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9/24 エンディングセミナー2016 「もうひとつの『終のすみか』~ホームホスピスから家族・地域を考える~」を開催いたしました。

去る9月24日午後14時より、大蓮寺にて、浄土宗平和賞受賞記念セッション・エンディングセミナー2016「もうひとつの『終のすみか』~ホームホスピスから家族・地域を考える~」を開催しました。54名の参加者にお越しいただき満席となりました。第一部は、ゲストに奈良のホームホスピスみぎわ(以下みぎわ)の櫻井徳恵さんをお迎えし、日々の取り組みをご紹介いただきました。第二部は、奈良県のホスピスとがん医療をすすめる会会長の浦嶋偉晃さんを加えて、大蓮寺・應典院住職の秋田光彦を進行役に、対話が繰り広げられました。

第一部、冒頭に櫻井さんから「人生の最後をどこで迎えたいと思いますか?」という大きな問いが投げかけられました。病院でしょうか。自宅でしょうか。あまり選択肢がないことに気づかされます。「病気の先に死があると思っていませんか?命は長い方がいいと思っていませんか?」「病院は病気しか診てくれません。人生の尊厳を見てくれません。病院は最期の時を過ごすのに、ふさわしくありません。在宅介護もご家族の負担がたいへん大きくなり難しい局面が訪れます」と、病院勤務そして在宅介護などの様々な経験から実感を持って発言されました。グループホームでも、病気が悪化してくると病院に運ばれるため、“終のすみか”になっているとは言い難いのが現状だといいます。

ホームとは“家”という意味です。それは自宅を指すものでもありますが、精神的に安らぐことができる場所であれば、そこは“ホーム”だと言えるのではないでしょうか。宮崎県では、「宮崎をホスピスにしてしまおう」というスローガンのもと、認定NPO法人ホームホスピス宮崎が中心となり、大きな活動がうねりとなって近年に始まりました。現在、ホームホスピスは全国で約40カ所あります。がんや認知症を患った高齢の方が、病院でもなくグループホームでもなく、生活感あふれる家の畳の上で、ご家族と介護者に囲まれて過ごせる場、それがホームホスピスです。

奈良県大和郡山市にあるみぎわは、キリスト教牧師である理事長とともに櫻井さんが立ち上げられました。櫻井さんもクリスチャンでいらっしゃいます。今年の3月にオープンしてからすでに6人の方を看取られました。櫻井さんは「枯れて旅立たれた」と表現されました。だんだんと食事をとれなくなり、死へ近づいていく方を見つめるご家族が、体をさすりながら「お母さん、お母さん」と心から呼ぶ様子を見て、人は生まれた時と死ぬ時にだけ、本当に心から「おかあさん」という呼称で呼ぶのではないかと思わされるそうです。また、介護をしているご家族同士がお互いに支え合うことができるのも大きな特徴と言えます。お隣のお部屋の方にご飯を食べさせてあげたり、ご家族同士が悩み事を話し合ったりすることが自由に行われます。ホームホスピスの中では、毎日にぎやかに人が出入りし、誰がスタッフで誰がご家族なのかもよくわからなくなるほどだそうです。まさしくみなさんの“ホーム”になっていることがわかります。そして、利用されている方の一番の楽しみは食事だそうです。温かい手作りご飯をみんなでテーブルを囲んで食べる時間は、幸せの匂いが漂います。ただ畳があるから“家らしい”わけではありません。ご家族が関わり、しんどいことを分け合うことができる拠り所、そこに“ホーム”としての意義があるのです。

第二部の対話、そしてお客様の質問に答えていく時間の中でも、いくつもの気づきが生まれました。浦嶋さんは「看取りの文化」をいかに育てるかに言及されました。様々な文化と同じように、それは体験することによって育まれます。あるご病気になられたお父さんが、小さな子どもに自分の姿を通して生と死を教えるように、誰かを看取ることによって初めて人は死を間近に捉えることができます。看取りの文化を育てることは、一人一人の死生観を養うこと、いわば“死の質”を高めることでもあります。そのためには、地域社会の包摂的な取り組みが必要です。さらに、ホームホスピスと宗教者の関係性について話しが及びました。櫻井さんはご自身がキリスト信者であり、神様から与えられた仕事としての使命感をもっておられます。対話の中で「神様にすべてを委ねている」という言葉が自然に出ておられたことに気づかれた方も多かったと思います。秋田住職は、宗教者であるからこそ語ることのできる言葉があると述べられました。また、ホームホスピスみぎわの取り組みは、仏教本来の姿に戻っているようだと言われました。かつては弟子がそれぞれに看取りあい、縁を紡いで生きてきた、そのように仲間としっかりと日常生活を営んでいくことこそが儀礼であると述べられました。現代社会が取りこぼしてきた死生観を取り戻すために、仲間とともにしっかりと日常生活を行うことが、私たちがすぐに心がけることができる一歩目なのかもしれません。今後もホームホスピスの取り組みに期待し、ひとつでも多くの場が生まれることを願いながら、今回のエンディングセミナーは幕を閉じました。