【スタッフコラム/インタビュー】「巨大アート『ろうそく絵巻物』現る」
「巨大アート『ろうそく絵巻物』現る」
應典院の自動扉横(風鈴のエリア)と、館内の壁に巨大アートが出現した。
これらは「ろうそく絵巻物」と言って、アフタースクールvivid!に通う子どもたちが、夏休みのプログラムの中で作成したものである。大きな白い紙に蝋燭で絵を描き、翌日に違うクラスの子どもたちがその上から三色(赤・黄色・青色)絵の具で色付けをすると、あららビックリ!蝋燭で描いた線が白く浮かび上がってくる!というものだ。
絵巻物の周囲には風鈴に付ける短冊も飾られている。こちらには子どもたちの願い事が書かれており、将来の夢や、家族の健康など、ささやかな祈りが並んでいる。應典院の自動ドアの横にはパネルの上に風鈴があり、その下にも青空の下、短冊が飾られている。
さて、絵巻物とは本来、情景や物語を連続して表現したものであり、紙芝居の原型とも言われているが、実はこの子どもたちが作った「ろうそく絵巻物」にも物語がある。子どもたちが、浮かび上がった絵や模様を手掛かりに、おはなしづくりに挑戦したのである。まるで古代遺跡を発掘したかのように、子どもたちは顔をキラキラさせながら、絵画の中に無数に広がる物語の可能性を想起していた。
見えない世界を描く意味
このプログラムの狙いについて、應典院主査、パドマエデュケーションセンターのセンター長である齋藤に話を伺ってみた。
「蝋燭で絵を描いても、模造紙の上は真っ白。自分の絵は相手に見えない。また、他の人が何を描いているか分からないところにこのプログラムの良さが光る」と言う。
普段の学校生活では、同じ年齢の子どもたちが教室に集められ、比較され、競争させられ、評価されるという環境下にある。そしていつしか大人からの評価だけでなく、子どもたちの間でも、互いを厳しく評価し、自分がどのように見られているかを過剰に気にするようになってしまうのだ。このような状況で、子どもたちが心から自由でいることは非常に困難である。
應典院で行われているパドマエデュケーションセンターの放課後教育は「心から自由でいられる場所」をひとつの軸にしている。
今回の「ろうそく絵巻物」も、仏壇から持って来た蝋燭から漂う線香の香り、筆に込める力の強さ、絵の具と混ぜる水の量など、あそびを通じて身体の様々な感覚を刺激する。しかし、本当の狙いはそこではない。「心から自由でいられる喜びを知る」、ここにある。
ここでは、学校の評価軸では測れないものを拾い上げる。表情や身体から発せられる驚きや感動はもちろん、怒りや悲しみの感情も一緒に受け止めようという志は、スタッフ全員が一貫して持っている。
そこには仏教の教えがある。仏様に語り掛ける時、私たちは心を開いている。心を開いて耳を傾けるから、その教えが心に響いて来るのだろう。自分自身に素直であれ、ということか。その方が学びは深い。子どもだけではない、大人にも言えることだ。
今、巨大な絵巻物と短冊は、應典院を入ったところにいらっしゃる十一面観音様をぐるりと囲っている。誰にも侵されない自由な心は、観音様に届いているだろうか。また、それにどうお応えになるのだろうか。
私にはどうしても、楽しいお喋りをしているように見えて仕方がないのだ。
インタビュアー/作成:中嶋悠紀子