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2018/6/23-24 杉本奈月:第2回「縁劇フェス」レビュー

去る6月23日・24日、應典院舞台芸術祭Space×Drama×Next2018オープニングアクトとして、ショートプレイのショーケース型フェスイベント「縁劇フェス」を開催いたしました。「笑い」をテーマに6つの短編演劇作品や、演劇作家・俳優による大喜利・落語などが一挙に楽しめる二日間となりました。今回は作家、N₂(エヌツー)代表の杉本奈月さんにレビューを執筆していただきました。


リニューアルした應典院舞台芸術祭 Space×Drama×Next 2018のオープニングアクトでありながら、昨年は應典院舞台芸術大祭 space×drama スペースドラマ ○(わ)内のイベントであった fes IN fes !!「縁劇フェス」につづく第2回である。そのようにナンバリングをしているから、母体はちがえど、まるで二つは腹ちがいの兄弟のようだと故事つけたくなってしまう。まあ、大人の事情はどうでもいい。應典院はローマ字で outenin と表記され、チラシに表示される out○in のロゴからも明らかであるように、出 out/入 in のあいだに「えん」がある。○ は日本橋に建つ円柱の劇場そのものであるとも、文化都市と地域住民とを架橋する「縁」であるともいえる。わたしが通学路の坂がしんどすぎる大阪のミッションスクールで演劇を始めたのは十五年前、滋賀県山科市の薬科大学へ進学後、関西小劇場に足を踏み入れて七年の月日がたつ。言うまでもなくクスリの害についての知識ばかりを貪っており、芸術系の学校に通っていた演劇サークルにいた……というような出自もないため、演劇人との縁(コネ)がないアウトローな立場としては、どこまでが身内客なのかも、どういったお祭りなのかも、いまいちのみ込めてはいなかった。三十分の演目を一日で六つも観られるコスパの良さには舌をまく。一方、時代と寝るような目論みが半分も見られなかったのには閉口してしまう。

それでも、京都の笑いを贔屓するわけではないが、暗幕を垂らしただけのショーケースにおいて際立っていたのは、努力クラブ『タバタさんの車で連れていってもらう』である。合田団地により怠りなく書かれた戯曲によるところはあるものの「今ここはどこでもない」という空っぽな舞台を愚直なまでに演出として「やってみせて」いたのは非常に大きい。時間の長短にかかわらず、どこにいっても小才がきく劇作家だ。また、三等フランソワーズ『青い恋人たち』は、きっと地球よりも青かったであろう出演者の肌色みたく、とってつけたようなSFのストーリーを「宇宙戦争」だの「(二『星』間の)ディスコミ」だのといった気の遠くなりそうな大それた物語に転化させず、近場でも起こりうる下らない小さなコミュニティのお話として上演していたのが良かった。が、ままある作品だともいえる。縁フェスは「一日で一挙に楽しめる」が売り文句であるが、演劇の笑いはテレビでいうバラエティではなく、大阪のお笑いでもない。少なくとも時間芸術であるからには観つづけるための体力、そして精神力の限界は、どこかで来てしまうものだ。それなりに現役として観劇のためのからだづくりをしていたつもりでいたが、アラサーにもなってくると二十歳前後のときのように、どこもかしこも観に行くといったことはできなくなってくる。他の同世代は平気なのかもしれないが、月初めから月末まで日々、デスクワークづけの日常を送り運動不足に陥っているわたしにはお手あげである。

それにしても、丸山交通公園ワンマンショーを初めて観たが、傑出した一人話芸だった。ステージに化粧っ気などあるはずもないが、飾らず衣を着せず、露骨なまでに「見せられるわけ、ないじゃん?!」がキャッチコピーの映画についてしか語っていないにもかかわらず、あそこまで見せられるのは、はっきり言って凄い。あと、後ろの席でも唾がかかりそうなくらい声がでかい。そういう体なのだろうが、嫌というほど様々な音を拾う本堂であるものの、マイクを捨てたとしても十分に彼一人の喋りが伝わってくるパフォーマンスである。先のゴールデンウィークに、とある京都の劇団で #Me Too があり本人のTwitterのアカウントで見解を示していたときにも、見通しのきいている文章に陰ながら目を瞠っていた。丸山交通公園とは、五、六年ないしは七年くらい前に東山青少年活動センターの稽古場で出会っており、通常はそのくらいの小規模なスペースでワンマンショーをおこなっているという。天性の才というよりも、脚本家、作り手のあるべき姿とはいえ、日常から命がけでネタ仕込みをしているのも目に見えて「わかる」し、それをイキがって表現しないところにも好感がもてる。多少は買いかぶってもいるだろうが、彼は視野の狭い場所よりも、大きくはなくとも広い空間でやっていく方が向いているのではないだろうか。観られてはいないが、2017年は「オール京都」を主宰し演劇公演もしており『沼楽屋大爆発』というタイトルのネーミングにも今更ながら笑えてしまう。おもしろくないわけがない。観ていないけれど。

京都では、男肉 du Soleilしかり、京都ロマンポップしかり、やみいち行動しかり、メジャーマイナーメジャーにかかわらず、どこぞのヤマからまちがってムラへおりてきた半妖、妖怪、怪獣のような先人たちにより、昼も夜もインディペンデントな笑いが立ちあげられている。ある意味では年々、劇場がなくなっていく街をゆうれいが一人歩きしているともいえるのだが、今「大阪の演劇村では、どこがおもしろい?」ときかれると、わたしは口を噤んでしまいかねない……というのが本音である。おなじようなテイストの笑いが十年もつづくと、どうしても舌は飽きてしまうのだ。

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後に、おいしさもアップデートされる夏休みが控えているのだが、休憩中に食べたマンゴーシロップのかき氷が美味だった。ほんとうは、紙パックからそそがれた「いちご」とも内容はおなじなのかもしれない。でも、ほかのスタンダードなフレーバーとはちがい、一つだけガラス製の容器だった。口酸っぱくいえば、初見だからお手柔らかにと求められるより、一見の客だからこそ手堅さが欲しい観劇の日もある。彼のオレンジの液体だって、蜂蜜のように甘ったるくはなかった。それでも生憎、わたしはお一人様で「はじめての縁劇フェス」に来ている。クーラーがきいた千秋楽の客席。座ると手持ち無沙汰になって、A3の冷たいコート紙へ目が行ってしまう。見開きいっぱいのホットピンク。二年前に幕を閉じた space×drama ――ラストイヤーの優秀劇団だった遊劇舞台二月病の単独公演が近隣のウイングフィールドであると耳にしていながら、今日はここにいる。

 

〇レビュアープロフィール

杉本奈月(すぎもとなつき)
作家。1991年生まれ、27歳。N₂(エヌツー)代表。京都薬科大学薬学部薬学科細胞生物学分野藤室研究室4年次中退。「治癒/治療」のあいだに立つ演劇とケアのあり方を見い出しながら「物語の書き手」ではなく「語りの聞き手」として他者とかかわっていく作劇を行う。缶の階(2013-2014)、dracom(2015)にて演出助手。2015年、上演のたびに更新される創作と上演『居坐りのひ』へ従事。第15回AAF戯曲賞最終候補となり「大賞の次点」(地点 三浦基)と評され、ウイングカップ6最優秀賞受賞。第16回AAF戯曲賞『草藁』一次審査通過。2016年、書き言葉と話し言葉の物性を表在化する試み「Tab.」、処女戯曲の翻訳と複製「Fig.」を始動。第9回せんがわ劇場演劇コンクールファイナリスト、若手演出家コンクール一次審査通過、第18回AAF戯曲賞『雲路と氷床/赤裸々』一次審査通過(2018)。おおさか創造千島財団「スペース助成」採択(2019)。

*戯曲提供・上演許可・仕事依頼(執筆/デザイン/出演)についてのご連絡は、gekidann2@gmail.com(N₂)/sugimotonatsuki2@gmail.com(杉本奈月)までお願いいたします。

[ デザインワーク ]https://sugimotonatsuki2.myportfolio.com/
[ 居坐りのひ ]http://www.aac.pref.aichi.jp/syusai/aaf_bosyu15/index5.html|第15回AAF戯曲賞最終候補
[ 遠心、日々の背理 ]http://wing-f.main.jp/hotpress.html|ウイング月刊予定紙「WING HOTPRESS」2016年9月号/http://www.mag2.com/m/0001678567.html|百花繚乱文芸マガジン「ガーデン・パーティ」

*白水社『日本戯曲大事典』https://www.hakusuisha.co.jp/book/b228932.html
*思潮社『現代詩手帖』2018年11月号【特集】演劇に行こう〜越境する言語と身体「Pick up アンケート 山﨑健太選」http://www.shichosha.co.jp/gendaishitecho/item_2178.html

[ 次回公演|N₂ ]http://gekidann2.blogspot.jp/

2019年02月16日(土)~17日(日)カフェムリウイ屋上劇場|Tab.4『磔柱の梨子』作・演出 = 杉本奈月/テキスト・出演 = 鄭婀美 キャメロン瀬藤謙友 [ 主催 ] N₂ 国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2019 TPAMフリンジ参加作品

2019年03月08日(金)~11日(月)CCO ブラックチェンバー|Tab.5『退嬰色の桜』作・演出 = 杉本奈月/テキスト・出演 = 澤井里依 髙道屋沙姫 電電虫子 [ 助成 ] おおさか創造千島財団 [ 主催 ] N₂

[ 次回出演|大阪アーツカウンシル ]https://www.osaka-artscouncil.jp/

2019年01月27日(日)大阪府立江之子島文化芸術創造センター|第一回 大阪芸術文化交流シンポジウム「世代を超えて『演劇』課題を共有できるのか:現代演劇つくり手の視点から」第Ⅰ部「大阪で演劇を続けて行きたい!?」結成10年未満の劇団の理想と現実

 

人物(五十音順)

杉本奈月
(作家・N₂(エヌツー)代表)