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2019/9/13~9/15 岩橋貞典:劇的集団まわりみち’39『密会』(應典院舞台芸術祭Space×Drama×Next2019)レビュー

去る9月13日~15日に、(應典院舞台芸術祭Space×Drama×Next2019)が開催されました。故・大竹野正典氏の名作に真っ向から向き合い、まわりみちカラーに染め上げた意欲作。 今回は、脚本家・演出家の岩橋貞典さんにレビューを執筆していただきました。


 

知人に、「〇〇さん(役者名)出てる芝居観ない主義」とおっしゃる方がいる。これだけではちと言葉が足らないので補足すると、役者の〇〇さんが以前やった芝居を、違う役者が演じるのは観ない、ということだ(と思う)。ある意味潔いし、気持ちはわかる(ところもある)。〇〇さんによって得た感動は、別の誰かでもう一度味わうことはない。

もっと言えば、舞台作品とは、何ステージ上演しようとも、それはそれぞれ一回こっきりで、同じこと(感動)は二度と起こらない。まったく同じ作品というものは、物理的に存在しないのだ。たとえビデオで同じものを見ても、それはもう、最初の体験ではない。なぜなら、観客は知ってしまったからだ。この作品を。二回目の感動は、ない。

さて、まわりみち’39さんの『密会』を観てきた。この公演は、「大竹野正典没後10年記念公演」にも参加している。『密会』は、作者である故・大竹野氏自身の劇団でも何度か再演されていた演目であり、他劇団でも上演され続けている。ある意味劇団の代表作である。私もかつて鑑賞したことのある作品だ。ていうか、台本も持っている。どんとこいだ。

1981年に実際に起きた通り魔事件を題材とした本作品は、主人公の、現実と妄想の狭間を揺れ動きながら狂気に囚われていく姿を、10人の登場人物で多面的に描くもので、見どころの多い内容である。実際の事件を丁寧に取材し、独自の解釈で劇空間に展開していく、という大竹野戯曲は、もちろん事件そのものを再現したいのではなく、その事件を「どのように」受け取ったか、が重要であり、さらに「どう」伝えたいのか、が目的だと思う。だからこれを再演するには、資料を読み解くだけでなく、自分たちがなにをやりたいのかを追求する必要がある。いや、そんな必要ないのだが、過去に上演されたこれまでの作品たちが、そうはさせてくれない。ような気がする。台本は尋ねる。お前は何がしたい? 台詞は歌う。お前のみているものは本当の私?

いや、もしかしたら、すべての再演作品には、それが必要なのではないか。その、かつて上演されたであろう戯曲を使って、我々は何をするのか。なにがしたいのか。過去の上演を観ているにせよ見ていないにせよ、その戯曲の持つ「何か」を、自分たちは表現したいのだ。その「表現」とは、本家と同じかもしれないし、違うこともあるだろう。しかし、芝居は、ひとつとして同じものにはならないのだ。役者が変わって、客が変わって、演出家(或いは、プロデューサー)は、そこで何をするのか。

私は、自身があまり再演をしない演出家である。そのとき初演される作品は、だれもがそのときはじめて出会うものであり、すべてが新鮮だ。そんな私が、実はこの「大竹野正典没後10年記念公演」に参加している。一週間前に、別の会場で『サヨナフ』という大竹野作品を上演したのだ。考えた。そりゃもう、考えた。そして、精一杯、あそんだ。私にとって戯曲は道標であり、汲めども尽きぬ泉であり、世界そのものである。それはつまり、私にとっては遊び場である。そういう選択を、私はした。

まわりみちの斜さんは、どんな選択をしたのだろう。出演した役者たちは、なにを選んだのだろう。観客たる私たちは、なにを受け取ったのだろう。答えは、舞台の上にしかない。そのとき見る芝居は、いつだって世界で最初の、一度しかない出来事なのだ。

若手からベテランまでバランスよく配置した出演陣に、異質さを突き付けるオブジェ。不安定な花道と、緩やかに仕切られた舞台空間。荒らした音、クリアな音、行きかう人、いなくなる人、いない人、目に見えない何か。電話。斜さんは、硬い素材をぶつけ合うように芝居を組み立てた(ように、私には見えた)。

さて、同じ台本から語られた新たな物語は、私に、ほかの観客に、何をもたらしたのだろう。感動の再生産か、まったく別の何かか、よく似た、非なるなにかか。それは、いったい何だろう。

そして、〇〇さんの出演しない芝居を観ないあのひとには、なにをもたらすのだろう。

 

 

プロフィール

岩橋貞典(いわはしさだのり)

オリゴ党代表。ほぼ全作品の作・演出を担当。ほか、ネットラジオ『大魔王・岩橋の貴族の嗜み』レギュラー出演、『七井コム斎のガンダム講談会』レギュラー出演など。

 

過去上演台本を製本して販売中。公演期間外では、こちらの書店にて取扱しています。

http://dreammesse2005.cart.fc2.com/?ca=52

 

公演情報

2019年12月13日 LIVE&CAFÉ BAR PLACEBOにて オリゴ党小規模公演『ランカツ(仮)』岩橋貞典・作/演出

人物(五十音順)

岩橋貞典
(脚本家・演出家)