イメージ画像

2019/1/12-1/14 白井宏幸:劇団不労社 『忘れちまった生きものが、』レビュー

去る1月12から14日にかけて、劇団不労社 『忘れちまった生きものが、』(應典院舞台芸術祭SDN2018)が開催されました。過激な世界観の中に、笑いも愛おしさも詰まった作品で、多くのお客様にご来場いただきました。ステージタイガー所属俳優の白井宏幸さんにレビューを執筆していただきました。


みなさま、こんにちは。ステージタイガーという団体に所属する俳優、白井宏幸と申します。
兵庫県出身、大学から大阪に住んで、人生の半分を大阪で過ごしております。今住んでいる家には仏壇は置いておりません。
レビューを書いている頃は先日の公演の稽古の真っ最中で、その間隙を縫って、劇団不労社さんの舞台を拝見いたしました。僕たちは心温まる人情話を近鉄アート館にて行いました。さて、不労社さん。われわれの作る作品とは程遠い位置にある人情話。
都市伝説と、コンビニで売っている分厚い漫画とを混ぜ合わせたような演劇でした。
コンビニで売っている分厚い漫画については、案外面白い情報源になるだろうなぁと思いつつ、購入にまでは至らない、非常に俗で、卑猥で、エロティックな、でも何かしら魅力のある、分厚い漫画のことを言っております。西田さんとは、SDN2018にも参加される東洋企画さんにお呼ばれして出演した際に共演をいたしました。そこから何度か舞台も拝見しておりますが、とてもクレバーな男である。という印象。セリフの発し方がとても自然で丁寧で、生々しい。大げさではない。そういう、距離感をよく考えてお芝居を作ってきた人であるから、僕はある程度信頼を持って、不労社さんは何度か見に来ている。というか、わりと好きなんです。先に肝要なことを言ってしまうと。
覗き見するのは気持ちいい。
溢れる直前が面白い。
死んでる人が生きている物語が好き(私見ですが)。
こんなところかなと思います。

お話は完全にムラ社会で外れものにされたよそ者家族が最後まで救われもしない、という物語。
温故知新とはいえ、そういった閉鎖的なムラ社会というものにはあまり好感をもてません。ただ、
欲求には逆らえないんだなって思います。他人様の家庭事情を覗き見することには湧く思いがあるわけです。誰が反撃するのか、誰が懲らしめられるのか、誰が不幸になっていくのか。そういう、どちらかといえばあまりよくない考え方が湧いてきて、楽しみにしている自分に気づきます。そいうい感覚の根源がなんであるのか、その感覚の善悪については置いておいて、うまいこと、心理を利用しているなぁと感心するばかりです。

ホラー映画で良いところは、決定的なことが起こらないこと、もしくは、怒り続けないことなのかな、と。不吉な曲がり角へ続く廊下の、その壁をゆっくりゆっくりと、目地が見えるくらいにゆっくりと長回しで撮る。何かが起こりそうな雰囲気をギリギリで保ち続けたまま、溢れさせることなくその緊張感を保つ、保ち続ける。
「ずっと一触即発」
そういった状況を作ることができているのは本当に、素敵だなぁと。作品や、西田さんの作りたいものに添った俳優のみなさんや、ひやりとした隙間風まで想像できそうな空間を作った舞台、音、あかり。それらを作り上げたスタッフのみなさんも素敵。

これは、勘ぐりですが。
登場人物の中に、最初から、もしくは途中から命を絶った人がいたんじゃないだろうかと思っております。本人が気付いているかそうでないかはわかりませんが、それが誰かはわかりませんが、なんとなくそう思ってしまいました。生きている人と生きていない人が同じ空間でいる、という感じがありました。それは環境の問題かもしれないし、立場の問題かもしれない。
ディスコミュニケーションって本当に恐ろしいな。きちんとしたホラー演劇でした。

————

白井宏幸  ステージタイガー所属 俳優

次回出演
ステージタイガー 松原公演 「I CONTACT」

【日時】
3月16日(土)
午後3時00分(開場は開演の30分前)
【会場】
松原市文化会館<全席自由>
【料金】
入場無料

人物(五十音順)

白井宏幸
(俳優、ステージタイガー所属)