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2019/1/17 白井宏幸:『鹿を食べて、鹿について考える会』(コモンズフェスタ2019)レビュー

去る1月17日に、異類観光プロジェクト~異類という他者を考える~『鹿を食べて、鹿について考える会』(コモンズフェスタ2019)が開催されました。應典院コモンズフェスタの常連企画であり、「鯰」「亀」「鯨」「馬」と続き、今回は「鹿」が取り上げられました。ステージタイガー所属俳優の白井宏幸さんにレビューを執筆していただきました。


りんごは鹿に勝てなかったんだ。
そう、くだらぬ事を考えながら、應典院へ足を運ぶ。
折しも、1月17日。ありがたいことに、明石に住んでおりながら僕はたいした被害に遭うこともなかった。

この週には應典院にて「コモンズフェスタ2019」と題し、いろいろな催し事が4日間にわたって行われている、その初日のことでありました。
役者を業としておりますので、お芝居を見に来ることがやはり多くあるのですが、こういう時こそ、お芝居とは違った考え方やあり方に触れることができるという良い機会。とはいえ、無名劇団さんも、島原さんが前作のアフタートークにゲストとしてきていただいたこともあり、作品にも興味があったので「私戯曲りんごのうた」も見たいなと思っていたのです。
しかし、この日は、鹿肉がりんごを打ち負かしました。(りんごのうたについては、後日また綴ります)

いつも思っていることの一つに、もしも文明が滅びたとしたら、
現在身の回りにあるものの、たった一つも僕は作ることができない。ということです。
木の枝を割り箸に見立てて使うことができるとは思いますが、そもそも、「割り」の部分を造ることができない。
創らなくていい、というハンデがあったとしても、です。なんにもできません。なにひとつ。

この「鹿を食べて、鹿について考える会」においては、いろいろな専門的な知識や、それを踏まえた上での様々な思想を伺うことができました。僕は、特に思想を持たず(と、信じていますが、さて、どうでしょうか)、あまり知識もないものですから、その立場を利用させていただき、この場におられなかった方に、その日得た「おもしろ」を無責任にお伝えさせていただきます。

奈良県では神鹿(しんろく)、神の使いとされている鹿ですが、害獣として捕殺されることになったということ。
諏訪大社には「鹿食之免(かんじきのめん)」というものがあり、肉食を禁忌していた時代でも、鹿並びに四つ足の動物を食べることを許可する御符があるということ。かんたんには、
前世の因縁で 宿業の尽きた生物は 放ってやっても長くは生きられない定めにある
従って人間の身に入って死んでこそ 人と同化して 成仏することができる というものでした。
理屈で言えばなるほどだし、ルールとしてみれば抜け穴じゃん、とも言えなくもない。
「わたしだけは、いいのだ」なんて時の権力者さんは言っていたのかしら。
しかしながら、信心の側面の強さも同じくらいあるなと、僕は思っております。

また、感心したことの一つに、
鹿肉を捌く人たちの身分について触れられた方がいました。
仏教が四つ足の動物を食べるということを禁じていたけれども、「狩り」というものは高貴な人のレジャーだったわけで、
そしたら、獲物は捌かれることになります。穢れ多しと書いて「穢多」と言われる身分の人たちが「餌取(えとり)」といい、狩猟のための鷹や犬に対し、餌を与える賎民から派生したものである(という一説、あくまで)、ということを伺いました。

真偽はどうあれ、根が深い。そう思いました。
いまさら、物事の真偽や、もちろん、正誤、善悪など決めることはできませんし、正義という鈍器でポカポカ殴ることもできません。お鍋や、包丁さえ作ることができない僕などは、口に運ぶまでに通ってきたたくさんに物事を思い、「あぁ、僕とは無力だなぁ」と思いながらゆっくりといただくことくらいしかできません。
とはいえ、それほどまでに偏った考えを持つことはない。
演劇の打ち上げとかで、あまりにも食べきれない注文をして残すことも、残ってしまった食べ物をお腹を壊すほど詰め込むことも、同じくらいに愚かで呑気なことだなと。少し、立ち止まって考えてみれば、いいんだろうな。そう思いました。
他にももっともっと、得たことがありました。お野菜美味しかったし、美味しいカレーの作り方を聞いてきましたし、イノシシのお肉、鹿のお肉、それはそれ、単純に身体が喜ぶ美味しさでした。

歴史のあるものについて考えると、いろいろ新しい世界が見えるようになります。
機会があれば皆さんも、應典院でのいろいろな催し事に参加してみてはいかがでしょうか。

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白井宏幸

おそらく関西小劇場で唯一カンヌ国際映画祭のスクリーンに映った俳優
ステージタイガー所属俳優

SHASEN × ステージタイガー
『スロウステップスマイル ~笑わない少年と家出少女~』

【日時】
2019年2月2日(土)~3日(日)
2日(土) 19:00~
3日(日) 13:00~ 17:00~

【会場】
あべのハルカス近鉄本店ウイング館8階 近鉄アート館

【料金】
一般 前売2,500円 当日3,000円
学割 1,000円(大学生含む、要学生書提示)
※ 全席指定席

【特設サイト】
http://st-tg.net/_sp/sss/

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白井宏幸
(俳優、ステージタイガー所属)