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2017/8/4 坂本涼平:詩の学校・お盆特別編「それから」レビュー

應典院寺町倶楽部との協働により、モニターレビュアー制度を試験的に導入しています。8月4日(金)に上田假奈代さん(特定非営利活動法人こえとことばとこころの部屋代表)進行のもと開催した、NPO法人こえとことばとこころの部屋(ココルーム)主催の詩の学校・お盆特別編「それから」。過去最大の参加人数にて、大蓮寺での秋田住職による法要の後、墓地にて詩作・朗読のワークショップがおこなわれました。今回は劇作家・演出家の坂本涼平さんにレビューを執筆していただきました。


墓地という聖域に踏み込んで、詩を編む。非日常に非日常を掛け合わせたような体験は、自分でも知らなかった価値観を顕わにする、気づきの体験であった。

「詩の学校」は、「NPO法人こえとことばとこころの部屋」の上田假奈代さんが2001年から続けられているワークショップ。普段は月に一度、インタビュー詩や回し書き詩などユニークな方法で詩作を行っているという。しかし、今回は八月の特別編。大蓮寺の墓地で詩作をするという貴重な体験の機会となった。

参加者は、まず大蓮寺にて回向をし、秋田住職による法話と簡単な自己紹介ののち、夜の墓地に足を踏み入れる。小さなろうそくの明かりを頼りに、約30分間の自由散策と詩作。時間になれば一箇所に集い、編んだ詩を各々朗読する。「詩の学校」ではあるが、特別なレクチャーは何もない。ただ、暗闇と、静けさと、都市の喧噪と、自分の心と、もしかしたら死者のささやきに向き合い、言葉を紡ぐ。

正直に言うと、筆者は詩作に非常に困った。まず、縁者が眠るわけでもない墓地を歩き回る、ということへの違和感がぬぐえなかった。まして、暗闇の中である。並んだ墓石の間の、どこをどう踏んで歩いたら失礼にならないのか、そればかり気にしていた。また、本来死者がおだやかに眠るべき場所で、詩作という個人的な活動に耽るというのがどうにも居心地が悪かった。

できあがった詩は人によって様々だった。近しい死者を思うもの。その場で見たもの聞いたものを素朴に綴ったもの。自己の内面と向き合うもの。長さも言葉遣いも十人十色で、それぞれがそれぞれの肉声でもって読み合う。筆者は、その生々しさに、耳をふさぎたくなる瞬間があった。生のままの、手紙のような言葉。そこに表現された思いに触れると巻き込まれてしまいそうで息苦しくさせられた。しかし、言葉を十分に練り、思いを抽象化する行為は、この墓地という場では虚飾に過ぎるのだろう。

そんな風に自分が感じるとは、筆者自身思ってもみなかった。死や死者、墓所への畏敬の念、墓所を「おおやけ」の場所ととらえ、詩作を「わたくし」ごとと見ている意識。そんな、いままで気がつかなかった価値観に出会うことができた。この、詩の技術や読み方を教えるわけではない風変わりな「学校」での、確かな学びがそこにあった。

 

レビュアープロフィール

坂本 涼平(サカモト リョウヘイ)
劇作家・演出家。1985年大阪生まれ。芸術学修士。研究テーマは「悲劇論」。
2009年に劇団「坂本企画」を立上げ。「ほんの少し、ボタンを掛け違った人間の悲劇に寄り添う」ことをテーマに掲げ、非日常的な世界での静かなセリフのやりとりに、社会に対する寓意をしのばせる演劇を作り続ける。
ロクソドンタブラック(現Oval Theater)主催「ロクソアワード2012」スタッフワーク部門最優秀賞、演出部門三位、総合三位受賞。

 

 

人物(五十音順)

秋田光彦
(浄土宗大蓮寺・應典院住職)
上田假奈代
(特定非営利活動法人こえとことばとこころの部屋代表)
坂本涼平
(劇作家・演出家)