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2019/3/6  金子リチャード:SDNオープンセサミ第21回「俳優・オフィスワーカーのための~お寺de椅子ヨガ」レビュー

去る3月6日に、應典院舞台芸術祭Space×Drama×Next2018関連企画SDNオープンセサミ第21回「俳優・オフィスワーカーのための~お寺de椅子ヨガ」を開催いたしました。毎月第2・第4水曜日にSDN上演団体が公開稽古やワークショップ、舞台映像の上映会などを企画しています。今回は、劇作家の金子リチャードさんにレビューを執筆していただきました。


 ちゃんと息をする

「はっ、息するの忘れてた」と家でも会社でもよく言っている。
例えば、誤植の許されない資料を作っている時、子供の通園グッズをちまちま縫っている時、應典院のレビューを書いている時(まさに今)。もちろん本当に息をしていないわけではないけれど、集中すると知らない間に酸欠っぽくなっていることがよくある。肩コリや花粉症も影響して「近ごろ息苦しいなぁ」と思っていた折、話をいただいたのが今回の椅子deヨガだった。
仕事帰りにヨガ。なんて、キラキラのオフィスレディになったよう。(実際は花粉症メガネにマスク姿だが)ミーハーな気持ちを高鳴らせて部屋に入ると、スラッと背筋の伸びた先生が出迎えてくれた。ヨガ歴20年、インストラクター歴10年の、たかはしみほ先生。バレエをやっていた時、仲間の急な上達に驚き、その理由がヨガだと知った所からヨガ人生が始まったという。ヨガだけでなく、解剖学や心理学、精神医学なども学んでヨガに取り入れられていて、企業向けのストレス解消ヨガなども開講されているそうだ。(うちの会社にも是非来てほしい)なぜ、椅子deヨガなのか。
“ヨガマットをひいて◯◯のポーズをする”のがヨガの目的ではない、と先生。O脚の人、外反母趾の人、猫背の人・・・色んな体の人がいるけれど、それらを本来の位置に戻し、体の深くから呼吸をして、生活を過ごし良くすることがヨガの目的なのだそうだ。猫背なら、骨盤が寝ていると腹筋がまったく使われず呼吸もままならず脳が酸欠になりたくさん寝ても疲れが取れない・・・まさに今の私!椅子に座って、まずは足の位置を整える。足の人差し指と中指の間に足の中心がくるように、全てを骨格の内側に入れる。だけなのだが、いつのまにか足先や膝が外向きに広がったりして、結構難しい。次に関節を意識する。脚は付け根と先っぽを反対方向に引っ張り合う感じ。脚の付け根は胴体の方に引き寄せ、膝や足首は胴体から離して床を押す方向に。(このとき脚の付け根に手を添えて押してやると引き寄せやすくなる)これで自然と骨盤が立ち、腹筋、中でも下腹部の“丹田”に力が入る。呼吸は鼻呼吸で、肋骨を押し広げるように、息を大きく吸い、大きく吐く。腕も同じように付け根と先っぽの関節を反対方向に離していく。

「はい、足の付け根を引き寄せてー、足首離してー、脇引き寄せてー、手首離してー」
こっちをやればあっちを忘れ、あっちをやればこっちを忘れ・・・。関節をバラバラに動かすという普段やらない動きに脳はフル回転。それでも、先生の言葉の通りに関節を微妙に微妙にモゾモゾ動かしていると、手を上げ、膝を曲げたキツイポーズだったはずが、スッと楽になる体のポジションを見つけられる。なるほど、これが本来の体の位置なのか!

「骨盤を立たせましょう」、じゃなくて、「骨盤につながっている所をなんやかんやして、ここをこう動かしたら自然に骨盤が立っちゃう」。今回教えてもらったヨガは、そういう“理屈”で出来ていた。実はヨガのスピリチュアルな雰囲気にとっつきにくさを感じていたのだが、体の構造を理解して根性論ではなく方法論で目的を達成しようとする、実際のヨガはそんな知的な作業だった。ヨガと解剖学は一見全然違うものだけど、どちらも取り扱うのは同じ身体であり、ある視点で切り取ると解剖学になり、別の切り口だとヨガで表現されるだけなのかもしれない。

たかはし先生から出てくる言葉はポジティブだ。ヨガだけでなく、自分の体を大切にしている人はポジティブな気がする。(ネガティブなヨガの先生とか居るならちょっと見てみたい)
自律神経から呼吸をすると脳に酸素がまわり、これを人は気分がスッキリすると言う。まだ解明されていない部分もあるけれど、身体は細胞や信号で動く物理的なものだと思っている。ただポジティブシンキング!と言われても困るばかりだが、自分の気分が良くなる方法を理屈で知れば、無理なく生活が向上できるかもしれない。よかった、まだまだ前途は明るいぞ。

とはいえ、理屈ばかり言っていても始まらない。
毎日、ちゃんと息をしよう。

 

 

金子リチャード
劇作家。1985年兵庫県生まれ、大阪府在住。
高校時代に劇団「絶頂集団侍士」を旗揚げし、作・演出を担当。以降は神戸を中心に活動し、自主公演の作・演出や脚本提供を行う。
“さっき駅ですれ違った普通の人々”の人生を、日常の一場面や他愛もない会話から描くことが多い。
会社員で一児の母。近頃は仕事・育児・家事の間を行ったり来たりしながら日々の生活を猛進中。
座右の銘は「案ずるより産むがやすしきよし」。得意料理は子持ちカレイの煮付け。