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2018/11/9-11/11 白井宏幸:N₂『書き言葉と話し言葉の物性を表在化する試み Tab.4『磔柱の梨子』 – Beggars in pear orchard』レビュー

去る11月9日から11日に、冗談だからね。N₂『書き言葉と話し言葉の物性を表在化する試み Tab.4『磔柱の梨子』 – Beggars in pear orchard』(應典院舞台芸術祭Space×Drama×Next2018)が開催されました。場所・時間・人・言葉・物の存在そのものを感じ取るような公演でした。今回は、ステージタイガー所属俳優の白井宏幸さんにレビューを執筆していただきました。


最初から言ってくれていました。

何度もなんども、レビューを書こうとしていながらも、N₂ さんの作品についてうまく表現ができないとおもって、ぐるぐると考えを巡らせていたところ、結局のところ「実験」のように思えてきたところで、N₂ さんの作品のタイトルをようよう見てみると

書き言葉と話し言葉の物性を表在化する試み – Tab.4「磔柱の梨子」-
きちんと「試み」と書いてくれていました。
近くに、あったんですね。

僕は、この作品は本当に心地の良い作品だなと思いました。
芸術性が高いとも思えば、日常から遠いかというとそうではなく。
とはいえ、本当に言葉では言いにくいので、身近なところから伝えていこうと思います。この先、堅苦しい言葉が続いてしまうかもしれません。應典院さんにゆかりのある方で、演劇にあまり親しくない方にとって、興味をそそられないかもしれません。
ですが、簡単に申し上げますと、朝の風のひんやりした感じとか、腰掛けた石の手触りだとか、そういう、当たり前に在るものに、建物の中で出会うことができた演劇だった。と、今はいっておこうと思います。

まず、N₂ の杉本さんについて。
作品を見たのは in→dependent のトライアルに参加されていた時でした。
もう、これは仕方のないことですが、「向きではない」という印象でした。
そして、先日ちょうど、折が会い、劇団員のザキ有馬と3人で飲むことがありました。実は取っ付きにっくい印象を少し持っていたんですが、全然そうで無くって、今の僕はとても話を重ねていきたいタイプの、思慮深い人だなぁという印象を持ちました。うまく言えないけれど、なんとか伝えようとする。そういう、努力をする人。多分、あんまり話をするのは得意じゃないのしれない。けれども。そこをなんとか伝えようとする人。そんな印象でした。

作品について。
午前と、夕暮れと、夜と。時間帯によって、まったく違う見え方のする作品で。もうこの時点で「商品」ではなく「作品」なのです。劇作に関わってくると「クオリティ」なんて言葉が勝手に飛び回ってしまうんですが、同じものを同じくらいに提供する、という大切さの裏側に「同じものなんて存在しない」という不確実性を楽しむというものが、演者と客席のある演劇の醍醐味だと思ってもいるのです。

話を終わらせずに次に進むところでした。
劇場内にある窓などを立つようして、自然光を取り入れたり、舞台を組んだりせず、出入り口を特に設けず、階上に上がりそこで操作もするという現実の距離感を楽しめるふうでした。自然光を入れるということで、午前中の作品を見た僕は夕方の作品を見たくもなったし、夜に見た人は次の日にはどんな感じなんだろうかと思うのではないでしょうか。日光なんて、普通のことなのに。

多分、杉本さんは物語(いわゆる、起承転結のあるストーリー)を作ろうとはしていませんから、舞台上の人間が、台本の都合で無理のある心情変化を強いられることはないのでした。が、その人達の心の中にある感情というものは、簡単には語れるものではなく、とても高密度なものなのだろう、と。予測する程度のことしかできないのでした。

会場である應典院について、受付を済ませ、階段を上がると、展示があり、所々に石が置いてある。そして、一人の女性が、す、と歩きながら、それを拾っては舞台に巻いている。その巻かれた石達を、一人の男性がぐるりと手で広げて、たくさんの小石が大きな円弧を描くように広げられてゆく。僕はロビーにいた時に「そういう演劇」の楽しみ方と恐ろしさがあるのも知っているので、少し勇気を出して、遠巻きに見る、ということをせず、不自然ない距離に「居る」ということを試してみました。
目の前で、明らかに、一般のお客様とは違う雰囲気をまとった女優さんがいる。それを感じることを楽しんでみたりもしました。
簡単な言い方をすると「変」かもしれません。
でも、触れられる、少し怖い距離にあるものも、楽しんでいいものだと思います。
楽しみ方を知るというよりは「楽しいな」と思えるかどうかだと思います。
なんとなく楽しかったと思えた人はよかったと思います。
なんだかよくわかんないなと思った人は、残念。今回はハズレかもしれません。もしかすると、コンディションの問題かもしれませんし、生来持った感覚の違いかもしれません。一生楽しめないタイプの作品なのかもしれません。そういうことも、はい、ありえます。が、僕にはとても楽しかった。「いのち」があったような気がして。

もう一度作品に戻ります。
二人の男女が。日本国籍をストレートに持っていない男女が(無学で申し訳ない)。生っ粋でない、とでも言えばいいんでしょうか。いろいろのことを語ります。時に英語で、時に韓国語で。芯の通った自然さで。(アフタートークから推測されたことなんですが)脚本自体は、杉本さんと俳優二人の会話の中や、出自、過去、経歴、現在、いろいろなものからすくいあげたもののようでした。実際の職業であるとか、いわゆる俳優個人を形成する思い出のようなぶぶん。

すくい上げて積み上げて壊して再構築する。
そういう「作業」を経て出来上がったものを、僕は見ていたのだと思います。
変な言い方ではありますが、相談事を聞いているような作品だったようにも思いました。
少しでも気になられた方は劇場へきてみてください。

―――

白井宏幸
ステージタイガー所属俳優

SHASEN × ステージタイガー
『スロウステップスマイル ~笑わない少年と家出少女~』

【日時】
2019年2月
2日(土) 19:00~
3日(日) 13:00~ / 17:00~

【会場】
あべのハルカス近鉄本店ウイング館8階 近鉄アート館

【料金】

一般 前売2,500円 当日3,000円
学割 1,000円(大学生含む、要学生書提示)
※ 全席指定席

人物(五十音順)

白井宏幸
(俳優、ステージタイガー所属)