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2019/9/6~9/8 室屋和美:虚空旅団『Voice Training 2019』(應典院舞台芸術祭Space×Drama×Next2019)レビュー

去る9月6日~8日に、虚空旅団『Voice Training 2019』(應典院舞台芸術祭Space×Drama×Next2019)が開催されました。熟練の俳優陣が織りなす、少し困った人々がお互いに話すことで前を向いていく人間ドラマ。 今回は、劇作家・役者・WEBライターの室屋和美さんにレビューを執筆していただきました。


應典院・舞台芸術祭が開幕!ということで。
虚空旅団さんのお芝居をはじめて拝見してきました。「ボイトレ」と呼ばれ好評だった舞台の再演のようです。チラシ掲載のあらすじは以下。

『郊外の町で、廃校を活用して開かれている「話し方教室」。そこには話すことにまつわるさまざまな問題を抱えながらも、弱点を克服できないまま講座に通う生徒たちがいた。ある日、体調不良で講義が続けられなくなった講師の後任として、彼らの前に新たな代理講師が現れる。彼女の厳しい指導に生徒たちは抗議するが、やがて議論は深まり「人前で話すとはどういうことか」を考え始めて…。発声練習に取り組む不器用な人々の姿を通し、コミュニケーションの難しさを描く。』

圧倒的に役者の技術力が高い舞台でした。
これは誰が見ても異論ないように思います。

厳しい講師役を演じた猿渡美穂さん。ピンとした背筋で檄をぴしぴし飛ばしていらっしゃる。いるいる!こういうセンセイいるなぁ。
コールセンターで働く年配女性を演じた飛鳥井かゞりさん。
発声練習で大袈裟な身振り手振り。ぶつぶつ言い訳しつつ同じ失敗を繰り返している。いるなぁ、ワークショップとか必ず一人はいるな、こういうひと。
終末医療で患者さんとの向き合い方に思い悩む女性を演じたのは得田晃子さん。
何度「大きい声で!」と注意しても蚊の鳴くような声。この人もいる。
(しかし得田さんはすごい、なんであんな小声演技で客席の隅々まで台詞が届くのか)

全員書くとキリがないので端折りますがとにかく役者がよいです。
物語の構成としてもそうなのだけど、写実的というか、「あるある」というか、登場人物たちは物語の中でそのままに生きています。風景写真のように。
ドラマチックかと言えばそうじゃないけど、この実直な手触りが好きな人はたまらないのでは。
のび太くん、ドラえもん、ジャイアン、スネ夫って感じでみんな舞台の上にいる。
みんないるなぁと感じさせるのは説得力ある役者たちの力だし、演出の力でしょう。

物語の中で登場人物たちは訓練を重ね、ディスカッションを重ね、わずかな歩みでありつつも前向きな気持ちを取り戻します。
「あなたたちは何をしにきたのですか」と講師に叱られ、「行動することでしか何か得ることはできない」と諭され、訓練自体はうまく行かずとも全員で挨拶を交わすようになったり、世間話をしたり、積極的に意見を述べるようになったり・・と
その気持ちの変化が如実に表れてゆきます。

物語の中で、「演じることは嘘をつくこと」か?という議論があり、その意見交換を興味深く見ました。ここでの「演技」は、幸せでもないのに笑顔でふるまったり、嫌いな人に優しい言葉をかけたり、思ってもいないことを言ったりとかそういうことですね。出てる人皆さんひと癖ある人ばっかりですけど、皆昔は素直な会話を楽しんでいたんじゃないかな。屈折したり、自衛を重ねたりしているうちに自然と身を守るような話しぶりになってしまって。
アパレルお姉さんとお坊さんは違う場所で出会っていれば普通に友達になれてたんじゃないかしら。意外と相性良さそうだ。

まぁお芝居よかったんですけど、面白かったし考えさせられたんですけど、ワンシチュエーションできっちりはっきりよいもの見せていただいたんですけど、
本音を言えば自分は物足りなく感じました。
「話すこと」というのはすごくセンシティブな、人間の根源に関わるような話題だと思うんです。だからこそ舞台として取り上げていると思うのですが。
なのでもっともっと、気持ちをえぐるような、ぞっとする孤独な叫びを聞けると期待してしまった。
でもこの舞台はボイストレーニングの面白さ、ディスカッションの人間模様が際立ち、「団体行動」「社会」というフィルターを介してのことばが主になっている気がするんです。

そりゃもちろんあります!独白の様な苦しいうめき。
私の読み取りが足りないだけかもしれない。
親のことで喧嘩する大迫姉妹のことも、赤い毛布を抱きしめている終末医療の彼女のことも頭をかすめております。彼、彼女たちのさみしさよ。

でも、もっと欲しくて。これは単純に好みの話。
私自身、他者ともっと共感したくて。芝居を通じてさみしくなりたい。
職場の休憩室で、恥ずかしく自意識過剰で、缶ジュースのプルタブが開けられない。
カショッっていうのが恥ずかしい。おはようございますって言えない。
「うざいます」ってちっさい声でしか言えない。何度も何度も滑舌悪くて聞き返されるからとうとうなにも話せない。「は?」って言われたのが辛くて半日寝込んでしまう。
・・そういうことに共鳴できるような、しんどい感情の吐露の芝居が観たい気分でした。
もちろん芝居は面白かったです。いろいろな方にこの芝居を通じて、まさに「言葉」を介して語り合っていただきたい作品でした。
皆さんどんな感想をお持ちなのか、ぜひ個人的に聞かせてもらいたいです。

 

 

○レビュアープロフィール

室屋和美(むろやかずみ)

劇作家・役者・WEBライター。1984年兵庫県神戸市生まれ。
近畿大学演劇芸能専攻・劇作理論コース中退。
2012年から『劇作ユニット野菜派』を立ち上げ。
以前は『劇団八時半』『コトリ会議』などに所属。
劇作家の活動として、戯曲「どこか行く舟」がAAF戯曲賞佳作を受賞。
世間のさえない領域で静かに呼吸している小魚のような、ひそやかな人々と
その切実さを好んで描く。

 

◇近年はご依頼をいただいて劇作をしたり、大喜利や官能小説のイベントに出演したりしています。趣味はマンガを読むこと、お笑いの舞台を見ること。
いつでもなんでも気軽にお声かけください。

Twitter: @ooiri_muroya

 

◇活動告知

(1)突劇金魚さんのリーディング企画〈朗読BAR〉に出演します。
9月28日(土)19時半~開演のコマに出演します。
詳しくは劇団HPをご覧ください。
http://kinnngyo.com/lp/bar/

 

(2)動画配信サービス「観劇三昧」にて、私が作・演出を手掛けたお芝居、「そこはかとなく優しくフィット」の動画が配信中です。
会員登録後〈有料/月額980円で全動画見放題〉ご覧いただけます。
お試しで3分間の無料視聴も可能です。
作品詳細: http://kan-geki.com/member/play.php?id=962

 

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室屋和美
(劇作家・役者・WEBライター)