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2018/7/6-7/9 二朗松田:studio D2『萩家の三姉妹』レビュー

去る7月6日から7月9日まで、studio D2『萩家の三姉妹』(應典院舞台芸術祭Space×Drama×Next2018参加作品)が上演されました。季節の移ろいとともに流れゆく三姉妹の心模様を豊かに描いた作品でした。今回は、デザイナー・脚本・演出家の二朗松田さんにレビューを執筆していただきました。


studio D2さんと私の関係は、

というか、加藤さん(a.k.a. DD.Kato)との関わりは、

中嶋久美子出演、私脚本の作品を上演した

札幌の一人芝居フェスを観に来て頂いた時からなので、

2012年、ざっと6年ですか。

 

studio D2さんが前回「萩家」を上演したのがこの年の3月、

この時次女仲子役だった中嶋さんが、

今回長女鷹子役になってるのも、

なんというか月日の流れを感じますね。

 

札幌で加藤さんに初めてお会いした際、

イタリアンをご馳走になりまして、

その時、わざわざ札幌まで来た理由として、

「桜を見に来たついで」

みたいに言ってらっしゃったのが、粋でね。

 

あれから6年経って、

ここ最近チラシデザインやらせてもらったり、

アフタートーク呼んでもらったり、

妙な感慨を覚えております。

お世話になっております。

 

で、今作「萩家の三姉妹」。

 

この作品も春から始まります。

そして、夏秋冬と流れていくんですが、

6年前観た時は、この事にも気付いてなかったな。

二週間以内くらいの話だと思ってた。

どんだけ俺の目は節穴なのか。

 

当日パンフの挨拶文で加藤さんも

この構成について他作品との関わりを言及してらっしゃってて、

最近だと「ラ・ラ・ランド」とかもそうですね。

私もこの構成で書いたことあります。

恋愛模様を描くのにちょうどいい。

四季超便利。

 

6年前と比べると、

今回、随分と印象が違います。

前回はもっと文芸作品な香りというか、

地味な印象さえあったけど、

今回はもうエンタメ作品と言ってもいいオモロさ。

色々楽しいシーンはあったけど、

特筆すべきはやっぱり秋パートでしょうね。

延々続く、徳永さん(本所武雄)と中嶋さん(鷹子)

二人の下ネタコント。

めっさ笑いました。

徳永さんは永井愛に怒られればいいと思います。

 

中嶋さんが鷹子を演ったのも印象を変えた要因でしょうね。

彼女が中央にいることで空気がシリアスになりすぎない。

特に印象が違ったのがラストシーンで、

前回はもうあの夜は明けないんじゃないか、

とさえ感じたんですが、

今回は明けるかも、くらいには思った。

彼女たちに仄かな力強さを感じました。

 

もしかしたら、時代の変化、

我々の意識の変化も関係あるのかもしれません。

ワインスタインがハリウッドから追放され、

世界中で#me tooが叫ばれる昨今、

少なくとも、彼女たちは彼女たちらしく生きる権利がある、

ということを我々は知ってる。

 

この脚本が書かれたのは2000年ということですが、

当時フェミニズムといえば、

一般的にはイコール田嶋陽子くらいな認識で、

つまり、どこか半笑いな扱いだったと思います。特に男は。

そこからインターネットや他様々なメディアで、

ジェンダーやセクハラなどの問題を目にする機会が増え、

少しずつ世間の意識も変化していった。

そういう意味では、

2018年の今、未だ充分に機能する脚本ではありますが、

捉えられ方自体は大分変わってきたのではないでしょうか。

少なくとも私自身が6年前と全然違う。

 

と、いうかですね。

今作、フェミニズムやジェンダーについての作品、

と思いがちですが、

いや、勿論そういう面も大いにあるとは思うんですが、

実はそれらだけでなくもっと広義で、

「時代の変化」そのものを描いてるのではないかと、

更に言えば「時代の変化に際し右往左往する人間ども」

を描いているのではないかな、と。

 

序盤、男女の問題はまだ顕在化しておらず、

どっちかというと、旧家・古い因習問題の方が語られます。

鷹子は古いしきたりを無視して、

合理的に物事を進めようとする、

それを品子さんが嫌がる。

鷹子もそんな品子さんに強くは出られない。

作品中、男女問題以外にもこういう

「理念を感情が邪魔をする」という構図がちらほら出てきます。

 

「歴史の中で何となく作られてきた概念」VS「合理の中で作られいく新概念」

という構図の中で、全員が悶え苦しんでいる、

鷹子はその最前線に立ち、戦い続けるんですが、

いかんせん旧家の出、「固定概念」が足を引っ張りその両方に引き裂かれ続ける。

そうこうしている内に三姉妹以外は全員、

「新概念」へのアップデートを済ませ、次の選択へと進む。

その選択の良い悪いは別として。

三姉妹はアップデートもダウングレードも出来ないまま朝を迎える。

 

お話としての決着はつかずに舞台は暗転、

これは我々観客自身への挑発と解釈しました。

時代の変化に際し、貴方はどうする?を問われてる。

そんな、どっちの料理ショーにおける関口宏のような問いかけ、

それこそが「萩家の三姉妹」なのではないかと考えます。

 

次女夫婦がお互いをパパママと呼んでる件とか、

三女チームが何故リサイクル・リフォームを仕事として選ぶのかとか、

品子さん旧家の妖精説とか、

まだまだ掘り甲斐のある作品ですけど、

この辺にしておきます。

 

あ、あと、Twitterで鈴木太海くん演じる日高聡史こそ最悪最凶、

という女性たちからの意見を見たんですけど、

ここら辺も皆んなで考えていったらめっちゃ面白そうですよね。

最終的に流血沙汰になるでしょうね。

 

人物(五十音順)

二朗松田
(デザイナー・脚本・演出家)