2018/4/7-8 伊藤由樹:プラズマみかん「シルバー・ニア・ファミリー」 レビュー
4月7日(土)、8日(日)の2日間、應典院寺町倶楽部協力事業としてプラズマみかん「シルバー・ニア・ファミリー」が應典院本堂で上演されました。迫りくる超高齢化社会を全力疾走する、プラズマみかんの記念すべき10回目の本公演。観劇された方々に様々な思いを抱かせるものでした。今回は小道具製作団体「工房 黒猫ハグルマ」代表・薬剤師の伊藤由樹さんにレビューを執筆していただきました。
プラズマみかん「シルバー・ニア・ファミリー」
舞台はとある学校。おそらくは地方都市にあり、高齢化・少子化の煽りを受け、運動会の開催もままならない。そこに赴任してきた教師(非正規待遇)・里中真紀を中心に物語は展開します。
またその背景的ストーリーとして「シルバーニアの里」というものが出てきます。これは有り体に言えば国策老人ホームで、この建設について政治家が働きかけたり、参政権を返納すれば入所優先権が得られるなど政治特区的な代物です。これにまつわるエピソードが挟み込まれてきます。
里中真紀の奔走を中心とするこの物語は複数の主題を含んでいます。
・親からの自立・決別
・自己を肯定することの難しさ
・旧世代と新世代の対立・融和・継承
さらに最も大きいと私が感じたものは、「人間の本質的な身勝手さと愛情の歪み」です。
劇中にこのテーマを象徴するエピソードは何度も繰り返し描かれます。
子どもたちのために運動会をなんとか開催してやりたいと集まってくる老人達。彼らは幾つも一風変わった競技を提案してくる。運動会を盛り上げ、子どもたちに喜んでもらいたいという善意から。
その学校のPTA会長、宮沢るり子は娘のゆりえに対し厳しく教育をしている。ピアノ、学業、スポーツいずれも他人より優秀であってほしいから。それが娘の幸せであると信じているから。
その姿は主人公、真紀とその母晶子の過去が重なる。晶子もまた、娘が苦労の多い人生となることのないよう、何か一つでも他人に負けないものを身につけてほしいと願っていた。
晶子には真紀の他に息子、悟がいる。彼は母を喜ばせようと、故郷である島に帰ってくる気でいると告げる。老いた母の今後を憂い、少しでも安心させたい思いからの発言であった。
これらはいずれも他者への愛情が行動の引き金になっています。その者のためを想い、必死にやっていました。
しかしながら結果的にはどうでしょうか?
運動会の主役である当の生徒たちは普通の競技、リレーや綱引きを望んでいたし、老人達自身もうまく事が運ばないことに苛立ち、半ば開催を諦めるところでした。
母の理想とする生き方を押し付けられた娘達は自己を肯定できず、その厳しさにうんざりとしていました。
母を喜ばせようとした息子の言葉は、実際的な目論見などない軽はずみなものでした。息子は都合が悪くなると掌を返し、母は失意の底に落ちました。
幸福であってほしいと願った相手を見失い、独りよがりな善行(と思い込んでいること)によって手ずから不幸に貶めている。まさに愛は盲目です。
この盲目さの生み出した、ある意味での呪いは親子の愛において最も強力に作用するように思います。里中真紀はこの呪いが基となって、先にあげた主題について思い悩み続けていたのではないでしょうか。物語の終わりでは母の過去を想い、友人・大西千春との対話により彼女もある程度の答えを見出したようです。
劇中における印象的な言葉で「母と娘は鏡」「鏡の中の姿をきれいにしようとするから無理になる」というものがありました(一字一句は違うと思うんですが…!)。これは人間同士の付き合いにおいても真理だと思います。誰しもが他人に理想的な姿や反応を望んでいる。そうでない姿を見せられたとき、人の愛は歪んでいくのでしょう。
と、ストーリーテーマについてはなかなかに深く思考させられたものの、下記の点についてはもう少し踏み込めたのではないかと思います。
・「シルバーニアの里」の存在が有効に働いていない。特別なモノを出さずとも、既存の老人保健施設でよかったのでは。
・上記に関連して、政治的なトピックがストーリーから解離している。
・失意の母が認知症的になっていく後半、展開の不明瞭さと唐突さに置いていかれてしまった。抽象的シーンであることが拍車をかけた。
・演技が非常に役割的。役者は胸にそれぞれに「娘」「母」「主婦」など表記しており、記号的なものを強める演出意図?しかしながらシーン構成はリアル寄りなため違和感が出てくる。
・両面舞台やその中央に置かれたピアノ椅子はそうである意味が感じられなかった。
以上、個人的好みや不見識も含まれるかとは思いますが、不満点・気になった点も併記いたします。
レビューとしては乱文、感想としては長々と失礼いたしました。こうしてプラズマみかんさんの作品を拝見する機会が得られまして嬉しく思います。ありがとうございました。
それと作品外のこととして。
感想用のアンケートに小さい付箋が貼ってありました。一言書いて、受付ブース前に貼り付けることで現場で感想をシェアするのだそうです。他にこんな感じのことをやっている団体さんはあるんでしょうか?僕は初めてのことでしたので、他の人の感想も楽しく見て帰りました。
〇レビュアープロフィール
伊藤由樹
「工房 黒猫ハグルマ」代表
主に小道具製作を中心として演劇活動をしています。