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2018/12/7-12/9 白井宏幸:ロイン機関『底なし女とパリの狂人』レビュー

去る12月7日から9日に、ロイン機関『底なし女とパリの狂人』(應典院舞台芸術祭Space×Drama×Next2018)が開催されました。底なし穴から別の世界に降り立った女性と、そこに暮らす動物たちとの交流を通じて、「いのち」の大切さを問うような作品でした。今回は、ステージタイガー所属俳優の白井宏幸さんにレビューを執筆していただきました。


その女は、底の上からやってきた。

本当は恐ろしい丑田童話。
とでも言ってみればうまく言えたことになるんでしょうか。
とても良いお芝居を見たなというのが感想です。
丑田さんの思う「素敵」と僕自身の思う「素敵」とに共通する部分が多かったのでしょう。

物語は色々なものを失った女性の一人語りから始まります。どうしようもなく、大変な状況にある中、明るく生きる女性を劇団鉛乃文檎の武田操美さんが演じます。明るく、隙があり、計り知れない技巧を持ち合わせた素晴らしい女優さんでした。
さて、彼女が失ったものは社会的な色々のもので、失った原因は、些細な自分の虚栄心。
ありがちな事ですね。無配慮な、たった一秒の言葉が相手の位置に血を台無しにすることもあり。
ちょっとした悪意のない言葉に人生ずっと引きずられることもあります。
基本的に実話に基づいた童話的な創作で、創作のシーンが一番リアリティのある緊張したシーンとなっていたのは面白い作りでした。これが作りものであるんですよという、高揚感を与えたところで、突然の死。
我々観客は友人の理不尽な死に立ち会うために必要な、長い時間を共に過ごす形となるのです。
一人の女性が迷い込んだのは穴の中。アリスのごとく穴の中に迷い込んでしまうのです。
動物たちが内職をする小さな事務所。自身が作っている商品の大量生産のお手伝いをしてもらうためなのだ。
そこにいるのは、多様性を抱えた人たち。物語の中では「動物」として表されるが、手先が不自由だったり怒りっぽかったり、間違いなく、不適合者と呼ばれる人たちである。
根気強く製作の方法を模索し、それぞれに教え、得意分野を見つけることで内職の作業は軌道に乗ります。
穴の外からドロップアウトしてきた主人公の目線で、事務所の中の人たちの人間性が描かれます。
みんな一人一人は、ちょっとした問題を抱えておりはするものの、なんとか生きていこうとしている人たちである、と。
演劇的な見方をするならば、大きく物語が動くわけではありませんでした。
なんせ、社会と関わっていないものだから「面白いストーリー」が展開されることは無いんであります。
誰かが困らないと、問題を起こさないと、嫌な人がやってこないと、物語は展開していかないんです。基本的には。
パンフレットに記載のあった内容から察するに、この辺りまでは丑田さんの経験に基づくお話なのでは無いかなと思っています。アフタートークなどを伺っておりませんし、ご本人にもお話を聞いたわけでは無いのですあくまで推測の域を出ませんが。「事実を童話のように描く」といった手法を取られたんでは無いかと思います。
ゆっくりと、日常を描くことで、どんどんと観客である僕は登場人物である動物達の事を「知って」いきます。
共感していくのです。知人であり友人であり、仲間のように錯覚していきます。
物語の中の登場人物に共感していくわけです。
そこで、殿村ゆたかさん演じる一人の職員が、心ない暴力を受けて、死んでしまいます。
穴の外の人間はそれを「ただの動物の死」として、全く問題視しません。
裁判をするにも発言権がなく、何も聞き入れてもらえません。
権利を認められない動物達の怒号の中、物語は幕を降ろします。
あとは、普段から夢見がちだった主人公の女性の「こうあればよかったであろう夢」
どんどんと、強い人たちが弱い人たちを虐げていっているように見えます。
舞台上で、一人亡くなった殿村さんが演じる彼が、もしも自分の家族だったら。
という想像をー僕は思い付いてしまいましたがー恐ろしくて、僕にはできませんでした。
その日もとても寒い日でした。

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白井宏幸

おそらく関西小劇場で唯一カンヌ国際映画祭のスクリーンに映った俳優
ステージタイガー所属俳優

SHASEN × ステージタイガー
『スロウステップスマイル ~笑わない少年と家出少女~』

【日時】
2019年2月
2日(土) 19:00~
3日(日) 13:00~ / 17:00~

【会場】
あべのハルカス近鉄本店ウイング館8階 近鉄アート館

【料金】
一般 前売2,500円 当日3,000円
学割 1,000円(大学生含む、要学生書提示)
※ 全席指定席

【特設サイト】
http://st-tg.net/_sp/sss/

人物(五十音順)

白井宏幸
(俳優、ステージタイガー所属)