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サリュ 第83号2013年1・2月号

目次

巻頭言
レポート「お寺MEETING vol.19」
コラム 松本紹圭さん(「未来の住職塾」塾長・浄土真宗本願寺派僧侶)
インタビュー 陸奥賢さん(株式会社まちらぼ代表)
編集後記

巻頭言

自己に無益なことおよび不善のことは行いやすい。しかし有益なことおよび善はもっとも行いがたい。

「ダンマパダ」

Report「囲」
お寺は地域と社会の結び目僧侶はその縁結び役に…

お寺に集い、語る場

あまり知られていないかもしれませんが、2010年から、年間2回ほど「お寺MEETING」という事業を実施してきています。これは、應典院寺町倶楽部が事務局を置く應典院と、その本寺である大蓮寺の主催により、僧侶をゲストに現代の課題を語り合うものです。第1回は「ネット世代は、寺院を変えるか」と題し、インターネットを活用した僧侶らの社会活動を取り上げ、Ustreamでも中継されました。第2回は「ホームレス支援」、第3回は「変わる葬送」と、多彩なテーマを取り上げ、当日の内容は本紙「サリュ」の姉妹紙「サリュ・スピリチュアル」偶数号(2号・4号・6号)にまとめられています。

11月9日に開催された第4回のテーマは「非営利組織・お寺のマネジメントを考える」でした。今回は、インターネット寺院「彼岸寺」の活動で知られる松本紹圭さんをゲストに迎え、2011年から取り組み始めた「未来の住職塾」の中間報告を行っていただきました。そうした内容ということもあって、過去の3回は全て研修室Bでの開催でしたが、今回は前述のようにお寺そのものを考える機会ということで、本堂ホールでの開催と、少し趣を変えての実施となりました。とはいえ、ミーティングの名のとおり、参加された方々が顔をあわせ、語り合えるように、設えの工夫もいたしました。

経営学を学んだ僧侶として

松本さんの経歴は、それこそインターネットで検索いただくとして、ここではなぜ、松本さんが寺院経営に関心を向けて来たのか、話題提供いただいた内容をまとめることで紹介することにしましょう。まず、松本さんはお寺の跡継ぎではなかったものの、住職を務めていた祖父、また学生時代に直面した地下鉄サリン事件や新宗教・スピリチュアルブームにより、改めて「価値のあるものを伝える仕事とは」と考えたとき、千年にわたって伝統を継承してきた「中」にいる人には気づいていない価値が仏教界にはある、と仏門に入ることを発意されたとのことです。そして、友人と共に、東京の光明寺でのオープンテラスを企画し、その後には超宗派の僧侶のネットワークによる、インターネット上のバーチャル寺院「彼岸寺(higan.net)」などへと活動の幅を広げました。そうした中、改めて仏教発祥の地であるインドに向かい、経営学の修士、いわゆるMBAをインドにて取得されたのです。

インドから帰国後の2011年に松本さんが始めたのが、全国各地での「未来の住職塾」です。これは「急速に環境が変化する現代社会におけるお寺の役割や運営を専門に学ぶ、超宗派の僧侶養成プログラム」とされ、お寺が持つ質や機能の価値「パフォーマンスバリュー」を追求する場となっているとのこと。当日、コメンテーターを務められた大阪市立大学大学院経営学研究科の山田仁一郎先生も含め、参加者の皆さんからは「どうしたらいいか」といった、言わば「直ぐに現場に活かすノウハウ」としての即物的な問いではなく「なぜ、そうなのか」といった問いが多数寄せられました。松本さんはそうした問いに対し、多様な苦悩に対し「周囲の良い〈縁〉となる人こそが未来の住職」と、お寺と地域ののりしろ役としての僧侶の自覚を促しました。

小レポート

自分感謝祭で

2012年もまた、應典院寺町倶楽部の協力による年末恒例の催し「自分感謝祭」が開催されました。この催しは「應典院」が主催で、通常の事業とは性格を異にします。それは、この「祭」には「祭祀」としての性格があるためです。実際、チラシにも「應典院オリジナルの音楽法要」と掲げられています。

自分感謝祭では、浄土宗の日常のお勤めが行われた後、まず秋田光彦住職から今年一年を振り返る講話がなされます。続いて、オルガンの音が本堂ホールに響く中、参加者が個々で1年のあいだの「感謝」と「懺悔」の思いをカードに綴り、悔やむ思いのみ、鉢にくべられた薪の中に入れていきます。そして終了後は参加者がそれぞれ何に感謝したのかを、持ち寄りの一品を飲食しつつ、語り合います。「これがやってこないと、新しい年を迎えた気がしない」という声もいただき、お世話をさせていただく我々も、新年への準備が整ったように思います。

小レポート

皆で深めたコモンズフェスタ2013

今年のコモンズフェスタ2013では、8名の方々に企画委員として関わっていただくこととなりました。8月から月1回ほどのペースで開催してきた企画委員会議では、お仕事帰りの委員の皆様とお弁当を食べながら、アイデア出しやテーマ決めなど、密な時間を共有してきました。

今回、12月24日の24時間トークに始まり、報道写真家冨田きよむさん写真展、医飾集を考えるトーク、演劇公演、合唱をつくるワークショップ、台湾のビックイシューを紹介する対談など多彩なラインナップに至りました。今年のコモンズフェスタもぜひご参加ください。

小レポート

寺子屋トークの話を他者と深める

内田樹さんと中沢新一さんの対談後、應典院では11月11日に<当日参加者限定>のプログラムとして、「他所との対話を語る会」を開催しました。小雨が降る肌寒い秋の一日でしたが、3名の方と、スタッフ2名を交えて、それぞれどのような部分のお話が心に残ったのか、次への應典院の主催企画へと話がふくらみました。

今年度は、「寺子屋トーク」でゲストから聴いたお話を他者と対話をすることによって、深めてみようという試みを致しました。小さな試みではありますが、今後も大事に「場」を開きたいと思います。

コラム「来」

お寺が日本の未来を開く

『お寺MEETING vol.5』に登壇させていただいた。当日は僧俗ともに大勢の方が参加され、質疑応答も時間が足りないほど多くの質問をいただき、皆さんの“未来のお寺”への思いと期待をその熱気から感じることができた。

これまで私は仲間と共に、お寺カフェ「神谷町オープンテラス」や、超宗派の仏教徒によるインターネット寺院「虚空山彼岸寺(higan.net)」等の活動を通じ、社会と仏教の新たな関係・価値創造を模索してきた。そして2010年にインドのビジネススクールに留学し、自らの活動を体系的に振返り、今後の志を探求する機会を得た。

その学びをもとに2012年5月に立ち上げた「未来の住職塾」では、お寺の本分とは何か?未来を切り開くためにお寺がなすべきことは何か?そのために住職はどうあるべきか?という問いを徹底的に追求している。

加速度的に社会が変化する中、時間をかけて土地に根付き、人々の生き方を見つめ続けたお寺という場において、長期的視野で地域社会のビジョンや人々の生き方(ライフスタイル)を創造・発信することが求められている。そして、その実現には、今日までお寺が生み出してきた価値を正確に再評価し、良いものには磨きをかけ、ないものは創造する姿勢が不可欠となる。

「未来の住職塾」の講義では参加者の熱気が溢れ、「過去を守る場から、未来を創る場へ」と、お寺が日本の未来を開くとの確信を深めている。

『お寺MEETING vol.5』においても、未来の住職塾が、個々のお寺の活性化のみならず、人々の菩提心に火を灯すことを目指していることを、対話から感じていただけたのではないかと思う。

2013年4月からは会場数を増やし、2年目の未来の住職塾を開始する。未来の住職塾を体験するプレセミナーを1月から全国各地で開催していくので、是非ともご参加頂きたい。

松本紹圭(「未来の住職塾」塾長・浄土真宗本願寺派僧侶 )1979年北海道生まれ。本名、圭介。浄土真宗本願寺派光明寺僧侶。蓮花寺佛教研究所研究員。米日財団リーダーシッププログラムフェロー。東京大学文学部哲学科卒業。超宗派仏教徒のウェブサイト『彼岸寺』を設立し、お寺の音楽会『誰そ彼』や、お寺カフェ『神谷町オープンテラス』を運営。ブルータス「真似のできない仕事術」、Tokyo Source「東京発、未来を面白くするクリエイター、31人」に取り上げられるなど、仏教界のトップランナーとして注目される。2010年、南インドのIndian School of BusinessでMBA取得。2012年、若手住職向けに「未来の住職塾」を開講。

Interview「観」

陸奥 賢さん
(株式会社まちらぼ代表)

大阪あそ歩」のプロデューサーとして、
注目を集める「まち」の達人。
次のステージで見据える都市観光の姿とは。

2008年に始まったまち歩きプロジェクト「大阪あそ歩」のプロデューサーとして、約300ものまち歩きコース作成に携わる。「コナモン、お笑い、豹柄のおばちゃん」といった固定化された大阪的イメージではなく、上町台地の夕陽信仰や船場商人の生きざま、近松の心中物を題材にしたまち歩きなど、1500年以上に渡る大阪の歴史文化の面白さを紹介し、その功績が評価されて2012年には観光庁長官表彰を受賞。さらに今夏には「大阪七墓巡り復活プロジェクト」を開始し、2013年1月から始まるコモンズフェスタ2013では企画委員として4プログラムを主催する。

中学卒業と同時に15歳から社会に出て、約60のアルバイトを経験。22歳でフリーランスのリサーチャーとしてテレビ業界に入り、多数の「まちの現場」を取材する。「商店街や工場など、まちを素材に番組をつくる中で、まちは面白い!という発見がありました。ただテレビでは、まちの多様性を捉えきれないし、情報が一方通行すぎるいう限界を感じたんです。」まちをそのまま体感できる何かがあれば…という思いから「まち歩き」という方法論に繋がったという。「要するにまちを楽しむにはまちに出ればいいんです。テレビの視聴者をまちの現場に連れてくればいい。」
しかし、まち歩きを繰り返すに連れて、じつは生きている現在進行形のまちの人たちだけではない、「大阪という都市が抱える無数の死者たちの物語の重要性」にも気づき始めたという。「大阪ほど死者が眠るまちってないんです。物部氏や豊臣政権は滅ぼされ、四天王寺さんは7回も天災や戦災で焼けてます。大阪は何度も焦土になって、そのたびに蘇ってきたまちです。まちには誰も語らなくなった、供養されなくなった無縁の死者たちの物語が無数にある。そういった死者たちの声にも耳を傾ける必要があるのではないか。観光とは光を観ると書きますが、これはつまり闇を認識することです。でも、どうもぼくらは光ばかり語って闇を語っていないのでは?」

そこで「まちと死者」をテーマにした「大阪七墓巡り復活プロジェクト」を主宰し、江戸時代の無縁仏を供養する都市祭礼を約130年ぶりに復活させた。「現代とは知性や感性ではなく『霊性』が必要な時代だと感じています。霊性とは、まちを歩いていても見えない何かを感じる力です。」さらに霊性を鍛えるには2つの方法論があるという。一つめは読経や座禅など「エトス」(型)、二つめは「トポス」(場)。「エトスがない僕のような人間は、例えば『元墓地』というトポスに身を置くことで霊性が鍛えられるんです。単なるまちなかでも、かつては墓地でしたとトポスを伝えると劇的にまちの見え方が変わる。見えるものでしか判断しない世の中だからこそ、想像力で自分の世界を揺さぶられる体験が必要です」。

じつは子どもの頃は母の影響で朝夕に法華経を読んでいたそうで、2012年は仏教と出会いなおした年だったと振り返る。コモンズフェスタでは「まわしよみ新聞」や「葬食」など、まち歩きとは異なるテイストの企画を構想。「『エトス』と『トポス』がリンクしているのが寺院。今回の企画で寺院の聖性について考えたいですね」と意気込む。

編集後記〈アトセツ〉

ふと「ラジオ体操の歌」が思い浮かぶことがある。「新しい朝」は「希望の朝だ」という、あの歌である。歌詞を追うと、進むにつれて周りへの命令口調になっているとも捉えられるが、この出だしだけは表現が異なるように思う。すなわち、発話者の一人称の感情を見て取れるのだ。

そして、新しい年を迎えた。希望の年になれば、と願うところである。ただ、松が明けた頃、関西に暮らす者には、1月になると18年前の1月17日が想い起こされる人もいるだろう。転じて、3月になれば、2年前の3月11日を想起する人も多いだろう。大阪大学の渥美公秀先生が、ある詩の一節を引用して「悲しみが果てることの悲しみ」を訴えるように、なかなか、悲しみは果てない。

そもそも、應典院のコモンズフェスタは1998年の開始当初は秋の催しだった。それが2007年度から冬に移した。会場確保の事情であったが、1月に実施すると、どうしても震災のことを想い起こさずにはいられなかった。それゆえ、昨年には東日本大震災を受けて3月の開催としたものの、今年はまた1月へと戻すこととした。

想い起こすという意味の英語には「remember」が充てられる。再びメンバーにする、とも解釈ができる。想像力というのは無限に広がるもので、そうして想い起こされる過程で、想像の世界で再び結集されるのは、生者のみならず、死者もいる。亡くなった方々と共に、希望の年となることを願うところである。(編)

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