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2019/2/13 室屋和美:SDNオープンセサミ【第19回】「ステージタイガーの公開公演稽古」レビュー

去る2月13日(水)、應典院舞台芸術祭Space×Drama×Next2018関連企画「SDNオープンセサミ第19回~ステージタイガーの公開公演稽古~」を開催いたしました。毎月第2・第4水曜日にSDN上演団体が公開稽古やワークショップ、舞台映像の上映会などを企画しています。今回は、劇作家・役者・WEBライターの室屋和美さんにレビューを執筆していただきました。


ステージタイガーさんの稽古レポートの前にちょっとわたくしのたとえ話を
聞いて欲しいのですが、ステージタイガーという劇団はラーメンでいうところの
塩ラーメンだなと思うんです。
いやいやあの熱血の濃ゆ~い感じは「トンコツ」でしょ!
いやいや王道「しょうゆ」でしょ!とおっしゃる方もいるかもしれませんが
まぁ聞いてください。

塩ラーメンってあんがい身近にない気がしませんか?
私が思いつくのはインスタントだと〈サポイチ〉と〈ラ王〉くらいだし、
店頭では「しょうゆ」「みそ」「トンコツ」が主流かなと。
塩ラーメンはタレの材料がシンプルなだけに、豊かな旨味を作るのが難しい。
調味料でごまかしが効きにくく澄んだスープを作るにも根気がいる。
それなりのモノはできても満足できるモノを作るのが困難、実力が
はっきり出てしまうため作り手から敬遠されてしまいがちなのです。

今ラーメンっていろんなやつ出てますでしょ。パイナップルラーメンとか、
トマトラーメンとか。みんな舌が肥えてきて、ラーメンも超飽食時代。
「うまみ」を追求して作り手とグルマンのいたちごっこです。
それをやるのも見るのも楽しいんですけど、
今こそ真剣勝負のすがすがしい塩ラーメン、食べたくないですか?

長い雑談でしたね。本題へ。
2月13日(水)夜。第19回オープンセサミ
「ステージタイガーの公開公演稽古」を拝見してきました。

来たる3月16日(土)大阪・松原市文化会館にて「I CONTACT」という作品を
上演するステージタイガー。その公演に向けての稽古です。
自殺を未然に予防する〈ゲートキーパー〉を題材にした本作は一年越しの再演。
ストイックな稽古をやっていると噂に聞いていますし、キャストが大勢いる
この現場、白熱して面白そうです。実際どんな感じの稽古なんでしょう。

会場は研修室A。19時稽古スタート。
ガラス戸を開けると定員30名のフロアに20名のキャストがギチギチ。
皆さん入念なストレッチをしつつ準備されています。寒い日だというのに
半袖Tシャツ・裸足で過ごす猛者も。そんなキャストたちを腰かけて見守る
10名ほどのお客さま。満員御礼です。わたくしも着席。

稽古冒頭にアミジロウさん・ザキ有馬さん・白井宏幸さんのお三方より
公開稽古についてアナウンス。
ワークショップではないのでお構いできずスミマセン、
入退場自由なのでお好きに過ごしてね、写真撮影OKです!などなど。
そして3月の「I CONTACT」についての補足や宣伝を。刷り上がったばかりの
公演チラシとお菓子をくださいました。(バレンタイン前日で差し入れが沢山)
ありがたい心配りです。

本日は作・演出の虎本剛さんが遅れて来られるということで、
ややトレーニングしっかりめプログラム。(筋トレが普段の倍)
前半戦は〈筋トレ30分〉+〈ストレッチ20分〉+〈発声10分〉の《アップ》。
後半戦は1時間半の《立ち稽古》です。
え~~~トレーニング1時間??長いな~~~~運動部じゃん!

すいません。驚いてしまいました。
私が知らないだけで他所も沢山トレーニングをしているのかもしれません。
でもシアターゲーム(演技力向上を目的としたゲーム感覚の訓練)や
エチュード(即興劇)ではなく身体づくりに特化したアップをしているのは
ステージタイガーの戦略なのでしょうね。というか公演一ヶ月前だし本番前なりの
メソッドかな。かなりメニューが細かく組み立てられています。

まず身体をゆっくり大きく動かしてのラジオ体操。
その後ステージタイガーの「景観」とも言える筋トレ開始。
1分間の〈腕立て伏せ〉〈腹筋〉〈背筋〉〈スクワット〉。
これを1セットとして休憩ナシで2セット。
回数が決まっているわけではなく1分間というルールです。
劇団員も客演さんも皆で同じメニューをこなします。
奥で西川さやかさんが頑張ってるのが見えて拳を握りしめる私。心震える。

その後10種類の腹筋を30秒ずつ×2セット。
腹ばいになって重心移動する訓練〈スローロリス〉を3分ずつ。
ストレッチ、顔面体操、濁流のようなランマイム。
そして〈50音発声〉〈あめんぼ発声〉〈ハミング〉。
うわ~~~運動部じゃん~~~。この人数に目の前でやられるド迫力!

トレーニングが始まり20分もするとガラス戸が熱気で曇ってきました。
皆さん黙々とこなしてるわけじゃないんです。腕立ての最中も、腹筋の最中も
ずっとなんか叫んでるしボヤいてます。
「うおおおおおお」「ぐあああああああ」悲鳴が飛びます。
全員室伏広治。阿鼻叫喚地獄絵図。寺なのに地獄。
フロアには人間の形をした汗の水たまりがあちこち出来ています。

ザキさんがトレーニングしつつ経過時間のカウントをとり。
白井さんは漫然とやらずに意識的にやりましょうと呼びかけ。
アミさんは歯を食いしばりながら昼間行ったマッサージ店で紙パンツを
履いた話をしてる。おもしろい。
誰がリーダーということでもなく、数人が順繰りになって稽古を導きます。
いいなぁチームって感じ。絶対めちゃくちゃしんどいですけど楽しそうです。

アップが終わり、束の間の休憩。
皆ドリンク片手に涼むなか白井さんが「ぷはー、味がなくてうまいなァ」と
プロテインをごくごく飲んでいます。
「ってことは水みたいなモンっすね!」後輩クンが調子よく合いの手。
オイそんなことあってたまるか。ポカリ飲めポカリ。漫画か。
そんな茶番劇を見ていましたら虎本さんが到着。
早速稽古の進行状況を確認してノートパソコンや台本を拡げています。

20時過ぎ、立ち稽古開始です。
再演ということもあるかもしれませんが、稽古3~4日目にしてさっそく
台本を持ったり離したりの立ち稽古をされています。
おそらく台本冒頭からシーン作りをされているのでしょう、初登場の役者が
醸し出す緊張感が現場に漂っています。さきほどの血気盛んなアップと
打って変わりぴりっとした空気。奥で出番を控えている役者たちもそれぞれ
静かに台詞を確認しています。

私は劇作家ではありますが演出は不得手で、今回の稽古見学はまさに
渡りに船でした。ステージタイガーは表現・制作や興行、どの面もスキがない、
手を抜かないプロ集団です。勉強するにはもってこい。
とはいえ正直「走れ~~!根性~~!声出せ~~!!」みたいな愚直な稽古を
想像しておりました(すいません)。でも思ってたのと全然違った。

とにかく虎本さんの演出がすごい。迷いがないです。
演出というより檄(ゲキ)に近い。ピシッ!と小気味よい愛のムチ。
具体的な指示をバンバン飛ばされていてすごく理知的です。
演劇をやらない方は「ちょっと怖い教習所の先生」を想像してみてくださいね。
ちゃんと周り見ろ!車のことを知れ!先を見据えて走れ!アクセル踏むときは踏め!
そういう雰囲気です。

虎本さんはシーンの冒頭には必ず、
「ここにサスが入ってこのタイミングで音楽ドン。下手(しもて)から
上手(かみて)へ走りこんで、そこでセリフ」という風に全体の流れを
説明されてました。もう頭の中に画のフレームがあるのでしょう
会場となる松原市文化会館は客席数500以上の大きな会館です。
演出はその場を想定してスタッフワーク込みの目線。
ただでさえステージタイガーの芝居は展開がスピーディーです。シーン数も
多いためどんどん内容を詰めていきます。

この日の稽古は陸上部の内部分裂を描いたわりとシリアスなシーン。
5~6人の役者が演技スペースに立ちます。
不穏を描くためには、その前提となる朗らかなシーンも大切です。
メリハリをつくるテクはもちろん、演技に向き合う姿勢にも厳しく指示が至ります。

「嘘をつかないで本当の気持ちで台詞を言って」
「セリフを受けて、受け止めて感じて、それから台詞」
「ハイとか返事はエエ!何回も同じ事言わせるな。トライ&エラー、まずトライ!」

アツくなってくる虎本さんと役者陣。
シチュエーションも相まって昔の「ガチンコ!」みたいになってきました。
わたしにとってはこのような緊張感が日常でも、見学のお客さんたちが
サーッと引いてきてるのがわかります。うん、こわいよね。
でもこんな稽古見学に来てくださるくらい熱心なお客様です。
全力本気のステージタイガーを見せること、これが何より彼らの感謝で、
恩義で、ドラマでしょう。これぞオープンセサミの醍醐味。
(でも虎本さんちょっとこわいね。稽古場に竹刀置きましょう、いっそ
ガチンコに寄せていきましょう!)

その後シリアスシーンのあとにはコメディタッチのシーンがやってきて、
全員お腹抱えて笑っちゃうほど楽しい時間が訪れました。個性的な役者たちの
試行錯誤の足取りがたまらないですね。シリアスの土台をしっかり作ってるからこそ
飛び道具的な演技プランも活きてきます。

いまここで、應典院で面白いモノが生まれるんだ!
そのエネルギーが現場に満ち満ちていて本当に幸せな場所でした。
ステージタイガーさん稽古見学させて頂きありがとうございました。
ぜひ皆さまには3月の「I CONTACT」をご覧いただきたいです。

そうそう。
ステージタイガーさんは普段から自劇団で無料での稽古体験・稽古見学を
実施しています。ご興味ある方はぜひ劇団HPをチェックしてみてくださいね。
私も白井さんにかなり誘われてますが、ちょっと体力に自信がないので
またそのうち・・・。

帰り道はラーメンを食べて帰りました。
彼らを見てたらコッテリしたものが食べたくなりますね。見てるだけでも
体力使っちゃうんだもの。あのパワーはほんとすごいな。
私も全力でレビューを書かせていただきました。書いてるうちにどんどん
アツくなっちゃって・・普段の2倍の物量で書いてしまいました。
今度はあっさりした劇団さんを味わいにいきたいな。
どこの劇団が面白そうかな。オススメありましたらまた教えてください。

 

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○レビュアープロフィール

室屋和美(むろやかずみ)

劇作家・役者・WEBライター。1984年兵庫県神戸市生まれ。
近畿大学演劇芸能専攻・劇作理論コース中退。
2012年から『劇作ユニット野菜派』を立ち上げ。
以前は『劇団八時半』『コトリ会議』などに所属。
劇作家の活動として、戯曲「どこか行く舟」がAAF戯曲賞佳作を受賞。
世間のさえない領域で静かに呼吸している小魚のような、ひそやかな人々と
その切実さを好んで描く。

◇近年はご依頼をいただいて劇作をしたり、大喜利や官能小説のイベントに
出演したりしています。趣味はマンガを読むこと、お笑いの舞台を見ること。
いつでもなんでも気軽にお声かけください。

Twitter: @ooiri_muroya

◇活動告知

(1)先日インディペンデントシアター2ndにて、もっとも支持を集めた
30分短編作品の頂点を決める演劇トーナメント「第4回30GP」が開催されました。
そちらのイベントでの出演作品が動画配信サービス「観劇三昧」にて配信中です。

〇第4回30GP S☆J Lab×二朗松田
「屍体は歩かない」脚本・演出:二朗松田(カヨコの大発明)

会員登録後(有料/月額980円で全動画見放題)ご視聴いただけます。
お試しで3分間の無料視聴も可能です。1年間の期間限定配信です、
ぜひご覧ください。他団体さんの作品も面白いですよ!

詳細: https://v2.kan-geki.com/theatre/site/271

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室屋和美
(劇作家・役者・WEBライター)