3月6日~3月15日 木村幸恵個展「CRYSTAL CANOPY クリスタルキャノピー 水晶天蓋」開催いたしました
コモンズフェスタ2012にて、本堂ホールを会場に、木村幸恵さんの個「CRYSTAL CANOPY クリスタルキャノピー 水晶天蓋」が開催されました。東京在住の木村さんは、2回の来寺と大蓮寺での計1週間にわたる滞在制作を経て、本堂ホールの天井いっぱいに広がる作品を完成されました。もともと仏教思想や哲学に関心があったという木村さん。大蓮寺を初めて訪問された際、本堂の天蓋をみてインスピレーションを得たといいます。
これまで、サランラップ等の透明な素材を使って「見える/見えない」の間を彷徨う独特の世界感を追及されてきたのですが、今回はこれまでのテイストとは少し異なる新作を披露いただくことになりました。今回、登場したのはつり糸。これらを精妙に編上げていくことで、極楽浄土をも連想させる、きらめく極上の世界が具現化されます。
使用する素材はいつもシンプル。それが故に、光の加減や設置場所によってマテリアルを丸出しにしたやや武骨な作品にみえてしまうことが葛藤のポイントであるとのこと。今回、何度も光源やライトニングをテストされる姿が印象的でした。
中央にぽっかりと空いた穴の下にたって天蓋を見上げる鑑賞者の感想も多様なものでした。「芥川龍之介の蜘蛛の糸」「宇宙」「マトリックス」などなど。確かに、雨粒を芳醇に貯めこんだ蜘蛛の巣のようでもあり、銀河系をのみこむコスモスのようでもあり、数式や入力信号からなるサイバー仮想空間のようでもあり。個人的には、海底から見上げたときに見える水泡と感得。他方、木村さんは今回の作品では「内側と外側のリバーシブルな状態」を表現されているといいます。「自分にとっての外側は、外側にとっての内側。これって存在の根源的な様相なんですね。」
3月6日に開催されたオープニングトークでは、インディペンデントキュレーター・美術評論家の加藤義夫さんをお招きし、木村さんと秋田住職の3名でクロストークが開催されました。そこで、木村さんは今回のテーマでもある「浄土」についても言及。「私にとって浄土は、真白なイメージ。存在がみえたり真白になったりする世界を描いています。」秋田住職は「今までの作品は上から吊られているイメージ。今回は上昇感を感じます。天蓋とはそもそも仏具のこと、結界という意味なんですね。世俗的なものから上昇しながらも、作品からぶら下がっているもの(簾)はその道中にある生への未練のように感じた。」とコメントされていました。また加藤さんは「いやに美しい光り輝く世界」と表現。「美術とはみえないものを視覚化することが大きな主題。(中略)以前ユウレイの作品をみせていただいたが、今回はいい意味で裏切られた。すぐれた作家は同じものを世に出さない。」と称賛されていました。
また、木村さんは仏教寺院での初めての個展を経て、宗教と芸術の近似性についても再確認されていました。「宗教も芸術も人間を超越した目に見えない世界にギリギリまで近づきながら表象をくみとるもの。(中略)我々(芸術家)が根本的にやりたいと思っていることを、地で行っている場所で個展を開催できたのが非常によかった。」
宗教も芸術も「世界を問う、自明を問う、当たり前をゆるがす」存在。東日本大震災から1年という時期に、あらためて自己を回想し、時空を超え目に見えない存在に祈りを捧げる空間が、ここ應典院に創出された10日間だったのではないでしょうか。