2018/12/22-12/24 白井宏幸：MEHEM『鐡の夢果て』レビュー

12月24日クリスマスイブ。私は、浄土宗應典院本堂にてMEHEMさんの「鐡の夢果て」という作品を観劇いたしました。
MEHEMさんの作品は「<canvas/>」という作品のみ過去に一度拝見したことがありました。
あとはこちらは未見ではありますが、ウイングカップ７に参加していた「ハローワールド、私の世界を愛してる」という作品については、作品タイトルや雰囲気までが耳に入ってくることがありました。
こういった情報に関しては自分は基本的にTwitterなんかが主でありますが、そうやって、どこへともなく情報が、活動が、広がっていく可能性があるというのはいいものだなと思います。

さて、劇場に足を踏み入れてみますと。３面舞台と言える構造でした。
ご本尊があるあたりを舞台に奥に、そのまえに正方形の舞台スペースがある作りとなります。
客席は、その正方形のスペースを囲む形で３面に、しかし、あまり舞台の奥の方にまでは組んでいない、といった感じ。
ながたさんの作品は、物語性を重要視したように思いました。いわゆる、ストーリー。展開、設定。
物語は２部構成のようなカタチで展開されていきます。
一つは、人工知能を開発しようとしている科学者たちのお話。
一つは、空を飛ぶ夢を持った青年のお話。
ジャンルとしては後者はスチームパンクに属するのでしょうか。産業革命の原動力となった蒸気機関が、現実の歴史における絶頂期以上に発展した技術があるような社会を前提としたSF作品。そういった世界観で展開されていきます。
見事だったなと思うのは、映像や衣装など、もちろんもっと素晴らしいものは他にもたくさんあるんでしょう。上を見てはきりがない、僕らはそういうものと戦っていかなくちゃいけないとは思うんですが、ともかく、彼女ら、彼らの「やりたい」が詰まっていたように思いました。細かいところまで、好み、趣が行き届いた、といった感じ。

解釈に違いがなければ、二つの世界は相互に補完する世界で（ただ、おそらくベースは学者の側の世界）お互いの主人公がそれぞれの主人公を夢見ているという「設定」
自分の「こうありたい」という理想がもう片方の世界のもう一人の自分に作用する。
そういった構成で展開されていきます。

一番好きだったシーンというのがありまして。
なんやかや、いろいろあって、主人公の不慮ため、怪我をさせてしまった別の科学者さんと一緒に仕事をしないといけなくなります。こんなの、辛いですよね、罪の意識でどうにも参ってしまいます、僕なら。
そして、彼らが作っている人工知能というのが、思考パターンの蓄積をすることで、物事を判断することができるようにしていく、という「機械学習」ではなく「深層学習」に近い作業過程だったんです。
「○」か「×」かという、機械的な判断ではなく、気にいるか気に入らないか、人間がなんとなく判断する結果の積み重ねをデータとして蓄積することで、その人工知能の糧にする。ということなんです。
「あいつ（主人公）の考えてることなんて、こいつ（人工知能）見てればわかるよ」
と、怪我をさせられてしまった科学者が、このような言葉をいうシーン。
ここが、僕にとっては良いシーンだなと思ったのです。
作ったものを見ることで、作り手を知る、というところでしょうか。
ディフコミュニケーションからの回復、といったところでしょうか。

また、夢の中のもう一人の自分に対して「彼ならどうする？」と自問するようなシーンもありました。
なりたい自分を想像する、だとか、自分では届かないところへ近しい仲間が連れて行ってくれる。
作品の中では夢と現実という隔たりがありましたが、既出のTwitterなどで「頑張っている人」を見つけて力をもらう。
といった影響のされ方などにも似る部分があるようにも思いました。
形のあるものばかりが正しいものではなく、良い部分は探せばいくらでも見つかるかもしれない。
そう思わされた作品でした。

—–

白井宏幸

おそらく関西小劇場で唯一カンヌ国際映画祭のスクリーンに映った俳優
ステージタイガー所属俳優

SHASEN × ステージタイガー
『スロウステップスマイル ~笑わない少年と家出少女~』

【日時】
2019年２月２日（土）～３日（日）
２日（土） 19:00～
３日（日） 13:00～　17:00～

【会場】
あべのハルカス近鉄本店ウイング館8階 近鉄アート館

【料金】
一般　前売2,500円　当日3,000円
学割　1,000円（大学生含む、要学生書提示）
※ 全席指定席

【特設サイト】
http://st-tg.net/_sp/sss/