2017/9/26 坂本涼平:「慰霊の空間」読書会 レビュー
應典院寺町倶楽部との協働により、モニターレビュアー制度を試験的に導入しています。9月26日に浄土宗應典院気づきの広場にて開催した「慰霊の空間」読書会。寺町倶楽部会員の汐月陽子さん、秋田光軌主幹の進行で、著作「ゲンロン2」をもとに、天皇制や東日本大震災、伝統仏教における葬儀など、慰霊をめぐって様々に語り合いました。今回は劇作家・演出家の坂本涼平さんにレビューを執筆していただきました。
墓地に臨んで現代の「慰霊」を考える。「人文書DJ」と現役僧侶を囲んだ読書会は、異なる眼差しを持った大人たちが集う、語らいの場だった。
コーディネーターの汐月陽子さんは、大阪・中崎町で「観光」読書会を主催する自称・人文書DJ。読書を通じた出会いの場を持ち、世に数ある「良い本」を「観光する」ように読んで回るという試みを行っている。今回はそのスピンオフ。『ゲンロン2』(東浩紀 編 株式会社ゲンロン 2017)で特集が組まれた「慰霊の空間」が題材ということで、應典院の、墓地を一望できる「気づきの広場」で開催された。
筆者は、いわゆる読書会というものに参加するのは初めてである。今回は前述の批評書約100ページ分が対象。もちろん参加には読了が前提とされる。実は、筆者は直前になんとか読み終えての参加だった。課題図書が批評書なだけに、一言一句に目を配り、付箋を貼って参考文献を引いてといった「読み込み」が必要だったのではと、やや後ろめたさを感じて会へ向かった。
結果として、そのような気後れは杞憂に過ぎた。汐月さん曰く、この読書会に必ずしも「読み込み」は必要ないとのこと。それこそ、ふらっと立ち寄るくらいの気持ちで参加して欲しいということで、実際、会の雰囲気は終始和やかなものであった。「世の中の見方が変わったら面白いな。」と、そんな風に読書会の目的を語る汐月さん。こちらのたどたどしい問いや発言にも真摯に、柔らかく受け答えしてくださる姿が印象的だった。
会はまず、課題図書の中の主要なテーマである、「現代の慰霊」を扱った対談に対するコメントから始まった。コメントしてくださったのは現役僧侶であり、應典院主幹の秋田光軌さん。結構辛口のコメントだが、それ故に会場の空気はほころぶ。そうだそうだと言わんばかりに、論の飛躍や、難解に過ぎる点に同意の声が集まる。
次に、参加者それぞれが気になった論点を共有する。参加者は金融関係の方、第二の人生を歩み始めた方、この春大学を卒業したばかりの方など、バラエティ豊か。それぞれが、それぞれの活動領域での視点で、靖国神社や、明治維新以後の天皇制の問題とキリスト教との関連、仏教的な怨親平等のお話に、果ては死者の復活と人間の不死による平等性の実現を謳うロシア宇宙主義者たちの話題まで、「現代の慰霊」とその先にある「個体の死を超えるもの」について論じ合った。
時間の都合もあり、一つの話題について突き詰めるというよりは、次々といろんな視点を楽しむ、といった趣の会ではあったが、筆者のよう読書会入門者にはちょうど良かったかも知れない。ただ、深め足りない、語り足りないという飢餓感は残り、また、語る言葉がひもじくてもどかしいという思いも募る。これは、読書会「沼」にはまってしまうかも知れない。そんな風に感じた二時間だった。
○レビュアープロフィール
坂本 涼平(サカモト リョウヘイ)
劇作家・演出家。1985年大阪生まれ。芸術学修士。研究テーマは「悲劇論」。
2009年に劇団「坂本企画」を立上げ。「ほんの少し、ボタンを掛け違った人間の悲劇に寄り添う」ことをテーマに掲げ、非日常的な世界での静かなセリフのやりとりに、社会に対する寓意をしのばせる演劇を作り続ける。
ロクソドンタブラック(現Oval Theater)主催「ロクソアワード2012」スタッフワーク部門最優秀賞、演出部門三位、総合三位受賞。