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2022/10/25 沖田都光:「尼さんに聴く 第1回 ゲスト:篠原多佳さん」を開催しました。

去る2022年10月18日に、初企画「尼さんに聴く」第1回を開催しました。ゲストに、浄土宗良運院の副住職、篠原多佳さんにお越しいただきました。当日の様子を、この企画の担当である應典院職員・沖田都光より報告いたします。

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今回の企画は、大蓮寺應典院の見習い僧侶であるわたし、沖田都光の「先輩尼僧さんのお話をお聴きしたい」という想いからはじめさせていただきました。
大蓮寺應典院と同じ、下寺町の並びにある良運院とは、日頃からも様々な行事などでお世話になっており、篠原さんにもそのような行事において出逢うことができました。男性僧侶に囲まれるなか、紅一点の篠原さんの存在は、とても綺麗で格好良く、強く印象に残りました。その出逢いもあって、この企画の一回目には、ぜひ篠原さんにお越しいただきたいと願ってきましたので、実現を嬉しく思っています。

当日は、篠原さんの過去・現在・未来を、昔の写真を拝見しながら、沖田が聴き手となってインタビュー形式で進めていきました。

良運院は、戦災で燃えた本堂を、現在のご住職が再建されたモダン建築の寺院です。山門を入ると面前に4メートルもの大きなお地蔵様がお祀りされていたり、墓地には、雅楽を世襲してきた家である東儀家の東京にわたる前までの代々のお墓も安置されています。

ひとり娘である篠原さんは、住職であるお父様と、お母様、祖父母のもとで育てられ、近くの公立の小・中・高校と通われました。天王寺区だけでも百ケ寺以上ある地域であるだけに、今でもそうですが、学校にはお寺生まれの子どもは多かったそうです。学校の授業参観にお袈裟姿のお父さん(住職)が来られたというお友達もいたそうで(あとで親子喧嘩になったらしいのですが‥)、そのような環境が当たり前であったため、篠原さんもそれほどお寺生まれであることを気にしたことはなかったそうです。ただ、お父様から「ご飯はまず仏様にお供えしてから食べる」「足を向けて寝ない」「息を吹きかけない」というのは必ず教えられて過ごしてこられました。

大学・大学院と進まれ、その間に加行を受け、浄土宗寺院の住職になれる資格を得られました。3週間を3回にわたって道場に入られるのですが、修行中は、座学やお勤めを次々とやらなければならず、とにかく時間に追われ、体力的に大変なものだったそうです(年齢も性別も区別なく同じことをすべてやります)。修行をともにした女性僧侶のみなさんと、まだ先のことも分からないなか、男性中心の僧侶の世界に対して、少なからず心配していたそうです。

ここで沖田からは、修行生活によってどんなことが変わるのかをご質問させていただきました。篠原さんは「修行中のカリキュラムはあるけれど、大切なのは同じ仲間同士で道場生活を作りあげていくことです。世間のしがらみや情報を遮断して、厳しい修行生活を送るうちに、やはり追い詰められてきます。そのなかで阿弥陀様とはなにかを問われても、分からないというのが本音だとは思いますが、しかしどこかでその存在に向き合う一瞬がそれぞれに生まれてくるものなんです。」と答えられました。修行の日々を過ごしていく中で、生きるということの有難みや、自分の内面が整っていく感覚が芽生えるのかなと感じることができました。

そして、篠原さんは大学院を卒業されたのち、SEとして一般企業で勤められ、その後、結婚し男の子をご出産。もともとは仏教の法式(声明や雅楽などを含む様々な作法のこと)に興味のあったところが、子育てをしていくうちに、仏教を学び、伝えることに関心が移っていったそうです。そして布教師という道に進み、いまは道場での先生の立場にも付かれています。いま振り返ると、ご自身がひとりっこであるため、子育てすることで改めて人と人の関わりの深さを実感し、コミュニケーションについて考えさせられ、そこから仏教へのまなざしが広がっていったのかなと感じておられました。妻であること、母であること、そして仏教者であることは不可分であると仰っていました。

後半も、次々と質問が投げかけられましたが、ひとつひとつを真っ直ぐに受けとり、丁寧にお応えされる篠原さんでした。女性僧侶のこれからについては、時代の流れにより、篠原さんのようにお寺のひとり娘さんがお寺を継ぐという形も珍しくなく、道場での女性修行者も増えているそうです。それに伴い、先生の立場も女性僧侶が担うようになり、篠原さんもそのおひとりです。

良運院のご住職のもとに訪れるお檀家さんたちが「おじゅっさんと話すとなんや気が楽になるわぁ」と帰って行かれる、そんな姿を小さな頃からそばで見てこられた篠原さんは、きっとこれからもご縁を大切に、周りの方と寄り添い過ごしていかれることと思います。当日は、時間に限りもあり、あまり触れられませんでしたが、女性だからこそ話しやすい内容(女性疾患や、生理・周産期に関することなど)もあると思います。これからは、尼僧さん住職、そしてお連れ合いやお子さんだけでなく、いろいろなご縁のある方と、多様な形でお寺を守っていく、そんな未来が広がっていくのかもしれません。

篠原さんの自然で等身大の語りが、じんわりと沁みこんでくるような時間でした。
お越しいただいた皆様本当にありがとうございました。

来月は「おてら終活カフェ 食とグリーフケア~終末期の食事にまつわるお話~」

2022/11/12 🍵おてら終活カフェvol.38🍵「食とグリーフケア~終末期の食事にまつわるお話~」

12月20日には「尼さんに聴く 第2回ゲスト:中田文花さん」を開催します。ぜひお越しくださいませ。