去る2月22~24日に、東洋企画 winter/spring2019 『偽曲 安寿と厨子王』(應典院舞台芸術祭Space×Drama×Next2018)が開催されました。膨大なセリフを駆使して紡がれた構成のうえに、若々しいエネルギーが放出された舞台でした。今回は、ステージタイガー所属俳優の白井宏幸さんにレビューを執筆していただきました。
東洋くんは、気障だなぁ。
第九回東洋企画『偽曲 安寿と厨子王』をみてまいりました。
とはいえ、まったく信じがたいことにわたくし、山椒大夫を、毛の先ほども通っていなかったのであります。
名前くらいは聞いたことのある、という、そのくらいの持ち合わせで見に行きましたもので。さぁ、笑ってやってください。
とはいえ、お話は、原作など知らなくても楽しめるものでしたし、そういうところに、問題があるということもありません。
あくまでも観客という立場であれば、問題はありませんが、基礎知識に遅れをとるとなると、本当に若い方の能力の高さというものは目をみはるものであると同時に、「年が上である」というだけの根拠のない道徳観に胡座をかくことの怖さを感じずに入られませんでした。
劇中に
物語は、お金も払わずに見に来る評論家のものではなく、お金を払うお客様のものである
といった意味合いのセリフがありましたね。
モニターレビュワーの座談会でも皆々様がおっしゃっていた、例に漏れず、タダでみれるんだなァ、という気持ちで参加してるもので、「痛烈な批判」とはいかないまでも「あんにゃろう、言いやがったな」という気持ちを噛み殺しながらニヤニヤと笑っておりました。東洋くんらしいなぁと。とはいえ、僕個人としては小劇場界隈には「評論家」なるものは存在しないんじゃないかなと、そう言った見識でおりますもので、せいぜい「感想屋」さん程度の気持ちでソフトにラリーが出来るような撃ち返しができればなと思います。
示唆に富んだ台本だったなと思うのです。「幕」「膜」「まく」という概念。向こう側は透けて見えるけれども、こちらとあちらを区別する、あまり明確ではない線引き。そう言ったニュアンスでしょうか。風潮とでもいうのか、そう言った考え方。
ところどころに出てくるのです。考えなしに周りに流されて、最後には不幸になってしまう人や、悪いことをしたり、裏切ったりする人などが「因果応報」バチが当たるようなシーン。
どちらかというと、悪気のない無知の方に鞭を打っておるのですよね、東洋くんは。
例えば、「年寄りは敬われるべきだ」という根拠のない決まりごとを盲信して、準備を怠って不幸になってしまう人だったり、国は国民を守るべきだという、国のなかでいちばんえらいひとが、頭が悪かったり自分勝手だった時の備えのようなものを「してこなかった人間」の因果応報の部分も直に触れてくる。
最初に、気障といったのは、気に障ってくるということで。
良くも悪くも、褒めるもケナすも、外側ではなく、内側の「気」の部分にしっかりと手を伸ばして触ってくるんだなぁという。勇気のある人だなと。
先ほど、「風潮」といったのは、最近であれば「トレンド」といって、 # このマークが付いていれば流行っている、という意味合いでよく使われることがありますね。ただ、それって本当のことなんでしょうかっていうお話で。実際周りにも「バズった」人っているんですが(その方の発言などが、たくさんの人に見られて共感を受けたという意味合いかと理解しています)、よくよく回ってくるのは、たくさん流行った後のものだったりします。存在しない人(偽アカウントというやつですね)がたくさん「いいよねぇ」って言っているふりだけしたそこそこ、それなりに面白いものが、ある程度出回りだしたら、ほんとでも嘘でもそれなりに後は勝手に転がりだしていってしまう。そういう、作られた流行のようなものがあります。
今回の東洋企画さんの中に感じたものは、その流行のスパンが非常に長いものとして風習、とでも言えばいいんだろうか、そういうものが取り上げられていました。「道徳」「正義感」なんとなく自分の心の中にある「当然こうあるべき」と思っていることが案外自分の意思ではないんではないかという問題提起をしてくれていたのです。「道義に基づいた復讐はオッケー!」とか「勧善懲悪は気持ちいいー!」みたいな感覚っていうのは桃太郎あたりから刷り込まれているんだろうなって。「ダメなものはダメなのよ」とか、「見てないとこで悪いことしちゃダメよ」っていうのは浦島太郎だったり、ある程度、物語が人の考え方に介入する余地はたくさんあるわけで。仏教の中でいうのは、僕には知識がなさすぎるのでここでは避けておきますけれど。
これこそ「拾ってきたお話」ですが、鬼ヶ島の鬼が「角の生えなかった子供」を生んでしまったため、(例えばアルビノの)川に流して捨てました。っていうお話が先についていたとしたら、道徳観って一体なんなんだろう、って思いますね。作中でも、世間でもよく言われている「改ざん」というもの。
陰謀論、ということではないですが、疑いなしに飲み込みすぎることに対して警鐘を鳴らしているのだろうな。
そんなふうに思いました。
東洋企画さんは、若くエネルギーのある役者さんがたくさん集まる魅力的な団体なので、
某養成所にいて、いるというだけで芸能の仕事ができるんじゃないかと疑いなしに呑々としていた10代後半を過ごした惚けた僕からひとつ。そこで教わって、今でも結構大事な言葉だなと思っていることを贈ります。
「役者は、死ぬな、風邪ひくな」
突っ走っていってもいいけれど、本当、身体を大事にしてくださいね、と。
白井宏幸
ステージタイガー所属俳優
次回公演
3月16日(土)15時から
ステージタイガー 松原公演「I CONTACT」
会場:松原市文化会館
料金:無料
自殺を防止する「ゲートキーパー」をテーマにしたお芝居に出演します。
昨年度も同会場で上演させていただきましたが、好評をいただき再びの依頼を受けた再演となります。
よろしくお願いいたします。