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2019/7/13-15 白井 宏幸:エイチエムピー・シアターカンパニー『女殺油地獄逢魔辻』(應典院寺町倶楽部協力事業)レビュー

去る7月13日~15日に、エイチエムピー・シアターカンパニー『女殺油地獄逢魔辻』(應典院寺町倶楽部協力事業)が開催されました。俳優の身体性や、映像による舞台美術など洗練された表現が光る。近松門左衛門の難解作品を、現代にも通ずる解釈で描いた秀作でした。今回は、ステージタイガー所属俳優の白井宏幸さんにレビューを執筆していただきました。


みなさまこんにちは。
ステージタイガーの白井と申します。
モニターレビュアーとして何度か書かせていただいておりますが、今回は久しぶりの駄文を書かせていただきます。

2019年7月15日に、劇団エイチエムピー・シアターカンパニーさんの「女殺油地獄逢魔辻」を見させていただきました。
15日午後の回では人形遣いの桐竹勘十郎さんがゲストでいらっしゃるということで、スケジュール的にも都合がよく、その回に劇場に足を運ぶことにしたのです。
梅雨の合間のお天気の日に、そもそも汗かきな僕は、じとりとした背中を感じながら、ひんやりとする会場に入って行きました。
まず感じた違和感があり、それがなんだろうと思いながら席についていると、劇団うんなまの主催であり、應典院でお仕事をされている繁澤邦明さんが、隣に座り、
「暗いですね」
と。そうなんでした。お客さんが席に着くまでの明かりにしては、とても暗い印象だったんです。違和感の正体としては。
そして繁澤さんがもう一言、
「これがエイチエムピーシアターのやり方か」と。まぁ、おバカな言葉遊びであります。
劇場に来ると、こういう日常の延長のような出会い再会、そういうものがあるんで、良いものです。

舞台には「逢魔が辻」がくまれていて(あぁ、スペースが狭そうで大変そうだなぁ)というのが第一印象。
近松門左衛門の作品で、幾度となくリメイクされてきた作品。五社英雄監督の遺作となったこともある。
そういう視点から、僕は本当に堅苦しい構えで観劇してしまったものだから、どうも一向に物語が頭の中に入ってこない。
ようよう最後の方になって、いっぱしの人間になれなかった男が、最後の最後に踏みとどまることもできずに落ちてしまう。
そういう話なんだと知った。普遍的な物語でありました。
お金を借りて二進も三進もいかなくなる。
いつかはできるやればできると言われながら、自分を騙し騙し年だけは重ねていく。
身につまされる話じゃあないですか。
物語では、本当は(という言い方が正しいかどうかはわかりませんが、原作は、といえばいいのか)殺人を犯してしまう主人公が捕まるところまで描かれているようなのです(学のない僕はインターネットからの知識を拝借いたしましたがね)。
冒頭から登場する「男」が非常に現代的な格好をしていたんですが、どうも、きっとそれが、殺人を犯した主人公なのだろうなと。
逢魔が辻でなんだかあって、時を経て、罪の意識だけを持って永劫。苦しみ続けているのではないかな、と。そう思っています。
捕まるシーンを(劇作家に)作られなかったために、犯した罪を償うこともできず、現代まで逃げ続けることしかできなくなってしまった。
昨今の、逃亡犯に対する、願いのように受け止めてしまった。
願わくば、どうにも行き着くところがなくなってしまった人たちに罪悪感がありますことを。
そんなことを考えてしまいました。

ちょうど、この舞台を見る数日前のことですが、アクションの稽古会に参加したのですが、
その時に教えてくれた方がおっしゃっていたことには、古典のアクションの場合は「全員が殺陣の達人である」ということ。
弱いものが仇を取るために強くなる、といったストーリーではなくて、全員が剣豪である。ということなのだそう。
今回の舞台の登場人物も、一様に衣装を揃えていたり、似通ったメイクをしていたり、個性を見せるようなことを避け、
役者の技術、技巧のみで見せていくような舞台であったように思いました。
個人個人の違いはあるながらも、均一化された印象を受けました。
物語ではなく、技術を見ているという感じ。
とても素晴らしい時間を過ごすことができました。



 

白井宏幸
ステージタイガー所属 俳優

次回出演
ステージタイガー「ファイアフライ」
2019年9月13日(金)14日(土)
高槻現代劇場

人物(五十音順)

白井宏幸
(俳優、ステージタイガー所属)