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2018/10/5-10/8 室屋和美:Micro To Macro『ワンダー三日月リバー 〜46億年の奇蹟の話〜』 レビュー

去る10月5日から8日に、Micro To Macro『ワンダー三日月リバー 〜46億年の奇蹟の話〜』(應典院舞台芸術祭Space×Drama×Next2018参加作品)が上演されました。幸せな日常、そして喪失からの回復を描く、厳しくも優しい物語が、臨場感あふれる生バンドサウンドとともに展開される作品でした。今回は、劇作家・役者・WEBライターの室屋和美さんにレビューを執筆していただきました。


Micro To Macro(以下、ミクマク)のお芝居を拝見しました。
上演時間は110分程度。チラシ掲載のあらすじはこちら。

 男の乗った一艘の船 順調に進んでいたはずが

 ざぶん 潮の逆流に飲み込まれる

 川の流れは「時」の流れ 男は不思議な時間を行き来する

 ざぶん ざぶん

 流れ流され 辿り着く先は何処なのか

 男と女 一匹と一羽

 月と地球の 46億年の奇蹟のお話

 

ちょっとファンタジー色を匂わせています。この作品は2014年にカフェで上演されていてその再演のようです。劇団としては初めての長編再演とおっしゃっていたように思います。このレビューを読んでくださっている方はミクマクさんをご存知の方かなと思いますが、念のためご説明。

ミクマクさんは関西演劇界でとても人気があり、お芝居と生演奏のバンドが両方楽しめる〈音楽劇〉が特徴のエンタメ性高い劇団さんです。このバンドというのがまた凄い、学園祭のバンドみたいなものを想像していると強烈な不意打ちを喰らいます。ヴォーカルはだいたい作・演出・出演の石井テル子さんが務めていますが、ほんと魂の声というのかな、お腹の底まで震えるように届く素晴らしい歌声です。もちろん演奏も超カッコイイ。お芝居はむつかしいテーマでなく身近なことを題材にしているように思うので、観劇ビギナーさんにぜひオススメしたい劇団であります。ダンスもありますよ、ほんと楽しい。イキイキとした生の魅力でいっぱいです。

「ワンダー三日月リバー」は、とある夫婦のお話。泥谷さん演じる〈ハバタキ トリオ〉と、テル子さん演じる〈ネコタ ミャーコ〉。この二人の学生時代の出会い、仲間との日々、恋愛に至る道程、子供をもうけ、幸せな家庭を築くまでの人生が丁寧に、執拗に描かれています。この執拗に、というのがどういうことなのかというと、物語は全体の俯瞰であったものが徐々にトリオの主観として語られるのですが、後半で明らかとなるミャーコの不慮の死をきっかけに、現在と過去を行き来する怒涛の回想シーンに突入するのです。

後悔や自責の念に駆られるトリオの心象風景は荒波に晒される一艘の船で表現されていて、まったりほっこりの微笑ましい前半パートとはうってかわって、もの凄いスピード感で記憶の断片が交錯します。この圧倒的展開がミクマクさんの巧みさ、カタルシスが得られる点です。う~泣きそう・・と耐えていたら畳みかけるように切ないメロディ。バイオリンの音色が胸に刺さる。客席の皆さん鼻水ズビズバ。こちらも涙の、海。「Gravity」という曲がとても好きです。頭ん中グルグルします。

人生にはさまざまな選択肢・分岐点があること。地球と月の引力のように、人には引かれ合う奇蹟のような力があること。真っ暗闇の深海の生物のように、ときには自力で道を照らさなくてはいけないこと。さまざまな出来事を通じて〈大切なこと〉があきらかになります。

ミャーコの死後、夫婦間の子供・瑠海が、トリオにかまって欲しくて、一生懸命お喋りするところがたまんなかったんですよね。瑠海は仕事から帰ってくるトリオとのお喋りをシミュレーションして、ひとりたくさんお喋りの練習をします。テストの成績が良かったよ、みたいな。

で、トリオが帰ってきたら「ただいま!あのねあのね」と話し出すのですが、ここで「おかえり」って言わないところが個人的にガツンときちゃって。これ作劇で狙っているところなのかわからないですけど、良い子のように振舞っていても「ただいま」と言っちゃう辺りがね、受け止められたい、愛情が欲しい、そういう気持ちがにじみ出てる気がして思わず瑠海を抱きしめたくなったんですよ。ついつい瑠海を叱ってしまうトリオほんと不器用すぎる。いじらしい。まぁ、でも生きているとそういうすれ違いの連続ですよね。

ミャーコは亡くなる前に瑠海にこんな話をします。「お父ちゃんはな、奇蹟やねん」。地球と衛星である月というのはすごく密接で、特別で、たったひとつのパートナーだ。当たり前のようにそこに在るけど、当たり前じゃない。ミャーコにとってトリオはそういう存在なのだ。それはトリオとミャーコに限らず、全ての出会いに言えることでしょう。

自分の両親も、夫も、友人も、皆少しずつ年を重ねております。もちろん私も。元気でいてほしいなと思うけどずっと元気ってわけにはいきません。いま隣にいる人を見つめていたい、引かれ合っているいのちの限り。そんなことを考えさせてくれる浄化のお芝居でした。

ちょっと作劇の描写でもっと見たいな、薄いなという点もありましたが、完全に迫力負けです。心躍って、揺れていました。とにかく愛情深い作品。舞台正面には海面から青空をのぞいたような淡い光のお月様。うつくしい。クラゲの頭みたいにも見える。キャスト・プレイヤー・スタッフともに素晴らしいチームプレイでした。

 

○レビュアープロフィール

室屋和美(むろやかずみ)

劇作家・役者・WEBライター。1984年兵庫県神戸市生まれ。
近畿大学演劇芸能専攻・劇作理論コース中退。
2012年から『劇作ユニット野菜派』を立ち上げ。
以前は『劇団八時半』『コトリ会議』などに所属。
劇作家の活動として、戯曲「どこか行く舟」がAAF戯曲賞佳作を受賞。
世間のさえない領域で静かに呼吸している小魚のような、ひそやかな人々とその切実さを好んで描く。

◇近年はご依頼をいただいて劇作をしたり、大喜利や官能小説のイベントに出演したりしています。
趣味はマンガを読むこと、お笑いの舞台を見ること。
小さな畑の世話もしています。いつでもなんでも気軽にお声かけください。

Twitter: @ooiri_muroya

 

◇活動告知

(1)「カヨコの大発明」という演劇ユニットの旗揚げ公演にオープニングゲストとして出演します。作・演出は應典院モニターレビュアーとしてもご活躍の二朗松田さんです。王道大喜利ミュージカルと銘打っての公演!どなたでも楽しめる作品になるかと思います!

日時:2018年10月26日(金)~28日(日)
26日(金)20時~★ OPゲスト:TAGAWA NORICO
27日(土)13時~/16時半~/20時★  OPゲスト:室屋和美
28日(日)11時~/16時~★ OPゲスト:KING&HEAVY
(★マークがゲスト登場回。開演15分前より10分間のパフォーマンス)

会場:in→dependent theatre 1st
大阪メトロ堺筋線「恵美須町」駅1B西出口 左手(南)1分
詳細:公式ブログ https://ameblo.jp/kayodie/entry-12401529990.html

カヨコの大発明 Twitter @daihatsumei

 

(2)毎年盛況の一人芝居フェスティバル「INDEPENDENT:18」に参加します。
脚本私、演出は大沢秋生さん(ニュートラル)、役者は是常祐美さん(シバイシマイ)です。
豪華なユニットが競演するこの機会をお見逃しなく!

最強の一人芝居フェスティバル〈INDEPENDENT:18〉

日程:2018年11月22日(木)~25日(日)
※私たちはユニット〈d〉として参加。
23日20時~、24日19時半~、25日13時~のブロックに出演します。
会場:in→dependent theatre 2nd
大阪メトロ堺筋線 「恵美須町」駅1A出口 右手(北)5分

詳細:http://independent-fes.com もしくはインディペンデントシアターHP

 

(3)動画配信サービス「観劇三昧」にて、私が作・演出を手掛けたお芝居、
「そこはかとなく優しくフィット」の動画が期間限定配信中です。(~2019年1月末頃)
会員登録後〈有料/月額980円で全動画見放題〉ご覧いただけます。
お試しで3分間の無料視聴も可能です。

作品詳細: http://kan-geki.com/member/play.php?id=962

 

また、演劇グッズ専門店「観劇三昧」にて、近年の戯曲5種を販売しております。
WEB通販もあります。ぜひお買い求めください。
商品紹介: http://kan-geki.com/store/products/list.php?category_id=546

 

 

 

 

人物(五十音順)

室屋和美
(劇作家・役者・WEBライター)