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2018/10/5-10/8 要小飴:Micro To Macro『ワンダー三日月リバー 〜46億年の奇蹟の話〜』 レビュー

去る10月5日から8日に、Micro To Macro『ワンダー三日月リバー 〜46億年の奇蹟の話〜』(應典院舞台芸術祭Space×Drama×Next2018参加作品)が上演されました。幸せな日常、そして喪失からの回復を描く、厳しくも優しい物語が、臨場感あふれる生バンドサウンドとともに展開される作品でした。今回は、コトリ会議の要小飴さんにレビューを執筆していただきました。


Micro To Macro#12『ワンダー三日月リバー〜46億年の奇蹟の話〜』を拝見しました。

本堂に入った途端、驚きました。Micro To Macroの公演では不可欠のバンドセットのある舞台は、音楽ライブにあまり縁のない私には、それだけでもすでに迫力があります。しかし、今回はその舞台の前面に船の舳先がこちら側に迫り出していました。そうか、船に乗るお話だったかと私は記憶を手繰りました。
今回の『ワンダー三日月リバー〜46億年の奇蹟の話〜』は四年前にカフェ+ギャラリーcan tutkuで上演された作品の再演でした。個人的なことを言えば、私が初めて観たMicro To Macroの本公演がこの作品です。カフェのスペースから溢れてこぼれてくる強烈な思いと音楽の力を感じる公演でした。そんな溢れこぼれてくるエネルギーが形になって現れているような船の舳先の前スレスレを通って、私は入り口から奥側の席に座りました。

物語はトリオとミャーコ、そしてその子供の瑠海のお話。観る者は、雑誌の編集者、記者になったルミ子とケンジとともに、この三人の行く末を見届けます。物語の前半で、トリオはルミ子やケンジ、そしてミャーコの学校へ転校してきます。私の席からは、この学校でのシーンが、教室の設定上、皆こちらのほうを向いていたため、とても見やすくて、トリオのクラスメイトや先生一人ひとりの細かい表情や仕草がよくわかりました。だからこそ、ルミ子とケンジ、ほかのクラスメイト、そして先生にとても愛着が湧きました。偶然でしたが、良い席に座ったと思います。

前半は可愛らしいシーン、幸せなシーンが続きます。本当は最初からすべてが幸せだったというわけではなく、ミャーコはクラスで少し浮いていたり、お弁当を持って来られないためにひとりぼっちでお腹を空かせていたりするのですが、トリオに影響を受けてクラス全体が少しずつ変わっていきます。このときのことを回想する言葉に「引力」が用いられます。トリオの引力にみんなが引っ張られていたと。そして、ミャーコがどうしても作ってみたかったレコードをみんなで作ったとき、クラスメイトはミャーコの引力にも引っ張られていました。

さて、この学校は海から遠く離れた場所にありました。ミャーコに至っては生まれてから一度も海を見たことがありません。そんな学校で、子供達は海の生物について習います。暗い海の中で魚たちは自分自身が光って行く先を照らすのだと。そして、子供達は月と地球の関係、引力についても勉強します。今目の前には見えない、遠くにある海、さらにはるか遠くにある月、それらのことを想像をすることや学ぶことの豊かさに私は心を動かされました。それは実際に目で見る海の素晴らしさとはまた別のものだけれど、それを上回る力があるのでないでしょうか。。人生のそれぞれの局面で、トリオたちは、このとき思い描いた海の生物のこと、月の引力のことを思い返します。そうやって、学んだ知識が根深く染み込んで、人生の一部になっているのです。

前半の楽しさから一転、後半、トリオはミャーコを失い、笑わず、歌わず、辛さのあまり怒鳴り散らしてしまう人物になります。二人きりの家族である瑠海はトリオの様子に傷つき、泣き、身投げしようともしますが、それでもトリオはどうしたらいいのかわかりません。瑠海の身投げが何度も続き、事件性を疑ったルリ子とケンジは故郷に帰ってきます。もうお互いが誰かもわからないほど会わずにいたトリオと二人でした。そんななかで、トリオは過去から未来まで、今ここにはないたくさんの出来事に思いを馳せます。失った悲しみと後悔で引き裂かれそうになるトリオ。それに立ち会ったルリ子とケンジは叫びます。どうしたんだよ、あのころのお前は、みんなをすごい引力で引っ張っていたお前は、そんなんじゃなかっただろう、と。パンフレットのご挨拶に、人間にも「日常暮らしていて絶対感じることの出来ない程の微力」だけど確かに引力がある、と、ありました。

劇中、前半ではトリオとミャーコの引力が取り沙汰されていましたが、ルリ子にもケンジにも確かに引力がありました。トリオは迎えるはずだった未来、失われてしまった過去を何度も何度もリフレインして、全部を自分の中に染み込ませていくのです。すべてを引き受けたときにやっとトリオは瑠海の手を取ることが出来ました。今ここにはないものを思い、想像し、自分の血肉にする。そうやって進む人は本当に強いし、優しい。そうすることは容易ではないけれど、そうやって生きていくことが出来る。すべてのものや、人や、思い出に引力があるから。その引力でこの世界に引っ張られているから。上に名前を挙げなかったクラスメイトや、先生、屋上で練習してたバイオリニストとギタリスト、レコード作りに参加したベーシストとドラマーも含めて、全ての人の引力によって、つくられたこの物語はそんな多幸感に包まれて終演しました。

 

【筆者プロフィール】

要小飴(かなめこあめ)
1988年長崎県佐世保市生まれ。
2013年より大阪在住。同年、コトリ会議に入団。役者として活動。
2016年に劇団代表になり、現在に至る。

[出演情報]
現代演劇レトロスペクティヴ
コトリ会議
『髪をかきあげる』『ともだちが来た』
作・鈴江俊郎   演出・山本正典

【日時】
平成 30(2018)年 11月 15日(木)~18日(日) 全8回

【料金】
前売/一般 2,700円  23歳以下 2,000円(要証明)
当日(一律)/3,000円
二作品共通/4,500円(要事前精算・50 セット限定)

【詳細】
コトリ会議
特設WEB http://kotorikaigi.starfree.jp/retro/

人物(五十音順)

要小飴
(俳優、コトリ会議代表)