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【報告】保々光耀:看仏連携スピンオフ企画(共催:看仏連携研究会)「お寺のコミュニティ・ケア入門!~withコロナ社会におけるお寺の役割」を開催しました。

去る2022年11月23日に、看仏連携スピンオフ企画(共催:看仏連携研究会)「お寺のコミュニティ・ケア入門!~withコロナ社会におけるお寺の役割」を開催しました。地域に長く根差してきたお寺という場を、いかに捉えそして活かし活かされていくのかを、多角的に考える機会となりました。
龍谷大学大学院実践真宗学研究科にて「まちの保健室」を通したお寺の社会貢献を研究しておられる保々光耀さんに、当日についてご執筆いただきました。

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11月23日(水)、看仏連携研究会との共催で「お寺のコミュニティ・ケア入門!~withコロナ社会におけるお寺の役割」が開催されました。

まず、コーディネーターを務める浄土真宗本願寺派西正寺住職の中平了悟さんから課題意識の共有をしていただきました。
お寺とコミュニティの課題について、まず1つ目に、「所属を前提とした「コミュニティ」はもはや成り立たなくなってくるのではないか?」ということが言われていました。お寺の檀家組織や町内会といったコミュニティは、その構成員が高齢化しているが、若い世代はなかなか入ってこないという現状があります。そういった背景からどのようにして新たにコミュニティを形成していくかは課題になると言えます。

2つ目に「お寺の「社会的責任」ということと、それをどう「果たしていくのか」ということ」が言われました。そこでは、「お寺は何のためにあるのか?」「お寺は何をしてきたのか?」「お寺は何をなすべきか?」といった問いに何らかの形で応答しなければならないのではないか、と提示されました。その応答について、過去のような教団組織からのトップダウン型の統制・指示も成り立たなくなると考えられる中で、各寺院・僧侶はどのように社会的責任を果たしていくのかと、鋭い課題意識が共有されました。

一方で社会の方は、人口減少社会/超高齢化社会や経済状況の変化、小さな政府/縮小される社会保障・福祉などの課題があることを挙げられていました。国家/行政が担ってきた、社会保障/福祉を代替するセクターとして、NPOや社会企業が担いつつある中で、お寺などの宗教組織もその担い手としての可能性が述べられていました。

そして、お寺によるコミュニティ・ケアについて3事例紹介されました。

まず1事例目に、浄土宗西照寺住職の正木唯真さんによって「介護者カフェ」が紹介されました。「介護者カフェ」とは介護に関する話題を語り合う談話会であり、くつろいだ雰囲気の中で、自分の体験や悩みについて語り合ったり、介護に関する情報を交換したり、交流を深める場所として開かれており、当事者支援の場として、全国で開催が広がっているそうです。「介護者カフェ」は、浄土宗でも推進されており、「それじゃあうちでもやってみよう」ということで、とりあえず天王寺区包括支援センターや社会福祉協議会に相談するなど、手探りで始め、次第にそういった専門職だけでなく、NPOや大学生からも協力してもらえるようになったそうです。
この「介護者カフェ」開催について正木さんは、「最初は手探りで始めたが、お寺の持つ魅力を開放し実行するうちに、お寺という場所があるからこそ、自然とネットワークがつながり、自身が知らなかった地域のこと、専門的な知識、社会問題などがみえてきて、個人的な悩み相談も増えるようになった」と仰っていました。
このように、介護の悩みを語り合う場となりつつ、専門支援機関と繋がるきっかけとなりながら地域のネットワークをつくり、地域全体のケア力、サポート力の向上へとつながることが期待される活動でした。

2事例目に、真宗大谷派勝光寺坊守の足立敦子さんによって「子ども食堂」が紹介されました。足立さんは子どもと触れ合うことが好きだということで、「九条北こども食堂 てらキッズ」を開催し始めたそうです。最初は友達同士で始めたそうですが、徐々にいろんな団体も手伝ってくれるようになり、参加者は200人を超えているそうです。そこでは、子どもたちのご両親なども手伝ってくれるそうで、支え手受け手がごちゃ混ぜな空間になっているとのことでした。厚生労働省は「地域共生社会」の実現を掲げていますが、その実現に繋がるような活動ではないかと感じられました。
また、九条は高齢者が多い地域でもあり、高齢者の立ち寄り処「てらカフェ」も開催しているそうです。最初10~15分ほど健康体操をし、そこで保健師や薬剤師、警察や消防の方が来て講演をしてくださるそうで、様々な専門職と地域の人々が触れ合う場になっており、このように地域の専門職と地域の人々が顔の見える関係になることは、改めて非常に重要なことではないかと感じられました。

3事例目に、浄土真宗本願寺派幸教寺住職の石原政洋さんによって「まちの保健室」が紹介されました。石原さんはご自身が坐骨神経痛になり、身をもって健康の大切さを実感したそうです。そこから、ココロもカラダもより良い状態で他者との繋がりを感じられること(Well-Being/幸福/幸せな状態)が重要であるとし、「100歳まで歩いて通えるお寺プロジェクト」を2021年4月から開始したそうです。その背景に、お寺は「老若男女問わず誰もが自由に行き来できる共有地(コモンズ)」であるという理念を持っており、そこから大きく3つの活動が紹介されました。具体的には、住職によるココロの相談と理学療法士によるカラダの相談が受けられる「住職と理学療法士によるココカラ相談所」や、ヨガインストラクターによる誰でもできる簡単ヨガ「ココカラYOGA」と、どれも興味深いものでした。
そして3つ目に「まちの保健室」が紹介されました。各都道府県の看護協会が主催する「まちの保健室」は、各地域の図書館などの公共スペースなどで開催され、看護職による健康チェックや健康相談を、学校の保健室のように気軽に受けられるそうです。石原さんは、ネットサーフィンをしている際にたまたま「まちの保健室」の活動を知り、大阪府看護協会にすぐ連絡し、幸教寺でも活動が始まったそうです。その活動の中で石原さんは、地域の方々との何気ない会話をしながら、その人がどういう生活をしているか聴くことを大切にしていると話していました。

そして3事例の紹介の後、看仏連携研究会代表である河野秀一さんが登壇されました。河野さんは株式会社サフィールの代表取締役であり、看護管理者向けの講習をされている関係で、各都道府県の看護協会と接点があるそうです。その中で、河野さんが大阪や鹿児島、熊本の看護協会と寺院を繋げたことにより、寺院での「まちの保健室」開催が実現しました。

河野さんは行政がACPに期待していることを述べたうえで、ACPを場の力を持つお寺でできないかと期待されていました。人々が集まり、生き方を考え、死生観を醸成する場所として、寺院はその役割を担うポテンシャルがあると感じました。

そして会の最後に様々な職種の方々が入り交じり、複数のグループに分かれての意見交換会が行われました。私自身も一つのグループに入れてもらいましたが、どのグループもバラエティに富んだ職種の方々いらっしゃり、活発な会になっているようでした。

最後に皆さまの意見や中平さんからのまとめを受け、今回のイベントを振り返りたいと思います。

まず、お三方ともに共通するものとして、その行動力の高さに驚かされました。フットワークの軽さは、何か困りごとが起こった時、「この人なら何かすぐ動いてくれそう」という信頼にも繋がると思います。そして、その中で大切なこととして「当事者性」というキーワードがありました。「何かしよう」「何かしなきゃ」と思っても、続かなかったり、目的や目標を失っていったりすることがあります。そこには様々な要因はあるかもしれませんが、自身を含めた、生きている人々の実情に即していくことが実践をしていく一つのキーワードになると感じました。

また、「受援力」という言葉があがっていました。「受援力」とは、支援を受ける力のことを言うそうです。確かに、一人で完結している活動は一つもありませんでした。そして3事例の皆さまは、地域の中で頼られる存在だと思いますが、反対に頼ることも大切にされていました。頼り、頼られる中で信頼関係を築いていく、そのためには私自身、僧侶としての人間力が問われているように感じました。

以上、とても長くなりましたが「お寺のコミュニティ・ケア入門!~withコロナ社会におけるお寺の役割」のレポートを書かせていただきました。市民同士が支え手受け手関係なく助け合ったり、ピアサポートのような形で当事者同士が支え合ったり、市民と専門職との接点を作ったりと、いかに人を巻き込み、渦を作って相乗効果を生んでいくかが地域のケア力向上の鍵になると学ばせていただきました。この会でいただいた沢山のヒントを活かしていきたいです。