現在進行形の挫折なども語られた。
会場の雰囲気は、自然と暖かだ。湿っぽい雰囲気になることは無い。驚く程に。
それどころか、終始笑顔と笑い声の絶えない会になっていった。
「では、何か内面が具体的に変化したか?」と問われれば、正直実感はない。
当事者研究スゴロク自体、あくまでカウンセリングやセラピーではなく、遊びだ。
肝心な点は、どのようなコミュニケーション体験を得られたか、にある。
日常生活において、ネガティブな話を気兼ねなく誰かと共有できる機会は、
実はあまり多くはないのではないだろうか。
失敗や、自らの辛い一面・経験を他者に語ること。
もし話せたとして、相手にどのような反応をされるのかは、誰しもが怖いことだ。
そうしていく度に、痛みを心の襞の内側に見えないように仕舞っていく。
当事者研究スゴロクの会場は不思議なものだった。
「全員が等しく自らの心の内の物を持ち寄る前提の遊び」という共通認識は、
恐怖への心強い緩衝材になってくれる。
エピソードトークというものは往々にして失敗談だ。
それを誰でも気軽に楽しめるフォーマットに落とし込んだことには大きな意義がある。
見知った仲の人とはかえって話しづらいことも、はじめましてだからこそ気軽に笑い合い、心に置き去りにした痛みをほんの少しだけ分け合う。
辛いことや挫折を認め合い、共有し、相対化する。
それは、直接の問題解決にはならないかもしれない。
しかし、「しんどいことも少しずつ誰かと共有出来ること」。
それは、人生を歩む足取りを、少しだけ互いに軽くし合うことができる。
これからを、皆で安心して生きるために。
あ、ちなみに一番大きな6のコマなんですが、私が頂いてしまいました。
やったー。
ちなみに、スゴロクはホームページからシートをコピーすればすぐに遊べるそうです。
皆さんも体験されてみてはいかがでしょうか。僕は楽しかったです。
○レビュアープロフィール
仲口拓磨(なかぐち たくま)
1992年大阪府大阪市生まれ。
2014年 フリーでの演劇活動を開始する。
2015年には大喜利イベントへ出演。大喜利をこじらせる。
近年では大喜利イベントをはじめ、イベントMCとしても活動を開始。
ラジオ視聴と映画鑑賞を、日常生活に支障を来す程度の日課としている。