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2018/11/22-11/25 白井宏幸:無名劇団『ハマったら出られなくなりまして』レビュー

去る11月22日から25日に、無名劇団『ハマったら出られなくなりまして』(應典院舞台芸術祭Space×Drama×Next2018)が開催されました。人物の精神面の闇と光を繊細に描きつつ、人間とそれぞれの執着について考えさせられる意欲作でした。今回は、ステージタイガー所属俳優の白井宏幸さんにレビューを執筆していただきました。


生まれは平成、中身は昭和(無名劇団さんのツイッターの自己紹介文より)。
去る11月23日、勤労感謝の日、無名劇団さんの「ハマったら出られなくなりまして」を観劇いたしました。わたくしごとではありますが、観劇の際に座席の二つ隣に満月動物園の戒田竜治さんがいらっしゃって声をかけていただきました。「最近レビューの腕上げたね」と。もう少し砕くと、慣れてきて、読み応えが出てきた。そういうありがたい内容でした。額面通りに受け止めて、喜び、背中押されて今後も書いていこうと思いますので、よろしくお願いいたします。折しも、in→dependent theatre 2ndという劇場で(別の劇場さんのお話で申し訳ありませんが)恒例の一人芝居フェスというものがありまして。先ほどの声かけに対して、僕もちょうど前日に拝見した戒田さんが演出し、女優の村井友美さんが出演された一人芝居がとてもよかった事、それはもう役者さんの抱える心の有り様を干からびるまで組み上げたような台本も、演出も、それに答えた役者も、村井さんも。とてもとてもよかったという事。そういった事を伝えたかったんですが、頭の中で考えがまとまらないままに無名劇団さんのお芝居の幕が開き、結局お伝えそびれてしまったのです。

さて、ここからは、無名劇団さんのお話。
無名劇団さんは出演者のみなさんが、受付に立ち、劇場内で座席案内をする劇団さんです。
この先見せるものが何であれ、始まりとおしまいに挨拶を大切にしてる劇団さんなんだろうなと思います。
いらっしゃいませと、ありがとう。
本番が終わった後の俳優さんに会うのは僕は個人的にはとても気恥ずかしくなってしまうんですが、無名劇団さんはあまりそういった感情に気づく事はないです。接しようとしているのがわかるからでしょうか。

姉の死に帰省した妹が、過去の自分や姉に対して持っていたコンプレックスと戦うお話。
ところが実際はそうでもなく、思い込みによって事実は変えられていたり、他人の気持ちはわからないものであって「そう思われている」と思う自分いるというだけだった。という、周囲の状況を描いているようでいながら、終始主人公である妹についてのお話だったように思います。他社なしには自分は存在しえない、という事なのかもしれません。

舞台セットとして作り物の大きな木がありました。それは僕には「変わらないもの」の象徴のように思いました。
10年そこそこなどが、たかが人生の一部分。人間の悩みなってほんの小さなものだという赦しのようにも思えます。
もしも、もしも仮に、それに近いイメージで舞台美術を作っていたのならば、たいしたものです。ほぼ、出演者さん等身大に、みなさんが抱えるような問題を題材にしながら「大人になったらたいした事ないんだよ(大人は大人で迷ったり悩んだりしますけれど)」と、作りながら否定するというアンビバレントな提言をしているのだったらおもしろいなぁというように思い返しています。

自分を取り繕うために、インスタグラム(という携帯電話などから発信するアプリというか、社会の縮図のようなものがあるのです。よく言えば日々の絵日記のようなものでもあり、悪く言えば見栄を張るための居場所のようでもあり、)に見せかけの自分を公開していた妹が、かつての派手な友人がインスタグラムを見る事もなくなっていた事を知った瞬間の表情がとても面白かった。
勝利したような、敵を見失ったような、そもそも何と戦っていたのか。そんな複雑な表情。

少し、その流れで調べてみたのですが「五欲」という仏教用語があるらしく「食欲」「財欲」「色欲」「名誉欲」「睡眠欲」の五つを指すそうです。欲というのは井戸水のごとく発生して仕方のないものだから、うまく肩組んでやっていかなくちゃいけないものなんだそうで。
欲しいものを欲しいという潔さや、好きなものを好きという気持ち。なんとなく嫌な事を理由がないからといって断らない事など。我慢しすぎないバランスというのは本当に難しいものなんだなぁと、この作品を見ていて思いました。

作品の中に「見つめている人」が随所に見られました。
気持ちを打ち明けられずに、見ている事しかできなかった人たち。
そのまま去ってしまって二度と戻ってこなかった人。
そういう「どこにも持っていけない気持ち」というものがそこここに漂っていた作品だなと。
なんで無名劇団さんみたいな人たちがこんな作品作るんだ、って思うようになって、でも結局のところ、彼女ら、彼らは、そもそもそちら側の人間なんだろうなと。光と影とか陰と陽とか、そういう部分で見ると、案外みんな根暗なんだろうな。そんな風に勝手に思っています。どちらがいいとかそういう事ではなくって、楽しい事ばかり考えていてそのしっぺ返しを恐れていたり、ある種我慢強く辛抱強い人たちで、暗いところから見つける光に希望を持っているのかなと、そんな風に考えます。

演劇に限らず、作品って、祈りだったり願いだったり、そういうもののために作られる事があったとなにかで見た事があります。
困難を乗り越える疑似体験、勧善懲悪の物語だとか(こういうものはガス抜きに使われたりもするのかもしれませんが)。
「物語を作るという作業」が作り手の癒しになっているんじゃないかと思う事があります。解消できない気持ちというのは謎って理解して飲み込むしかない。案外、この作品は作り手のための作品であって、お客様に向いたものではないかもしれないなと、思いました。ただ、その過程で作品を見た人が救われる事もあるかもしれない。

ここで、また最初の話題に戻ってくるんですが、僕は戒田さんの作品に関して、うまく頭で考えていなかったので、言葉が出なかったんだと思っています。作品についてあれこれと頭を巡らせていればお話できたのではないかと思います。うまく整理がついていなかったので、そのまま口から流れるままに話すのはどうかと思い、何も言えないままで幕が開いてしまったのだと思っています。

同じ土台に引き合いに出していいものかわかりませんが、「辛い出来事」をなぜ辛いのか、なぜ嫌だったのか、心を頭で考える。言葉で発する、伝える。こういうステップを経て、もどかしい想いだとか辛い出来事を消化していく。それでも消化しきれないものは庭先の置物だと思って付き合っていかないといけない。
理解できるものなら理解する、とき解く、
そういうとりくみが無名劇団さんの根底にあるんだろうなと思いました。

本当は「泉くんがはっちゃけててよかったー」とか「中谷さん、誕生日おめでとー(劇場で誕生日を迎えられたそうです)」と言った事を書いてみたい欲求はあるんですが、読み物にならないじゃないですか。ねぇ。
「褒めてもらいたいという名誉欲」とうまく付き合っていくために、もう少しレビューの描き方を模索していこうと思います。

 

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白井宏幸

おそらく関西小劇場で唯一カンヌ国際映画祭のスクリーンに映った俳優
ステージタイガー所属俳優

SHASEN × ステージタイガー
『スロウステップスマイル ~笑わない少年と家出少女~』

【日時】

2019年2月
2日(土) 19:00~
3日(日) 13:00~ / 17:00~

【会場】
あべのハルカス近鉄本店ウイング館8階 近鉄アート館

【料金】
一般 前売2,500円 当日3,000円
学割 1,000円(大学生含む、要学生書提示)
※ 全席指定席

【特設サイト】
http://st-tg.net/_sp/sss/

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白井宏幸
(俳優、ステージタイガー所属)